家族と借金問題

目次【家族と借金問題】

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第１　家族に内緒で借金

夫や親に内緒の借金の返済で苦しい状況です。家族に知られないで何とか返済する方法はないですか？

　家族に内緒のまま返済をする方法や債務整理（「任意整理」「自己破産」「個人再生」「消滅時効」「過払金」）をする方法もありますが，家族に内緒のまま返済を続けることや「債務整理」をすることのは，問題の解決にならないことが多いです。また，安易に借入れすると，「多重債務」に陥る原因ともなりますので，まず一人で悩まずに法律専門家（弁護士・認定司法書士）にご相談ください。

（１）家族に内緒で任意整理

家族に内緒で任意整理をすることは可能ですか？

　家族に内緒で「任意整理」をすることは，家族に内緒で「自己破産」や「個人再生」をすることよりも簡単にすることができます。もっとも，可能であれば，家族に借金を打ち明けた上で，「任意整理」をすることが望ましいです。なぜならば，「任意整理」は借金を無利息で約６０回の分割返済にする債務整理の方法となり，返済総額・毎月の返済額を大幅に減らすことができますが，約６０回分割（つまり５年分割）になることで，返済期間に関しては長くなるからです。

（２）家族に内緒で自己破産

家族に内緒で自己破産をすることは可能ですか？

　家族に内緒で「自己破産」をすることは，可能なことが多いです。もっとも，家族に借金を打ち明けた上で，「自己破産」をすることが望ましいです。なぜならば，「自己破産」の手続では，家計の収支を明らかにした上で，裁判所に対し，その資料を提示し説明をしなければならないからです。

（３）家族に内緒で個人再生

家族に内緒で個人再生をすることは可能ですか？

　家族に内緒で「個人再生」をすることは，サラリーマンの場合には，比較的可能であると言えるでしょうが，個人事業主の場合には，かなり難しいです。したがって，可家族に借金を打ち明けた上で，「個人再生」をすることが望ましいです。なぜならば，「個人再生」の手続では，家計の収支を明らかにした上で，裁判所に対し，その資料を提示し説明をしなければならないからです。

（４）家族に内緒で消滅時効

家族に内緒で消滅時効の援用をすることは可能ですか？

　家族に内緒で「消滅時効」をすることは，家族に内緒で「任意整理」「自己破産」「個人再生」をすることよりも簡単にすることができます。また，「消滅時効」ですので，家族に内緒にしておいた方がよいとも言えるでしょう。

（５）家族に内緒で過払金請求

家族に内緒で過払金の請求をすることは可能ですか？

　家族に内緒で「過払金の請求」をすることは，家族に内緒で「任意整理」「自己破産」「個人再生」をすることよりも簡単にすることができます。もっとも，可能であれば，家族に借金を打ち明けた上で，「過払金の請求」をすることが望ましいです。なぜならば，「過払金の請求」は多くの場合，相手方の業者は，裁判をしないと過払金の返還に応じないからです。

第２　債務整理と家族

（１）債務整理をすると家族に影響がでるか

債務整理をすると，家族の者にどんな影響が出ますか？

　原則として，「借金」は個人責任であり，「債務整理」をしても，家族が「保証人」や「連帯保証人」になっていない限り家族には関係ありません。したがって，①借金等をした本人以外が借金等を支払う義務もありませんし，また，②借金等をした本人が「債務整理」（「任意整理」「自己破産」「個人再生」）をしたからといって家族の「個人信用情報（ブラックリスト）」に事故情報が登録されるということもありません。したがって，他の家族がカードを作ったり，借入れをしたりすることには基本的に影響がありません。

（２）配偶者のDVと債務整理

配偶者がまともに働いてくれなく，また働いても給与を家庭に入れてくれなく，そのことに対し文句を言うと暴力をふるってきます。そこで，私が借金をしてなんとか家計のやりくりをしていますが，債務整理をしたら，このような問題を解決できますか？

　現在の借金に関しては，債務整理（「任意整理」「自己破産」「個人再生」「消滅時効」「過払金」）をすることで解決することができます。しかし，配偶者の暴力については，「債務整理」とは別に解決しなければならない問題です。いわゆるDV 法（配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律）より保護されますが，生命及び身体に重大な危害を受けることが危惧されるような場合には，警察や都道府県や市町村の配偶者暴力相談支援センター（女性センター，福祉相談所などで行っているところもあります。）に早めに相談してみるとよいでしょう。

（３）家族に対する借金等の取立て

子供が借金をしたまま行方不明です。「家族が払え」と取立てが来るのですが，支払義務はあるのですか？放っておくと利子が付いて大変なことになりませんか？

　借金等は個人責任ですので，借金をした債務者本人（「借用書に署名捺印して，金銭を受け取った本人」のことをいいます。）以外の者は，（連帯）保証人でない限り，たとえ家族であるといえども一切の支払義務はありません。
　「家族だから支払え」という取立ては，貸金業法21 条1 項7 号違反ですから，無視して差し支えはありません。無視しても，家族にしつこく取立てが続くようであれば，登録業者が加盟している各都道府県の貸金業協会，貸金業者の監督官庁（金融庁，財務局，都道府県）に苦情を申立てれば，まず止むはずです。もちろん，支払いがなければ利子（「遅延損害金」）は日々増えますが，行方不明の本人に対し，債権者が法的な請求手続き（訴訟，支払督促など）を取らなければ，借金自体も「消滅時効」にかかるのですから，家族が肩代わりする必要は全くありません。もし，「消滅時効」が完成する前に本人が現れた場合には，弁済を始める前に，本人が法律専門家（弁護士・認定司法書士）に「債務整理」について相談した方がよいでしょう。

（４）家族に名義を使われた

両親が私の名義を使用して，勝手にクレジットカードを作成し，使用したみたいです。この場合には，私は支払わなければならないですか？

　法律上の権利義務関係は，原則としてその人の意思に基づき，かつ個々人毎に発生します。このことは，家族間においても同様です。したがって，家族の者が勝手に自分の名前を使って借入をしても，名義を偽って使われた（名義の冒用）事情を説明し，返済に応じられないことを主張すればよい訳です。もっとも，名義を使用されたことについて，印鑑証明や本人確認資料などが提出され，本人の落ち度が認められる場合，民事訴訟上本人が契約したのと同視され，支払い義務を肯定される場合があります。訴訟になった場合などは，法律専門家（弁護士・認定司法書士）に相談するべきです。

配偶者が私の名義を使用して，勝手にクレジットカードを作成し，使用したみたいです。この場合には，私は支払わなければならないですか？

　法律上の権利義務関係は，原則としてその人の意思に基づき，かつ個々人毎に発生します。しかし，夫婦の場合は少し事情が違います。日常生活上の取引においては，夫婦の一方が他方の名義を使うこともありますから，夫婦の一方が他方の名義を偽って使い，取引を行ったような場合でも他の配偶者も一緒に債務の返済を行ってくれるものと信じがちです。そこで，民法も夫婦の場合には一定の要件のもとに，直接取引を行わなかった他の配偶者も一緒に債務の返済を行うべきこと（「日常家事債務に関する夫婦の連帯責任」といいます。）を規定しています。この夫婦の連帯責任について，最高裁判例では，夫婦の一方が第三者と法律行為をした場合，相手方である第三者がその行為が日常家事に関する法律行為であると信じることについて，正当な理由があるときに限り，表見代理の趣旨を類推して夫婦のもう一方に責任が生じるとされています。
　表見代理とは，代理権のない代理行為がなされたとき，本人と自称代理人の間に代理権の存在を推測させる一定の事情があって，本人に責任を負わせてもよいと考えられる場合には，代理権が実際にあったのと同じように取り扱うという制度です。したがって，貸金業者から他方の配偶者の名義で借金をする場合には，業者はその配偶者に問い合わせるなど調査を行うべきであり，これを怠った場合には表見代理は認められず，他方の配偶者の支払義務はありません。

（５）本人の借金の相続

父が借金をしたまま死亡しました。「家族が払え」と取立てが来るのですが，支払義務はあるのですか？

　家族が死亡した場合，何もしなければ相続人に法定相続分に応じて借金の返済義務が生じます。しかし，それぞれの相続人には被相続人の財産と債務を相続するか否かの自由が認められており，相続人は全然相続しないということ（相続放棄）も可能ですし，あるいは相続財産の範囲内で債務も相続して弁済するが，それ以上の債務は相続しないこと（限定承認）も可能です。いずれの方法をとる場合も，原則として家族が死亡したことを知った日（相続人となったことを知った日）から3 カ月以内に被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に相談放棄の申述手続きをとらなければなりません。相続財産を一部でも処分したり，3 カ月以内に家庭裁判所へ上記の手続きをとらなかったりすると，財産と債務とも無条件で無制限に相続されたとみなされますから，注意してください。（【「相続放棄」の窓口】）
　なお，被相続人に債務がある場合でも，過払いになっている場合，債務の相続でなく債権の相続になる場合もあります。「相続放棄」の前に，今一度，「過払金」が発生していないか検討・確認してみるべきです。

相続放棄をしましたが，まだ，父の債権者から取立てがあります。どうすればよいですか？

　死亡した家族が債務超過である場合に，「相続放棄」することによって，財産も取得できない代わりに債務も負担しなくてよいことになり，家族の借金を代わって支払う必要がなくなります。そして，家庭裁判所から郵送されてきた「「相続放棄」の申述受理通知書」のコピーを取立てのあった債権者に送れば取立は止まります。
　なお，相続人のうち誰かが相続の放棄をすると他の相続人が債務を負うことになるので，第一順位の相続人（被相続人の子）が全員相続の放棄をするとともに，次順位の相続人（被相続人の父母・祖父母など，父母・祖父母が亡くなっている場合には，被相続人の兄弟姉妹や兄弟姉妹の子など）に連絡して「相続放棄」の手続きをとってもらうことも必要です。「相続放棄」の手続きは通常１ヶ月程度で終了します。（【「相続放棄」の窓口】）

相続の限定承認とは，どのような手続ですか？

　相続財産に対して債務額が明らかに多い場合は通常，「相続放棄」をとることになり，債務額の見当がつかない場合には「限定承認」をとることもあります。「限定承認」は，財産目録（土地建物などの不動産，動産，預貯金，債務など）を作成する必要があるほか，相続人全員が共同で行わなければなりません。その他，税金については特殊な運用をするため注意が必要になります（【「限定承認」の窓口】）。

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