自宅を売却しようとしたところ、不動産屋さんから、『昭和初期の抵当権がついているので、抵当権を消さないと売却できない』と言われました。自宅は、もとは祖父名義の家で、相続登記はしてないようです。
不動産登記簿をみないと判断できませんが、簡単な手続きではないと思われます。簡単な事案ですと1ヶ月ほどで手続きは終了しますが、事情が複雑ですと、3ヶ月以上のお時間が必要となります。お急ぎということでしたら、複雑案件にも迅速に対応できる当事務所にご相談ください。

第1 休眠担保とは

 登記記録を調べると、長期間放置された担保権(先取特権・質権・抵当権)の登記を発見することがあります。その中には、明治・大正時代に債権額を10円として登記されているものもあり、当時の物価と現在の物価の違いに驚かされます。

 このような古い担保権を、一般に「休眠担保権」といいます。 担保権は債務が消滅しても登記記録から当然に削除されるわけではなく、登記記録から抹消するには担保権抹消登記を申請する必要があります。しかし、抹消登記の手続きを放置していると、下記で述べるとおり様々な問題が生じます。

 なお、いわゆる「耳登記(耳書き登記・欄外登記)」(登記簿の欄外に「「自農法による買収登記嘱託書綴込帳第○冊第○丁」といった記載がある登記)がある場合は、これは、自作農創設特別措置法により国が買収した土地であり、その際、既存の担保権登記は登記官の職権にて抹消すべきものであったので、その場合は、上記抹消方法によらずに登記官に職権発動を促すことができます。

 

第2 休眠担保の問題点

 休眠担保権の登記は、その登記にかかる権利自体は消滅していると予測されるものですが、この登記が存在するために買い手や金融機関が敬遠し、取引・融資の支障となります。

 具体的には、当該休眠担保権が付着している(1)不動産の売却や、(2)当該不動産を担保として借り入れができなくなります。 なぜ、休眠担保権は、被担保債権が既に完済されて、消滅していると推測できるのでしょうか。それは、返済が滞っている場合には、担保権者が差押えをして強制競売になっているか、もしくは、任意競売がされ担保権の登記は抹消されているからです。また、たとえ未完済の場合であっても、被担保債権の消滅時効や担保権自体の消滅時効の援用により、休眠担保権は消滅していると予測されるからです。

 

第3 休眠担保権の抹消手続きの問題点

 休眠担保権の抹消手続きは、主に下記の事情により、複雑になります。

(1)長い年月が経ち、抵当権者・不動産の所有者が死亡し相続が生じている。

(2)長い年月が経ち、抵当権者・不動産の所有者に行方不明者がいる。

(3)長い年月が経ち、抵当権者(会社)が合併により存在しないが、承継している会社が存在する。

(4)長い年月が経ち、抵当権者(会社)が破産等により存在しない。

 そのため、休眠担保権の抹消登記手続きも長期化し、(1)不動産の売却や、(2)不動産を担保としての借り入れの手続きが、長期間ストップすることになります。

 

第4 休眠担保権の抹消手続きの流れ

■ 担保権者または権利承継者(担保権者等)の行方が分かる場合

1.原則的な抹消方法

(1)原則として、担保権の抹消は、登記権利者(所有権登記名義人)と登記義務者(担保権者)の共同申請で登記手続きを行います。この場合、登記義務者の協力が不可欠となります。つまり、担保権者が行方不明であったり、消滅して法人格が消滅している場合には、共同申請での登記手続きはできません。

(2)すでに所有権登記名義人である設定者(抵当権抹消につき登記権利者)や、抵当権者(抵当権抹消につき登記義務者)に相続が生じている場合 抹消原因が相続より前の場合 所有権登記名義人である設定者につき、相続登記をしなくても、相続人が申請人となって抵当権抹消の登記申請をすることができます。この場合には、保存行為として相続人の一人からでも可能です。申請書には相続人が複数いる場合でも相続人一人を記載して、その人を申請人とすれば足ります。相続証明書は、被相続人が死亡し、申請人がその相続人であることがわかるもので足ります。 抵当権者(債権者)についても、相続を原因として抵当権移転登記をしなくても抹消登記申請はできますが、抵当権者の場合には相続人全員が申請人となる必要があります。これは、担保権の抹消登記において義務者側となるので、抵当権者を保護する必要性があるからです。仮に、この場合、抵当権設定の登記済証(原契約書)がない場合、相続人全員の印鑑証明書の添付や実印の押印が必要となり、本人確認情報の提供をするかもしくは事前通知の手続きによります。

(3)抹消原因が相続より後の場合 所有権登記名義人である設定者(所有者)につき、相続登記をする必要があります。登記簿の乙区欄の抹消につき、甲区欄の登記が要求されるので、注意が必要です。同様に、 抵当権者(債権者)についても、相続を原因として抵当権移転登記をする必要があります。この場合、抵当権移転登記の登記済証が抵当権抹消登記の際に添付する登記済証になるため、抵当権設定の登記済証(原契約書)がない場合でも、印鑑証明書の添付、本人確認情報の提供などは不要となります。ただし、オンライン庁で登記識別情報が通知される場合は、それは申請人にしか通知されないため、相続を原因とする抵当権移転登記の際、相続人全員が申請人として申請しないと、やはり抵当権抹消の際、抵当権設定の登記済証(原契約書)がない場合と同様、申請人とならなかった相続人につき、印鑑証明書の添付、本人確認情報の提供などの問題が生じますので、注意が必要です。

 

2.登記義務者の協力が得られない場合の判決による単独申請

(1)登記義務者(担保権者)の協力が得られない場合、弁済や被担保債権の消滅時効などを主張し、抵当権抹消登記手続を求め裁判所へ訴え提起することになります。そして、勝訴判決(確定証明書付き)を添付して登記権利者の単独申請により抹消登記をします。

(2)抵当権者が行方不明の場合、不在者財産管理人を選任の上、その管理人を相手方(被告)にしたり、公示送達を利用します。抵当権者に相続が生じている場合、訴えの相手方(被告)は相続人全員。判決の抹消原因日付が抵当権者の相続より後の場合は、代位により抵当権移転登記(相続)をしてから抹消登記をする。抵当権者の相続証明書は裁判用と登記用にすべて2部ずつ取得しておきます。 訴額は、下記の①又は②の計算方法の低い方の額になります。

①目的不動産の価額の2分の1
②被担保債権の金額(抵当権において登記された債権額、根抵当権において登記された極度額)

 昭和初期の抵当権などは債権額が通常100円、1000円等と小額なので、その額が訴額となります。 判決で抹消原因がはっきりしていればよいのですが、明確でない場合、判決確定の日を原因年月日として「年月日判決」として登記することができます。 被担保債権の消滅時効を原因として抹消する場合、時効の起算点(弁済日など)が原因日付となり、「年月日時効消滅」となります。この場合、訴訟では、時効の起算点を証する書類が必要となります。時効消滅により、抵当権抹消登記を申請する時の原因日付が「被担保債権の弁済期」になるという根拠は、民法144条、166条1項にあります。というのは、時効の効力は起算日に遡り(民法144条)、その消滅時効の起算日は権利を行使しうる時になるので(民166条1項)、当該債権につき権利を行使しうる時、すなわち「被担保債権の弁済期」から権利がなかったこととなります。よって、「被担保債権の弁済期」が原因日付となります。

 

 ■ 担保権者または権利承継者(担保権者等)の行方が分からない場合

1.除権決定による単独申請

 除権決定による単独申請は、 あまり利用されていないようです。抵当権者が行方不明の場合に利用できるが、公示催告の申立をし、除権判決を得る方法は、時間がかかり、また官報公告費用がかかります。公示催告の添付書類として権利の消滅又は不存在を証明する証拠が必要となります。これは完済証明書や解除証書などが該当します。

 権利の消滅事由が、消滅時効の場合には、「時効期間の起算点を証明するもの」と「消滅時効援用の意思表示をしたことを証明するもの」が必要となります。しかし、通常、そのような書面は存在しません。したがって、権利の消滅事由が、消滅時効の場合には、訴訟を提起します。なぜなら、公示催告の手続きでは、公示催告と同時に、消滅時効援用の意思表示ができないからです。つまり、意思表示の公示送達をした後に、公示催告をすることになり、それなら訴訟を提起した方が手続きとしては簡便になるからです。

 

2.債権証書と最後の2年分の定期金受取証書を提出する方法による単独申請

 債権証書・受取証書を添付する方法は、その書類がない場合が多く、あまり利用されてないようです。

 

3.供託による抹消手続き

 供託による抹消手続きは、実務上よく利用されています。しかし、この供託による抹消手続きは、下記のとおり要件があります。

① 登記義務者が行方不明であること。
② 被担保債権の弁済期から20年を経過していること。
③ 申請書に、被担保債権の弁済期から20年経過した後に債権、利息及び債務不履行によって生じた損害の全額を供託したことを証する書面を添付すること。

 登記の添付書類である行方不明であることを証する書面に関しては、登記義務者の登記簿上の住所宛に受領催告書を送付し(配達証明付郵便)、その不到達であったことを証する書面(もしくは市区町村長発行の住所に居住していない証明書など)でよいとなっています。 もっとも、一般的に、住民票、戸籍簿等の調査、官公署や近隣住民からの聞き込み等相当な探索手段を尽くしても、なお不明であることを要します(民事月報43巻8号)。

 一方、登記研究の質疑応答で「登記義務者が死亡している蓋然性が高い場合でも、登記義務者が登記簿上の住所に居住していないことの証明書の添付があれば、その相続人を確認する必要はない」「登記義務者が死亡し、その相続人が明らかであるにもかかわらず、受領催告書が不到達であったことを証する書面等を添付して登記権利者から抵当権抹消の登記申請があった場合は、受理せざるを得ない」とあります。相続人が分かっている場合は、その相続人については、行方不明の要件にはあたらないためです。

 登記義務者の行方不明には、 相続人が不明の場合も含まれ、その行方不明の相続人につき供託による抹消を適用することはできます。登記研究の質疑応答で相続人が複数の場合において、その一部の者が行方不明であるときは、その者に対する関係では本特例が適用される(その者の法定相続分に応じた債権額を供託したことを証する書面の添付を要する)が、他の相続人に対する関係では共同して又は判決による登記を申請すべきことになる。」

 明治・大正・昭和初期頃の抵当権については、通常、抵当権者(自然人)について相続が生じています。行方不明ということであれば、この簡便な供託による抹消の制度が利用できるが、行方・相続人調査については、司法書士はその調査能力が高いから多くの場合、相続人が判明します。そうすれば供託による抹消の制度が利用できず、しかもその相続が何代にもわたって生じているため、相続人の数が非常に多くなり、抵当権抹消が手間暇・費用のかかるものとなってしまいます。

 抵当権者(担保権者)が法人の場合 抵当権者が法人の場合にも適用がありますが、その法人の登記簿(閉鎖含む)がなく判明しない場合など特殊な事情の場合に適用されます。仮に、その法人が解散・清算結了していたとしても法人の登記簿があり、判明する場合は「行方不明」にはあたりません(通達)。 銀行については、「銀行変遷史データベース」で調べると、判明することが多く、その銀行の閉鎖登記簿も残っていることが多いです。 古い抵当権だけれども抵当権者が合併により存続しているのであれば、上記「原則的な方法」になります。

【参考】

和歌山県会から日司連への照会の抜粋
当会は連合会に対し、下記の事項についての見解を賜りたくご依頼申し上げます。
見解を求める事項

 休眠抵当権の抹消登記について不動産登記法第70条第3項後段を適用して抹消登記の申請をする場合で月報司法書士2012年7月号の懲戒事例のような事情ではない通常の場合、配達証明書付き内容証明郵便による受領催告通知が宛所不明で返戻されたことだけで「登記義務者の所在が知れない」として弁済供託を行った上で登記の申請を行っても問題ないか。もし、それ以上の調査が必要とするのであればどのような調査を必要とするか。

 日司連の回答の抜粋
平成26年1月6日付和司発第398号にて照会のありました標記の件につき、下記のとおり回答いたします。

 不動産登記法第70条第3項後段の規定による権利に関する登記の抹消を申請するには登記義務者が行方不明であることが必要であり、登記義務者が行方不明であるかどうかは、公示送達の要件に準じて、社会通念上注意を尽くすことが必要である旨や、住民票や戸籍簿の調査、官公署や近隣住民からの聞き込み調査等、相当な探索手段での調査が必要である旨の見解があります。
 一方、登記先例によると、上記の申請をするには、登記義務者の行方の知れないことを証する書面を提出しなければならず、この書面は、登記義務者が自然人であるときは、登記義務者が登記簿上の住所に居住していないことを市区町村長が証明した書面又は登記義務者の登記簿上の住所にあてた被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面で差支えなく(昭和63 年7 月1 日民三3456 号民事局長通達)、その被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面は、配達証明付郵便によることを要する(昭和63 年7 月1 日民三3499 号民事局長通達)とされており、その後、これらの登記先例は変更されていません。
 よって、現在の登記実務上は、登記義務者の所在が知れないことを証する情報は、登記義務者が自然人であるときは、配達証明付郵便による登記義務者の登記簿上の住所にあてた被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面で足りると考えます。
照会後段は、前記によりご了知ください。
 なお、前記先例や登記実務は、登記手続に要する資料に関する取扱いであり、当該登記の抹消の申請を受託した司法書士が登記の抹消の申請までに登記義務者又はその相続人が存在していることを知ったときには、被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面が存在している場合であっても、登記義務者又はその相続人の存在を調査する必要があると考えます。ご指摘の懲戒事例(平成24 年5 月16 日甲府地方法務局長)も、そのような考え方によるものと思われます。

 

4.担保権者が消滅しており閉鎖謄本が取得できる場合

 担保権者が消滅しており閉鎖謄本が取得できる場合、①裁判所で法人の「清算人」を選任してもらう方法、②訴えを提起すると同時に、裁判所でその裁判遂行のための法人の「特別代理人」を選任してもらう方法とがあります。

 ①裁判所で法人の「清算人」を選任してもらう方法の場合、その清算人が登記義務者として抹消登記申請をすることになる。このような清算人選任は、(本来、清算人は清算事務全般を担当し、その銀行の清算結了登記を抹消し、清算人の登記をしたりしなければならないのだが、そういうことをせず)便宜上、清算人の権限を「抵当権抹消登記手続きに関する行為のみとする」として、簡便な手続がなされる。抵当権抹消登記には、その裁判所の清算人決定書と銀行の清算結了済みの閉鎖登記簿謄本が添付書類となる。この手続の問題点は、予納金の費用が50万~100万円ほど必要であり、なおかつ、消滅時効等を原因で抹消する場合には、別途訴訟が必要になるということです。

  ②担保権者の法人を被告とし、被担保債権の消滅時効などを理由に、抵当権の抹消登記手続きを求める訴えを裁判所へ提起し、上記と同様に法人の代表者(清算人等)が死亡しているなど不明な場合は、法人の特別代理人を裁判所で選任してもらい、裁判をし、その勝訴判決で抹消登記をすることができます。この手続での予納金の費用は10万円ほどになるようです。

 訴えの提起に際に、必要となる書類は、(1)訴状、(2)特別代理人選任申立書となります。また、特別代理人候補者を原告側が推薦することができます。特別代理人候補者には、訴訟代理権のある司法書士や弁護士が望ましいでしょう。
 特別代理人候補書を推薦する場合には、上記(1)(2)の書類と併せて、(3)特別代理人の選任推薦書と(4)特別代理人選任承諾書も提出します。また特別代理人として選任されることを前提に(5)報酬放棄書も提出します。報酬放棄書を提出する意味は、裁判所を通して特別代理人の報酬に関する手続きが煩雑なので、裁判所を通さないで特別代理人に直接報酬を渡すためです。
 もっとも、(3)特別代理人の選任推薦書、(4)特別代理人選任承諾書及び(5)報酬放棄書を提出しても、裁判所は、他の特別代理人を選任させることもありますので、特別代理人になってもらう弁護士・司法書士の先生には十分に説明しておきましょう。

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