目次【(要件事実)時的因子と時的要素】
1.時的因子
要件事実を文章で摘示する場合には,「誰々は,いつ,誰々に対し,何々をした」という形式が基本になる。「いつ」というのは,事実を特定するために述べているものである。この「いつの時点の事実か」ということを,一般に「時的因子」とよんでいる。
この,時的因子は,要件事実を特定するにすぎず,要件事実の本質的要素ではない。しかし,同種の法律行為が何度も繰り返し行われることはよくあることであるから,要件事実を特定して摘示するためには,「いつの時点の事実か」を明確に指摘することが必要である。
もっとも,先に述べたように,時的因子は,要件事実の本質的要素ではないため,日付の特定が困難である場合等には,「平成○年○月○日頃」でも,「平成○年○月頃」でも,「平成○年頃」でも,全く記載しなくてもよく,日付の特定手段は,他の手段で代替可能である。
2.時的要素
「時的因子」とは異なり,「いつの時点の事実か」が,要件事実の一部になっていることがある。この要件事実の一部になっている「いつの時点の事実か」を「時的要素」とよんでいる。
たとえば,「時効」は,一定の時の経過によって権利が発生したり消滅したりするが,①取得時効であれは,どの時点から占有を開始し,その時点からどれだけ時が経過したかを主張しなければならず,②消滅時効では,売買代金請求権が10年の経過により時効で消滅したことを主張するのであれば,売買代金請求権が発生した年月日とそれから10年が経過したことを主張しなければならず,それぞれ「いつの時点の事実か」が本質的要素(要件事実)として必要である。
また,事実の認識ないし心理状態(たとえば「悪意」という要件事実)や所有権の妨害状態のように,要件事実が「事実状態」である場合にも,時的要素を明確に示す必要が生じる。たとえば,取得時効における善意・悪意は,占有開始時によって判断されるから,その時点の善意・悪意が問題であり,時的要素として,「占有開始時」に善意・悪意であったことを主張しなければならない。
さらに,特定の事実相互の先後関係が法律効果を発生させる要件になっている場合もある。たとえば,履行遅滞解除の要件事実は,①契約締結の事実(請求原因で主張されていれば改めて主張を要しない),②履行遅滞状態にあること,③履行遅滞後の催告,④催告後の相当期間の経過,⑤相当期間経過後,相手方に対する解除の意思表示とその到達の事実である(民541)。この場合の②→③→④→⑤という事実の時間的流れは,法律要件の一部となっている。したがって,催告後の相当期間の経過前に解除の意思表示がなされても,当該事実は要件事実に該当せず,解除の効果は発生しない。なお,このように時間の前後が時的要素である場合,その前後が明らかになるように事実を主張すれば足り,単に「甲の事実は,乙の事実に先立って(または後れて)生じた」程度に事実を主張することが許される。
上記のように,「いつの時点の事実か」ということが要件事実の一部となっている場合,「時的因子」とは区別して,「時的要素」とよんでいる。時的要素は,要件事実そのものであるため,他の要素によって代替をすることができず,この点で,他の手段で代替可能な時的因子とは異なっている。