この記事では、司法書士の視点から [相続放棄の必要書類] と[必要書類の提出の仕方・順番] と [特別な必要書類など] について分かりやすく解説します。
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相続放棄必要書類一覧表
各相続人の立場や特殊な状況によって必要となる書類の全体像は以下の一覧表の通りです。それぞれについての具体的な取得手順や注意点は、以下のQ&Aで個別に解説します。
| 【全員共通の書類】 | □申述書 □被相続人の住民票の除票 □申述人の戸籍の全部事項証明書 □収入印紙 □予納郵便切手 |
| 配偶者 | □【共通書類】 □ 被相続人の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書 |
| 子ども | □ 【共通書類】 □ 被相続人の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書 |
| 孫(代襲相続人) | □ 【共通書類】 □ 被相続人および被代襲者(親)の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書 |
| 父母・祖父母 | □ 【共通書類】 □ 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍の全部事項証明書など |
| 兄弟姉妹 | □ 【共通書類】 □ 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍、直系尊属の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書など |
| 甥・姪 | □ 【共通書類】 □ 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍、直系尊属および被代襲者(親)の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書など |
| 【特殊事例】3か月経過後 | □ 【通常の必要書類】 □ 事情説明書(または上申書)、債権者からの督促状・通知書等の写しなど |
| 【特殊事例】海外在住者 | □ 【通常の必要書類】 □ 在留証明書(住民票の代わりに提出)、サイン証明書(印鑑証明書の代わりに提出)など |
Q1-1 基本的な必要書類について

《質問》亡くなった方の借金が多く、相続放棄を検討しています。手続きを開始するためには、どのような書類を集める要件がありますか。

《回答》裁判所への申述書、亡くなった方の住民票の除票、申述人の戸籍の全部事項証明書、収入印紙800円分、連絡用の郵便切手を準備する手順となります。専門用語を避け、分かりやすく解説いたします。
注釈
相続放棄の手続きは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所にその旨を申述する要件が定められています(民法第915条第1項本文、民法第938条)。この申述を行うためには、家庭裁判所が被相続人(亡くなった方)と申述人(手続きを行う方)の身分関係、および管轄となる裁判所を正確に把握するための公的な証明書類を添付することが求められます。具体的には、裁判所が指定する書式である相続放棄申述書に必要事項を記入し、被相続人の最後の住所を公的に証明する「住民票の除票」または「戸籍の附票」を準備する手順となります。さらに、申述人が被相続人の正当な法定相続人であることを客観的に証明するため、申述人自身の「戸籍の全部事項証明書(戸籍謄本)」の提出が必須要件となります。これらの書類は、裁判所が法律上の相続関係を確定させるための極めて重要な根拠となります。また、手続きには申述人1名につき800円の収入印紙と、裁判所からの照会書などの連絡に使用される予納郵便切手を納める要件があります。仮に書類の収集に時間を要し、3か月の期限が迫っている場合には、まずは申述書のみを先行して提出し、後日取得可能な戸籍の全部事項証明書などを追完(追加提出)する選択も実務上の仕組みとして認められています。これにより、申述人の権利が不当に制限される事態を回避する配慮がなされています。
表や手続きの流れ:
| 確認事項 | 内容の詳細と法的な意義 | 取得先・準備方法 |
|---|---|---|
| ①相続の放棄の申述(成人) ②相続の放棄の申述(未成年者) | 裁判所指定の申立て用紙であり、申述人の意思表示を記録する文書です。 | 裁判所窓口または裁判所ウェブサイトからの印刷 |
| 被相続人の住民票の除票 | 亡くなった方の最後の住所を証明し、管轄裁判所を特定するための書類です。 | 最後の住所地を管轄する市区町村役場 |
| 申述人の戸籍の全部事項証明書 | 申述人が現在生存していることと、相続権を有していることを示すための書類です。 | 申述人の本籍地を管轄する市区町村役場 |
| 収入印紙(800円分) | 申立てにかかる法定の手数料であり、国に納付する費用です。 | 郵便局または一部のコンビニエンスストア |
| 予納郵便切手 | 裁判所からの照会書や通知書の送付に用いられる実費です。 | 郵便局(金額と内訳は管轄裁判所により異なります) |
【引用条文】
民法第915条第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。民法第938条
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
Q1-2 申立て先の裁判所について

《質問》亡くなった方は遠方に住んでいました。相続放棄の書類は、手続きをする人の家の近くの家庭裁判所に提出してもよいのでしょうか。

《回答》書類は亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出する要件があります。近くの裁判所には提出できませんが、郵送で提出する手順を選択することが可能ですのでご安心ください。
注釈
相続放棄の申述の管轄裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所と法律で厳格に定められています(家事事件手続法第201条第1項)。この仕組みは、被相続人の債権者(お金を貸していた人など)が、誰が相続人となり、誰が相続放棄をしたのかを一つの裁判所で一元的に確認できるようにするための重要な配慮に基づいています。そのため、申述人が被相続人と離れて暮らしており、自身の居住地から遠く離れた場所に被相続人が住んでいた場合であっても、利便性を理由に申述人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行うことは認められていません。しかしながら、遠方であっても直接裁判所の窓口へ出向く必要はなく、すべての必要書類を郵送することによって手続きを進める手順が広く活用されています。郵送での提出を行う場合、戸籍の全部事項証明書など重要な個人情報を含む書類の紛失を防ぐために、簡易書留やレターパックプラスなど、配達記録が客観的に残る手段を選択することが強く推奨されます。また、被相続人が長年行方不明であった等の特殊な事情により、最後の住所地が全く不明な場合には、例外として被相続人の本籍地を管轄する家庭裁判所、あるいは相続財産の所在地を管轄する家庭裁判所に申立てを行うことが可能な規定も存在します(家事事件手続法第201条第2項、同法第4条第2項)。
表や手続きの流れ:
| 手続きの手順 | 詳細な作業内容と留意事項 | 期待される効果と注意点 |
|---|---|---|
| 1. 管轄裁判所の特定 | 被相続人の最後の住所地(住民票の除票に記載された住所)の管轄裁判所を調べます。 | 裁判所の公式ウェブサイトにて管轄区域を正確に確認する手順となります。 |
| 2. 書類の送付準備 | 相続放棄申述書、戸籍の全部事項証明書、収入印紙、予納郵便切手などを一式同封します。 | 予納郵便切手の額は、提出先の裁判所ごとに指定が異なるため事前の確認が必須要件となります。 |
| 3. 郵送での提出 | 郵便局の窓口から、追跡可能な方法(簡易書留など)で発送手続きを行います。 | 普通郵便の利用は避け、裁判所への到達を客観的に証明できる選択をしてください。 |
| 4. 照会書の受領と返送 | 数週間後に裁判所から送付される「照会書」に事実を記入し、速やかに返送します。 | 期限内に返送しない場合、申立ての意思が確認できないとして手続きが進行しない可能性があります。 |
【引用条文】
家事事件手続法第201条
1 相続の承認及び放棄に関する審判事件(別表第一の八十九の項から九十五の項までの事項についての審判事件をいう。)は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
2 前項の規定にかかわらず、限定承認の場合における鑑定人の選任の審判事件(別表第一の九十三の項の事項についての審判事件をいう。)は、限定承認の申述を受理した家庭裁判所の管轄に属する。家事事件手続法第4条第2項
前項の規定にかかわらず、裁判所は、当事者の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地又は事件において定めるべき財産の所在地その他の事情により、事件を処理するために特に必要があると認めるときは、職権で、家事事件の全部又は一部をその管轄に属しない家庭裁判所に移送することができる。
相続放棄の申述の順番と基本的なルール
Q2-1 相続人ではない者が相続放棄できるか

《質問》兄が借金を残して亡くなり、兄の妻は相続放棄をしたそうですが、兄の子は手続きをしていません。弟である私は、現時点で相続放棄できるでしょうか。

《回答》現時点では相続放棄ができません。先順位である兄の子が相続放棄の手続きを完了しない限り、弟であるあなたは法律上の相続人ではないためです。
注釈
相続放棄は、自己が法律上の相続人となったことを知った時から3か月以内に申述を行う要件があります(民法第915条第1項)。配偶者は常に相続人となりますが、血族相続人には法律で厳格な優先順位が定められており、第1順位は子ども、第2順位は直系尊属(父母など)、第3順位は兄弟姉妹となります(民法第887条、第889条、第890条)。先順位の相続人が存在する場合、その後順位の者は法的な相続人ではありません。したがって、ご質問のケースのように第1順位である「兄の子」が相続放棄の申立てを行い、それが家庭裁判所に正式に受理されて初めから相続人でなくなったとみなされない限り(民法第939条)、第3順位である「弟」に相続権は移転しません。そのため、自身が相続人となっていない段階で、家庭裁判所に対して相続放棄の申述を行う手順は認められていません。
表や手続きの流れ:
| 確認事項 | 内容の詳細と法的な意義 |
|---|---|
| 法定相続人の順位 | 第1順位(子)、第2順位(父母等)、第3順位(兄弟姉妹)と厳格に定められています。 |
| 後順位者の地位 | 先順位者が相続放棄を完了するまで、後順位者は法的な相続人ではありません。 |
| 申述の可否 | 自身が相続人となる前に申述を行っても、家庭裁判所に受理されることはありません。 |
【引用条文】
民法第887条第1項
被相続人の子は、相続人となる。民法第889条第1項
次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹民法第890条
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。民法第939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
Q2-2 予め相続放棄できるか

《質問》兄の妻は相続放棄をしましたが、兄の子はまだ手続きをしていません。兄の子が相続放棄をしたときに備えて、弟である私が予め相続放棄できるでしょうか。

《回答》相続人ではない者が、予め相続放棄の手続きを行うことはできません。兄の子の手続きが完了し、あなたが正式に相続人となった後に申述を行う手順となります。
注釈
相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から行うことができる法律行為です(民法第915条第1項)。先順位の相続人(兄の子)が相続放棄の手続きを完了していない段階では、後順位の者(弟)はまだ相続人としての地位を取得していません。法律上、将来的に相続人になる可能性があるという理由だけで、不確定な状態のまま事前に(予め)相続放棄の申述を行うことは認められていません。したがって、まずは先順位の相続人が家庭裁判所で相続放棄の申述を行い、その「相続放棄申述受理通知書」などが発行されて手続きが完了したことを確認した上で、ご自身の熟慮期間(3か月)内に、ご自身の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)などの必要書類を準備して申述を行う手順となります。
表や手続きの流れ:
| 手続きのタイミング | 状況と法的な取り扱い |
|---|---|
| 先順位者の手続き中 | 自身はまだ相続人ではないため、事前に申立てを行う手順は無効となります。 |
| 先順位者の手続き完了後 | 自身が相続人となった事実を知った日から3か月以内に申立てを行う要件が発生します。 |
【引用条文】
民法第915条第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
Q2-3 別順位が同時に相続放棄できるか

《質問》亡くなった方の兄弟姉妹が、亡くなった方の子どもと同時に家庭裁判所へ相続放棄の申述の書類を提出して手続きをすることはできますか。

《回答》同時に手続きを進めることは認められません。先順位である子どもが手続きを完了した後に、後順位である兄弟姉妹が手続きを行う手順となります。
注釈
法定相続人には優先順位が定められており、第1順位が子ども、第2順位が父母や祖父母等の直系尊属、第3順位が兄弟姉妹となります(民法第887条、第889条)。家庭裁判所における相続放棄の実務運用において、先の順位の相続人が存在する場合は、その人の相続放棄の申述が正式に受理されなければ、後の順位の相続人が相続放棄の申述を行うことはできない仕組みとなっています。そのため、第1順位の子どもと第3順位の兄弟姉妹が、全く同じタイミングで家庭裁判所に申述書を提出して同時に手続きを進めることは認められません。必ず、先順位者の手続きが完了し、後順位者に相続権が移転したことを確認した上で、後順位者が自身の必要書類(被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍の全部事項証明書など)を提出して手続きを開始する手順が必須要件となります。
表や手続きの流れ:
| 順位の異なる者の手続き | 詳細内容と法的な意義 |
|---|---|
| 同時申立ての可否 | 認められません。先順位者の受理が完了するまで後順位者は待機する要件があります。 |
| 後順位者の手続き開始時期 | 先順位者の相続放棄が受理され、自身が相続人となったことを知った時からとなります。 |
【引用条文】
民法第887条第1項
被相続人の子は、相続人となる。民法第889条第1項
次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。(中略)二 被相続人の兄弟姉妹
申述人と被相続人の関係別の必要書類の詳細
Q3-1 配偶者の場合

《質問》亡くなった方の配偶者が相続放棄をする場合、共通書類以外にどのような戸籍の書類を集める要件がありますか。

《回答》共通の書類に加え、亡くなった方の死亡の記載がある戸籍の全部事項証明書を集める手順となります。夫婦が同じ戸籍に入っている場合は、1通の書類で兼用することが可能です。
注釈
被相続人の配偶者が相続放棄の手続きを行う場合、配偶者は民法の規定により常に法定相続人となるという特別な地位を有しているため(民法第890条)、追加で求められる身分関係の証明書類は他の親族と比較して少なくなります。前述した共通書類(被相続人の住民票の除票および申述人の戸籍の全部事項証明書)に加えて必要となるのは、被相続人の死亡の事実を客観的に確認するための「被相続人の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書(除籍謄本または改製原戸籍謄本など)」のみです。この書類によって、相続が法的に開始した事実が証明されます。さらに、被相続人と配偶者の本籍地が同一であり、被相続人の死亡によって配偶者がそのまま筆頭者となった戸籍の全部事項証明書を取得した場合、その1通の中に「被相続人が死亡した事実」と「申述人である配偶者が現在生存している事実」の双方が記載されることになります。このケースにおいては、合理的な負担軽減の観点から、1通の戸籍の全部事項証明書を提出するのみで、2つの証明要件を同時に満たす運用が裁判所で認められています。
表や手続きの流れ:
| 配偶者が用意する公的書類 | 取得の目的と法的な意義 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 被相続人の住民票の除票 | 最後の住所地と管轄裁判所を特定するための根拠資料となります。 | 保存期間の経過等により取得できない場合は、戸籍の附票でも代用が可能です。 |
| 申述人の戸籍の全部事項証明書 | 申述人が配偶者であり、現在生存していることを証明するための資料です。 | 発行から3か月以内の最新のものが望ましいと実務上運用されています。 |
| 被相続人の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書 | 被相続人が死亡し、法的に相続手続きが開始したことを証明するための資料です。 | 申述人と同一戸籍に記載がある場合は、1通の書類で兼任する選択が可能です。 |
【引用条文】
民法第890条
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
Q3-2 子どもの場合

《質問》亡くなった方の子どもが相続放棄をする場合、他の相続人である前妻の子どもと連絡を取る要件はありますか。また必要書類は何ですか。

《回答》他の相続人と連絡を取る要件はありません。単独で手続きが可能です。共通の書類と、亡くなった方の死亡の記載がある戸籍の全部事項証明書を用意する手順となります。
注釈
被相続人の子どもは、法律上第1順位の法定相続人として扱われます(民法第887条第1項)。相続放棄は、各相続人が自己の自由な意思のみに基づいて単独で行うことができる一身専属的な法律行為です。したがって、被相続人に離婚歴があり、前妻との間に子ども(異母兄弟姉妹)がいる場合であっても、その方々の同意を得たり、事前に連絡を取り合って手続きの足並みを揃えたりする要件は一切存在しません。ご自身が相続放棄を行うための書類として、共通書類(被相続人の住民票の除票および申述人の戸籍の全部事項証明書)に加え、被相続人の死亡の事実が記載された戸籍の全部事項証明書(除籍謄本や改製原戸籍謄本など)を提出します。なお、ご自身が家庭裁判所で相続放棄の手続きを完了した場合、初めから相続人とならなかったものとみなされ(民法第939条)、結果として他の同順位の相続人(前妻の子どもなど)の相続分が相対的に増加することになります。しかし、法律の仕組み上、家庭裁判所から他の相続人に対して「特定の方が相続放棄をしました」という個別の通知が行われることはありません。そのため、手続きは極めて個人的な手順として完結します。
表や手続きの流れ:
| 第1順位(子ども)の必要書類 | 取得する目的と法的な意義 | 収集における特記事項 |
|---|---|---|
| 被相続人の住民票の除票等 | 管轄となる家庭裁判所の特定を行うための書類です。 | (すべての申述人に共通する書類です) |
| 申述人(子ども)の戸籍の全部事項証明書 | 申述人の生存と、被相続人の実子であることの証明を行うための書類です。 | 手続きの期限に間に合わない場合は、申述後に追加で提出する選択も可能です。 |
| 被相続人の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書 | 相続開始の原因事実である死亡の客観的証明を行うための書類です。 | 同一戸籍の場合は、申述人の戸籍の全部事項証明書1通で兼ねることが可能です。 |
【引用条文】
民法第887条第1項
被相続人の子は、相続人となる。民法第939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
Q3-3 代襲相続人(孫)の場合

《質問》本来の相続人である親がすでに亡くなっており、孫が相続放棄をするための書類は何が必要ですか。

《回答》共通の書類と亡くなった方の戸籍の全部事項証明書に加え、本来の相続人であった親の死亡の記載がある戸籍の全部事項証明書を提出する手順となります。
注釈
被相続人(祖父母など)が死亡した時点で、本来相続人となるはずであった被相続人の子ども(申述人の親)がすでに死亡している場合、その子ども(被相続人の孫)が代わりに相続の権利義務を引き継ぎます。この制度を法律上「代襲相続」と呼びます(民法第887条第2項)。代襲相続人である孫が相続放棄の手続きを行う場合、自分が正当な相続人としての地位を有していることを家庭裁判所に証明する要件があります。そのためには、被代襲者(本来の相続人である親)が「被相続人よりも先に、あるいは同時に死亡していること」を客観的な戸籍記録によって示す必要があります。具体的には、通常の第1順位の相続人が提出する書類(被相続人の住民票の除票、申述人の戸籍の全部事項証明書、被相続人の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書)に加えて、被代襲者(親)の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書(除籍謄本または改製原戸籍謄本など)を追加で提出する手順となります。この連鎖的な身分関係の証明が、代襲相続における手続きの正確性を担保する仕組みとなっています。
表や手続きの流れ:
| 代襲相続人(孫)が追加で用意する公的書類 | 証明する内容と法的な意義 | 取得先の詳細 |
|---|---|---|
| 被代襲者(親)の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書 | 親が被相続人より先に死亡し、代襲相続が発生している原因事実の証明となります。 | 該当する親の最後の本籍地を管轄する市区町村役場への請求となります。 |
| (参考)再代襲相続が発生している場合に追加する書類 | 孫も死亡しており、ひ孫が相続する場合、孫の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書も必要となります。 | 該当する孫の最後の本籍地を管轄する市区町村役場への請求となります。 |
【引用条文】
民法第887条第2項
被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
Q3-4 父母・祖父母(直系尊属)の場合

《質問》子どもが亡くなり、第2順位の相続人である親が相続放棄をするための書類は何が必要ですか。

《回答》共通書類に加え、亡くなった方の出生時から死亡時までのすべての戸籍の全部事項証明書が必要です。先順位である子どもがいないことを証明する要件があるためです。
注釈
直系尊属(父母や祖父母など)は、第1順位の相続人である被相続人の子どもやその代襲相続人(孫など)が存在しない場合、または第1順位の相続人全員が相続放棄の手続きを完了した場合にのみ、順位が繰り上がって法定相続人となります(民法第889条第1項第1号)。そのため、裁判所に対して「自分より先の順位の相続人が存在しないこと」を客観的に証明する要件があります。この「存在しないこと」を証明するための重要な疎明資料として、被相続人の出生時から死亡時までの連続したすべての戸籍の全部事項証明書(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)の提出が必須要件となります。これにより、被相続人に認知した子どもなどが生涯にわたって存在しなかったことを裁判所が確認します。ただし、先順位の相続人(例えば配偶者と子ども)がすでに相続放棄の申立てを行っており、その際にこれらの戸籍の全部事項証明書が同一の家庭裁判所に提出されている場合には、同じ書類を重複して提出する要件はありません。この取り扱いは、後順位の申述人の金銭的および労力的な負担を大幅に軽減するための、家事事件手続き上の合理的な仕組みとして機能しています。
表や手続きの流れ:
| 必要な書類の名称 | 該当する条件 | 取得する意義と目的 |
|---|---|---|
| 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍の全部事項証明書 | 第2順位の相続人が申立てを行うすべての場合において要求されます。 | 被相続人に実子や養子が存在しないことを生涯の記録から確認するためです。 |
| 死亡している被相続人の子どもの出生時から死亡時までの戸籍の全部事項証明書 | 被相続人の子どもが被相続人より先に死亡している場合に要求されます。 | 死亡した子どもにさらに代襲相続人(孫)が存在しないかを確認するためです。 |
| 死亡している直系尊属の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書 | 祖父母が申立てを行う際、父母がすでに死亡している場合などに要求されます。 | より自分に近い世代の直系尊属が死亡している事実を証明するためです。 |
【引用条文】
民法第889条第1項
次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
Q3-5 兄弟姉妹の場合

《質問》兄弟が亡くなり、両親もすでに他界している場合、第3順位の兄弟姉妹が相続放棄をするための書類を教えてください。

《回答》共通書類や亡くなった方の出生から死亡までの戸籍の全部事項証明書に加え、両親等の直系尊属の死亡の記載がある戸籍の全部事項証明書を提出する要件があります。
注釈
兄弟姉妹は法律上第3順位の法定相続人であるため、第1順位(子どもや孫)および第2順位(父母や祖父母などの直系尊属)がすべて存在しない、あるいは全員が相続放棄の手続きをして初めから相続人でなくなった場合に初めて、相続人としての地位を取得する仕組みとなっています(民法第889条第1項第2号)。したがって、第3順位の相続人が手続きを行う際には、これらの先順位者が存在しないことを包括的に証明するために、最も広範な書類を収集する手順が求められます。具体的には、被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍の全部事項証明書(除籍謄本等)により第1順位の子どもがいないことを証明し、さらに直系尊属(両親や、両親が死亡している場合は祖父母)の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書(除籍謄本等)を提出して、第2順位の相続人も存在しないことを証明する要件があります。この書類収集は、複数の自治体にまたがるケースが多く、時間と労力を要するため、熟慮期間(3か月)に間に合わせるための計画的な選択が極めて重要となります。
表や手続きの流れ:
| 先順位者の不在を証明するための公的書類一覧 | 書類の具体的な内容と法的な意義 | 取得先の詳細 |
|---|---|---|
| 第1順位(子)の不在証明 | 被相続人の出生時から死亡時までの連続したすべての戸籍の全部事項証明書です。 | 被相続人の歴代の本籍地を管轄する市区町村役場への請求となります。 |
| 第2順位(直系尊属)の不在証明 | 被相続人の両親(および祖父母)の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書です。 | 該当する直系尊属の最後の本籍地を管轄する市区町村役場への請求となります。 |
【引用条文】
民法第889条第1項
次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
(中略)
二 被相続人の兄弟姉妹
Q3-6 甥・姪の場合

《質問》叔父が亡くなり、甥や姪が相続放棄をするための書類について教えてください。

《回答》兄弟姉妹が提出するすべての書類に加え、本来の相続人であった親(亡くなった方の兄弟姉妹)の死亡の記載がある戸籍の全部事項証明書が必要です。
注釈
甥や姪が相続人となるのは、第3順位の相続人である兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡しており、その子どもが代襲して相続人となるケースに限られます(民法第889条第2項、同法第887条第2項)。この場合、第3順位の兄弟姉妹が負担する極めて重い書類収集の要件をすべて満たした上で、さらに代襲相続が発生している原因事実を客観的に証明する資料を追加する要件があります(平成28年3月31日法務省民二第207号民事局長通達)。すなわち、前述の「被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍の全部事項証明書」および「直系尊属の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書」を完全に揃えた上で、被代襲者(本来相続するはずだった兄弟姉妹であり、申述人の親に該当する人物)が死亡していることを証明するための戸籍の全部事項証明書(除籍謄本等)を、管轄の家庭裁判所に提出する手順となります。このように、甥や姪の相続放棄は収集すべき戸籍の数が膨大となり、手続きの難易度が最も高い分類に属するため、書類の収集を迅速に行う、あるいは不足状態でも申述書を先行して提出する選択が実務上強く求められます。
表や手続きの流れ:
| 甥・姪が申立てる場合に追加で必要となる公的書類 | 証明する内容と法的な意義 | 取得先の詳細と留意点 |
|---|---|---|
| 被代襲者(親・兄弟姉妹)の死亡の記載のある戸籍の全部事項証明書 | 本来の相続人が死亡しており、甥・姪に代襲相続権が移転していることの客観的な証明となります。 | 被代襲者の最後の本籍地を管轄する市区町村役場への請求となります。 |
| (注意点)戸籍の連鎖的な収集に伴う時間的負担 | 数世代にわたる戸籍を遡るため、発行元が全国の複数の役場にまたがる可能性が極めて高いです。 | 郵送請求や広域交付制度を駆使して計画的に収集する手順が求められます。 |
【引用条文】
民法第889条第2項
第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。民法第887条第2項
被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
戸籍謄本や住民票の取得に関する複雑な事象と提出通数のルール
Q4-1 保存期間の経過で住民票の除票が取れない場合

《質問》最後の住所地の役所で、住民票の除票の保存期間が過ぎているため発行できないと言われた場合、どうすればよいですか。

《回答》役所から発行できない旨の廃棄証明書を取得し、裁判所へ提出します。代わりの書類として、死亡の記載がある戸籍の附票などを併せて提出する手順となります。
注釈
相続放棄の管轄裁判所を特定するために、被相続人の最後の住所を証明する「住民票の除票」または「戸籍の附票」の提出が求められます。しかし、住民基本台帳法施行令の改正(令和元年6月20日施行)以前は、住民票の除票および戸籍の附票の法定保存期間はわずか5年と定められていました(旧住民基本台帳法施行令第34条第1項)。そのため、平成26年(2014年)6月19日以前に除票となったものについては、保存期間の経過によりすでに自治体において廃棄されており、写しを取得できない事例が多発しています。この場合、市区町村役場の窓口で事情を説明し、保存期間の経過により交付できない旨を公的に証明する「廃棄証明書(または交付不可証明書)」を発行してもらう要件があります。この廃棄証明書を家庭裁判所に提出することで、必要書類が提出できない理由が申立人の過失ではないことが証明されます。代わりの書類として、本籍地が記載された死亡診断書の写しや、被相続人の所有していた不動産の登記事項証明書など、最後の住所地を合理的に推測できる資料の提出を裁判所から求められる仕組みとなっています。
表や手続きの流れ:
| 住民票の除票が取得できない場合の代替手順 | 具体的な行動と内容 | 注意点と法的な意義 |
|---|---|---|
| 1. 廃棄証明書の請求手続き | 役所の窓口で「保存期間経過による廃棄証明書」の発行を依頼します。 | 交付手数料がかかる場合があります(自治体の条例により異なります)。 |
| 2. 戸籍の附票の取得試行 | 本籍地の役所に「戸籍の附票」が残っていないか確認および請求を行います。 | 住民票と同様の規定により、戸籍の附票も同時に廃棄されている可能性が高いです。 |
| 3. 代替資料の広範な収集 | 裁判所の指示に従い、不動産の登記事項証明書などの関連資料を収集します。 | 管轄裁判所の判断によって有効とされる代替資料が異なる場合があります。 |
| 4. 家庭裁判所への提出 | 廃棄証明書と代替資料を揃えて、相続放棄申述書とともに提出します。 | 事前に管轄と思われる家庭裁判所に連絡し、方針を確認する手順が推奨されます。 |
【引用条文】
旧住民基本台帳法施行令第34条第1項(※令和元年改正前の規定)
市町村長は、住民票の除票を、当該住民票を消除した日又は当該住民票に消除した旨を記載した日から五年間保存しなければならない。
Q4-2 遠方の役所からの書類取得手順

《質問》本籍地が遠くて、直接窓口に取りに行くことができない場合、書類を取得するための手順を教えてください。

《回答》郵送で戸籍の全部事項証明書等を請求する選択が可能です。交付請求書、本人確認書類の写し、手数料分の定額小為替、返信用封筒を役所に送付する手順となります。
注釈
被相続人の本籍地が遠方にある場合、わざわざ現地に出向くことなく、郵送によって戸籍の全部事項証明書(除籍謄本や改製原戸籍謄本を含む)の交付を受けることが戸籍法の規定により認められています(戸籍法第10条の2)。郵送請求を行うための具体的な手順として、各市区町村のウェブサイトから提供されている「戸籍証明書等の請求書」に必要事項を記入し、運転免許証やマイナンバーカードなどの現住所が確認できる「本人確認書類の写し」、郵便局で購入する「定額小為替(ていがくこがわせ)」(戸籍の全部事項証明書は1通450円、除籍謄本等は1通750円の法定手数料分)、および切手を貼付した「返信用封筒」を同封して、本籍地の役所の戸籍担当窓口宛てに送付します。また、令和6年(2024年)3月1日からは戸籍法の一部改正に伴い「戸籍証明書等の広域交付制度」が新たに開始されました(戸籍法第120条の2)。これにより、本籍地以外の最寄りの市区町村役場の窓口でも、被相続人の戸籍の全部事項証明書等を包括的に取得できる選択肢が広がりました。ただし、この広域交付制度は対象者が直接窓口で請求する場合に限られており、郵送による請求や代理人による請求には対応していないため、状況に応じて最適な手段を選択する要件があります。
表や手続きの流れ:
| 郵送請求に必要な同封物 | 具体的な内容と入手方法 | 留意すべき事記事項 |
|---|---|---|
| 戸籍証明書等の請求書 | 請求者の情報、被相続人の本籍・筆頭者、必要な通数などを記載する書面です。 | 各自治体のウェブサイトから印刷して使用する手順となります。 |
| 手数料(定額小為替) | 郵便局の貯金窓口で購入する小切手のような公的な金券です。 | 何通の戸籍が存在するか不明な場合は、多めに同封することが推奨されます。 |
| 本人確認書類の写し | 運転免許証、健康保険証、マイナンバーカード(表面のみ)などの複写です。 | 現住所が記載されている裏面の複写も提出する要件があります。 |
| 返信用封筒 | 請求者の現住所を宛名として正確に記入し、返信用切手を貼付した封筒です。 | 戸籍の重量によって郵便料金が変わるため、切手を多めに同封しておくと安心です。 |
【引用条文】
戸籍法第10条の2
第十条第一項又は前条第一項から第三項までの請求は、郵便その他の主務省令で定める方法によりすることができる。戸籍法第120条の2第1項
第十条第一項の規定により戸籍謄本等の交付の請求をする場合においては、その請求をする者は、その本籍地以外の市町村の市町村長に対し、当該交付の請求をすることができる。
Q4-3 戸籍謄本等の原本提出について

《質問》集めた戸籍謄本や住民票の書類は、必ず原本を裁判所に提出する要件がありますか。手元に残しておきたいのですが。

《回答》現在は運用の変更により、原則として原本の送付は不要となり、コピーの提出で足ります。ただし、裁判所が必要と認めた場合は原本の提出が求められます。
注釈
家庭裁判所における家事事件の手続きにおいて、以前は戸籍の全部事項証明書(戸籍謄本)や住民票の除票などの提出書類は、すべて原本を送付することが厳格に求められていました。しかし、手続きの合理化と申立人の負担軽減を目的とした運用の変更により、現在では原則として、これらの書類は原本から正確に複写されたコピー(写し)を提出することで足りる取り扱いとなっています。これにより、一つの原本を金融機関での預貯金解約手続きや、法務局での相続登記など、他の手続きに使い回すことが極めて容易になりました。ただし、提出するコピーは文字が不鮮明であったり、一部のページが欠落していたりしてはならず、原本と全く同一の形状で正確に複写されている要件があります。また、この取り扱いはあくまで原則であり、事案が複雑である場合や、裁判官が内容の真正を直接確認する必要があると判断した場合には、現在でも例外的に原本の提示または提出を求められることがあります。そのため、裁判所での手続きが完全に終了するまでは、取得した原本を大切に保管しておく手順が強く推奨されます。
表や手続きの流れ:
| 提出書類の形式 | 現在の運用状況と法的な留意点 |
|---|---|
| コピー(写し)の提出 | 現在の原則的な取り扱いです。原本を他の相続手続きに流用することが可能です。 |
| 原本の提示・提出 | 昔は必須でしたが、現在は裁判所が必要と判断した例外的なケースでのみ求められます。 |
Q4-4 重複する戸籍謄本等の提出の要否

《質問》複数の相続人が手続きをする場合、集めた戸籍謄本等の書類の中で、重複(共通)するものは、それぞれが1通ずつ提出する要件がありますか。

《回答》提出する戸籍謄本等のうち、重複(共通)するものは、代表して1通提出すれば足ります。全員が同じ書類を重複して取得・提出する要件はありません。
注釈
複数の親族が同一の被相続人について相続放棄の手続きを行う場合、家庭裁判所に提出する戸籍等の書類のうち、内容が共通する部分については1通を提出すれば足りるという合理的な取り扱いがなされています。たとえば、複数の兄弟姉妹が同時に申立てを行う場合、被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍の全部事項証明書(除籍謄本等)や被相続人の住民票の除票などは、全員に共通して要求される重要な書類です。この場合、各人が個別にこれらの一式を取得して提出する必要はなく、誰か1名が取得したものを提出し、他の申述人はその書類を援用(共通書類として利用)することが認められています。この仕組みは、申述人の金銭的な負担や書類収集にかかる労力を大幅に軽減し、迅速な手続きを支援するための家事事件の運用方針に基づいています。ただし、申述人自身が生存していることを証明する固有の情報である「申述人自身の戸籍の全部事項証明書」は省略できず、ご自身で個別に取得して提出する要件があります。
表や手続きの流れ:
| 提出が要求される書類の種類 | 他の相続人が同時に手続きを行う場合の取り扱い | 提出の要否 |
|---|---|---|
| 被相続人の住民票の除票 | 共通書類として援用(使い回し)が可能な書類です。 | 重複しての提出は不要となります。 |
| 被相続人の出生時から死亡時までの戸籍の全部事項証明書 | 共通書類として援用(使い回し)が可能な書類です。 | 重複しての提出は不要となります。 |
| 申述人自身の戸籍の全部事項証明書 | 申述人ごとに個別のものであり、生存確認と身分関係の証明に必須です。 | ご自身で個別に取得・提出する要件があります。 |
Q4-5 同一の被相続人についての先行事件がある場合

《質問》兄の子がすでに兄の相続放棄を完了しています。妹である私が次に手続きをする際、兄の死亡の記載がある戸籍謄本は再び必要でしょうか。

《回答》先行する手続きの事件で提出済みの戸籍謄本等は不要となります。つまり、兄の死亡の記載がある戸籍謄本を改めて提出する要件はありません。
注釈
同一の被相続人について、他の親族による「相続の承認又は放棄の期間伸長事件」や「相続放棄申述受理事件」が先行して行われている場合、その先行事件ですでに家庭裁判所に提出されている戸籍謄本等(戸籍全部事項証明書、除籍謄本、改製原戸籍謄本など)は、後から手続きを行う者が改めて提出する要件は免除されます。 たとえば、兄の子が先行して相続放棄の申立てを行った際に、被相続人(兄)の死亡の記載がある戸籍の全部事項証明書や住民票の除票をすでに家庭裁判所に提出している場合、後から同じ裁判所に申立てを行う弟は、それらの共通書類を新たに取得する必要はありません。実務上の手順としては、ご自身の相続放棄申述書の中に「被相続人の戸籍等は兄の子の事件(令和〇年(家)第〇〇号)に添付済み」と明確に付記することにより、裁判所が先行事件の記録を参照して共通書類の提出を省略する仕組みとなっています。
表や手続きの流れ:
| 先行事件がある場合の対応 | 具体的な手順と注意点 |
|---|---|
| 共通書類の提出要否 | 先行事件で提出済みの戸籍の全部事項証明書等は提出不要となります。 |
| 申述書への記載 | 先行事件の事件番号や申立人の氏名を申述書に記載し、書類の援用を求めます。 |
| 個別書類の準備 | 申述人自身の戸籍の全部事項証明書は省略できず、個別に提出する要件があります。 |
Q4-6 異なる被相続人の相続放棄を先行または同時に行う場合

《質問》父と母が相次いで亡くなり、それぞれについて同時に相続放棄をします。戸籍謄本は同じなので、父母の死亡を証明する戸籍謄本は1通でよいでしょうか。

《回答》原則として事件ごとに2通必要です。ただし、一方の事件で戸籍謄本のコピーを提出(又は原本還付請求)を行うことで、実質的に1通の提出で済ませる手順も考えられます。
注釈
父についての相続放棄と母についての相続放棄は、被相続人が異なるため、法律上は全く別個の独立した家事事件として取り扱われます。そのため、たとえ父と母が同じ戸籍に入っており、1通の戸籍の全部事項証明書(戸籍謄本)で両名の死亡の事実が証明できる場合であっても、原則として父の事件用と母の事件用にそれぞれ1通ずつ、合計2通の戸籍の全部事項証明書を提出する要件があります。しかしながら、複数通を取得する費用負担を軽減するための選択肢として、一方の相続放棄事件(例えば父の事件)において、戸籍の全部事項証明書の原本とともに正確なコピー(写し)を提出し、「原本還付(げんぽんかんぷ)」の請求を行う手順が考えられます。裁判所による確認後に原本が返却されるため、返却されたその原本をもう一方の事件(母の事件)の申立てに再利用することで、実質的に1通の取得で済ませることが可能となる仕組みです。(なお、現在は原則としてコピーの提出が認められていますが、複数の事件を同時に申し立てる際の具体的な運用については管轄裁判所に確認する要件があります)。
表や手続きの流れ:
| 異なる被相続人の同時申立て | 書類の取り扱いと軽減手順 |
|---|---|
| 原則的な取り扱い | 被相続人ごとに別事件となるため、戸籍の全部事項証明書等は各1通(計2通)必要です。 |
| 原本還付を利用する手順 | 一方の事件で原本還付の手続きを行い、返却された原本をもう一方の事件に流用します。 |
| コピー提出の原則との関係 | 現在はコピーの提出が原則のため、1通の原本から2通のコピーを作成して提出する手順も有効です。 |
熟慮期間の経過と必要書類が集まらない場合の対処法
Q5-1 戸籍謄本等の収集に時間がかかる場合の先行申立て

《質問》兄は結婚離婚を3回しており、戸籍謄本を取得している間に相続放棄の期間(3か月)が過ぎそうです。どうすればよいですか。

《回答》まずは申述書や一部の書類を先行して提出し、申立てを行う手順が考えられます。不足する戸籍謄本等は後日追加で提出することが可能です。
注釈
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内という厳格な熟慮期間内に、家庭裁判所に申述書を提出する要件があります(民法第915条第1項)。被相続人の転籍や婚姻・離婚が多数ある場合、出生から死亡までのすべての戸籍の全部事項証明書(除籍謄本や改製原戸籍謄本を含む)の収集には多大な時間を要し、期限に間に合わないリスクが生じます。このように相続放棄をすること自体は確定しているものの書類が揃わない場合は、期限徒過による単純承認(民法第921条第2号)を回避するため、とりあえず「相続放棄申述書」と、すぐに取得できる「被相続人の住民票の除票」および「申述人の戸籍の全部事項証明書」のみを3か月以内に先行して家庭裁判所に提出し、申立てを受け付けてもらう手順が実務上広く認められています。不足している戸籍の全部事項証明書等については、申述書の中で後日追加提出(追完)する旨を裁判所に申し出た上で、取得でき次第速やかに提出する選択を取ります。
表や手続きの流れ:
| 書類収集が遅延した場合の対処手順 | 具体的な行動と法的な意義 |
|---|---|
| 1. 先行提出の決断 | 3か月の熟慮期間が経過する前に、申述書の提出を最優先する選択をします。 |
| 2. 準備可能な書類の提出 | 申述書、住民票の除票、申述人の戸籍の全部事項証明書など手元にあるものを提出します。 |
| 3. 追加提出(追完)の申し出 | 不足書類があることと、後日提出する旨を裁判所に伝達します。 |
| 4. 不足書類の継続収集と提出 | 役所での手続きを継続し、戸籍の全部事項証明書等が届き次第、直ちに裁判所へ追完します。 |
【引用条文】
民法第915条第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。民法第921条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
(中略)
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
Q5-2 相続財産の調査が終わらない場合の期間伸長

《質問》兄について相続放棄をするか迷っています。戸籍謄本の取得や財産調査をしている間に、相続放棄の期間(3か月)が過ぎそうですが、どうすればよいですか。

《回答》相続放棄をするか決まっていない場合、家庭裁判所に対して相続放棄等の期間の伸長手続きを行うことが考えられます。これにより期限を延長する手順となります。
注釈
相続財産の構成が極めて複雑である、あるいは相続財産の所在地が国内外の遠方に点在している等の理由により、3か月の熟慮期間内に相続財産の状況を調査し切れない場合、あるいは相続放棄をするかどうかの判断自体に迷っている場合、相続人は家庭裁判所に対して熟慮期間の延長を求めることができます(民法第915条第1項ただし書)。 この申立ては正式には「相続の承認又は放棄の期間の伸長申立て」と呼ばれます。期間の伸長を求める場合、単に時間を延長してほしいと口頭や簡易な書面で伝えるだけでは認められず、家庭裁判所が伸長の必要性を判断するための客観的な資料を提出する要件があります。具体的には、「期間伸長の申立書」に加え、基本となる戸籍の全部事項証明書、およびこれまでの財産調査の進捗状況を示す「財産目録」や「金融機関の残高証明書」、「不動産の登記事項証明書」などを添付する選択が一般的です。 なお、この期間伸長の申立ては、当初の「3か月の熟慮期間内」に行うことが法律上の必須要件となります。
表や手続きの流れ:
| 期間伸長申立ての必要書類 | 備考および留意点 | 費用に関する要件 |
|---|---|---|
| 家事審判申立書(期間伸長) | 延長を希望する具体的な期間とその合理的な理由を詳細に記載します。 | 収入印紙800円分(申立人1名につき) |
| 被相続人の住民票の除票等 | 被相続人の最後の住所地を確認し、管轄を定めるための書類です。 | 予納郵便切手(裁判所の規定により異なります) |
| 申立人の戸籍の全部事項証明書 | 申立人が正当な相続人としての利害関係を有していることを証明します。 | (相続放棄の基本手続きと同様の費用体系が適用されます) |
| 相続財産に関する資料(財産目録等) | 調査が完了していない現状を客観的に証明するための疎明資料となります。 | 預金通帳の写しや固定資産税評価証明書などを含める手順となります。 |
【引用条文】
民法第915条第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
Q5-3 3か月の期限が過ぎた場合の例外的な申立て

《質問》亡くなってから半年以上が経過して、突然督促状が届きました。期限が過ぎていますが、手続きをするための書類はありますか。

《回答》財産が存在しないと信じたことに相当な理由がある場合、例外が認められる可能性があります。通常の書類に加え、事情の説明資料を提出する手順となります。
注釈
相続放棄は原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)」に行う要件が法律で定められています(民法第915条第1項本文)。しかし、相続人が被相続人と長年疎遠であり、相続財産(借金などの消極財産を含む)が全く存在しないと信じており、かつそのように信じたことについて客観的にみて「相当な理由」があると認められる場合には、法的な救済を図るための例外的な取り扱いがなされます。最高裁判所の重要な判例によれば、このような特殊なケースにおいては、熟慮期間の起算点が「相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時」へと後ろ倒しされることが明確に示されています(最二小判昭和59年4月27日民集38巻6号698頁)。この判例の基準を満たすことを主張して申立てを行う場合、通常の必要書類に加えて、なぜ3か月以内に手続きができなかったのか、いつどのような経緯で借金の存在を知ったのかを時系列に沿って詳細に記載した「事情説明書」または「上申書」を作成し提出する要件があります。さらに、債権者からの督促状や催告書、訴状など、借金の存在を知った日を客観的に証明する資料の写しを添付することが、裁判所の判断を仰ぐ上で極めて重要となります。
表や手続きの流れ:
| 3か月経過後の申立てで追加が必要な公的・私的資料 | 提出する目的と法的な意義 | 具体的な証拠書類の例示 |
|---|---|---|
| 事情説明書(または上申書) | 期限を過ぎた合理的な理由と、借金の存在を知った詳細な経緯を裁判官に説明するためです。 | 申述人自身が詳細な事実関係を記述した独自の書面。 |
| 債権者からの督促状・通知書等の写し | 借金の存在を知った日(熟慮期間の新たな起算点)を客観的に証明するためです。 | 到着日が分かる封筒、内容証明郵便、裁判所からの支払督促など。 |
| 財産が存在しないと信じた理由を裏付ける関連資料 | 「相当な理由」があった事実を補強するための周辺証拠となります。 | 生前の交流状況の断絶を示す手紙や、生前の生活保護受給証明など。 |
【引用条文】
民法第915条第1項
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
手続きに必要な予納郵便切手と費用の詳細
Q6-1 申立てに必要な予納郵便切手の内訳

《質問》申立てには郵便切手が必要だと聞きましたが、具体的にいくら分の切手を、どのような内訳で準備する要件がありますか。

《回答》管轄の裁判所によって切手の合計金額と内訳が細かく指定されています。例えば名古屋家庭裁判所など、提出先の裁判所ごとに異なるため確認する要件があります。
注釈
家庭裁判所における相続放棄の申立てにあたり、裁判所から申述人への各種書類(申立て内容の確認のための照会書や、手続き完了を知らせる申述受理通知書など)を送付するための郵便料金として、「予納郵便切手」をあらかじめ納めることが求められます(家事事件手続法第28条第1項、家事事件手続規則第14条)。この予納郵便切手の合計額および金種の組み合わせ(内訳)は、全国一律で定められているわけではなく、各地方裁判所や家庭裁判所の内部の運用規則によって大きく異なります。例えば、名古屋家庭裁判所では「110円切手を5枚と10円切手を10枚」、福岡家庭裁判所久留米支部では「110円切手を3枚」、前橋家庭裁判所では「110円切手を6枚」といった独自の基準が設けられています。また、海外に在住している申述人の場合は、国際郵便料金が適用されるため、通常よりも多くの切手を予納する要件が発生します(例:福岡家庭裁判所の運用では海外在住者の場合+110円×2枚を追加)。誤った内訳で切手を提出した場合、裁判所から切手の追納や交換を求められ、手続き全体が著しく遅滞する原因となるため、申立てを行う直前に提出先の名古屋家庭裁判所などのウェブサイトを確認するか、直接電話で問い合わせる手順が推奨されます。
表や手続きの流れ:
| 裁判所の事例(令和6年10月以降の基準等) | 予納郵便切手の指定内訳の例 | 備考および特殊事情 |
|---|---|---|
| 名古屋家庭裁判所の運用基準 | 110円×5枚、10円×10枚 | 相続人1名あたりの基本的な指定内訳となります。 |
| 前橋家庭裁判所の運用基準 | 110円×6枚 | 未成年者が15歳以上の場合は110円×2枚を追加する要件があります。 |
| 福岡家庭裁判所の運用基準 | 110円×3枚 | 海外在住者の場合は追加で110円×2枚の納付を要します。 |
| 福岡家庭裁判所 久留米支部の運用基準 | 110円×3枚 | 令和7年5月時点の運用情報として確認されています。 |
| 電子納付の選択肢に関する規定 | 現金やインターネットバンキング等 | 保管金として電子納付が導入されている裁判所も存在します。 |
【引用条文】
家事事件手続法第28条第1項
申立人(家庭裁判所が職権で家事事件の手続を開始した場合にあっては、家庭裁判所が定める当事者又は利害関係参加人)は、家事事件の手続の費用として家庭裁判所の定める金額を予納しなければならない。家事事件手続規則第14条
法第二十八条第一項の規定による費用の予納は、郵便切手又は最高裁判所が定めるこれに準ずるもの(次項において「郵便切手等」という。)でしなければならない。ただし、金銭で予納させることを相当と認めるときは、家庭裁判所は、金銭で予納させることができる。
Q6-2 令和6年の郵便料金改定による影響

《質問》郵便料金が値上がりしたと聞きました。過去のインターネットの記事を参考に切手を準備してもよいのでしょうか。

《回答》過去の記事を参考にする選択は避けてください。令和6年10月1日の郵便料金改定に伴い、全国の裁判所で予納郵便切手の基準が変更されているためです。
注釈
令和6年(2024年)10月1日に日本郵便による郵便料金の全国的な大幅改定が実施されたことに伴い、全国の裁判所において民事事件および家事事件における予納郵便切手の基準額が全面的に見直されました。この料金改定では、標準的な定形郵便物の基本料金が84円から110円へと引き上げられました。この影響を受け、家庭裁判所が指定する切手の内訳も、従来の「84円切手」を含む構成から「110円切手」を主体とする新しい構成へと変更されています。過去のインターネット上の情報や古い法律関係の書籍には、名古屋家庭裁判所をはじめとする各裁判所の平成28年や令和3年当時の古い基準(例えば、84円切手5枚と10円切手5枚といった組み合わせ)がそのまま記載されていることが多々あります。これらの古い内訳のまま切手を提出した場合、料金不足として裁判所から差し戻しや追加納付の指示を受けることになり、迅速な処理の妨げとなります。このような無用なトラブルを防ぎ、円滑に手続きを進めるためには、過去の情報を鵜呑みにせず、申立てを行う時点における管轄の家庭裁判所の公式ウェブサイトにて「最新の家事事件予納郵便切手一覧表」を確認する手順が不可欠な要件となります。
表や手続きの流れ:
| 郵便料金改定前後の比較と裁判所手続きへの影響 | 令和6年9月以前の状況 | 令和6年10月以降の状況 |
|---|---|---|
| 定形郵便物の基本料金の推移 | 84円 | 110円(大幅な引き上げが実施されました) |
| 裁判所の予納郵券の指定内訳の傾向 | 84円切手や10円切手を組み合わせた構成が主流でした。 | 110円切手を中心とした新しい構成に全面的に変更されました。 |
| インターネット上の情報の正確性に関するリスク | 過去の基準額がそのまま掲載されていることが多い状態です。 | 記事の更新日を厳格に確認し、裁判所の公式発表と照合する要件があります。 |
特殊な状況下における申立人の必要書類
Q7-1 未成年者が親と同時に手続きを行う場合

《質問》未成年の子どもが親と同時に相続放棄をする場合、子ども用の書類で気を付けることはありますか。

《回答》未成年者用の申述書を使用し、法定代理人である親が署名押印する手順となります。同時に手続きをする場合、利益相反にはならないため特別な代理人は不要です。
注釈
未成年者が法律行為を行う場合、原則として法定代理人(通常は親権者)が代理して行う要件が民法で定められています(民法第5条第1項、同法第824条)。しかし、相続という財産権が大きく変動する場面における相続放棄においては、「利益相反行為」に該当するかどうかが厳格に問われます。親権者が未成年者である子どもを代理して相続放棄をする行為が、親権者自身の利益となり、子どもの不利益となるような場合(例えば、親が遺産を独占する目的で子どもに放棄させる場合など)は、子どもの権利を守るために特別代理人を選任する要件が発生します(民法第826条第1項)。ご質問のケースのように、法定代理人である親と未成年の子どもが「同時」に相続放棄をする場合、あるいは親が「先に」相続放棄の手続きを完了している場合には、親が子どもより多くの財産を得るという利益相反の構造が生じないため、特別代理人を選任することなく、親権者が法定代理人として相続放棄の申立てを行うことが認められています(最判昭和53年2月24日民集32巻1号114頁)。この際、裁判所には「未成年者用の相続放棄申述書」を提出し、法定代理人欄に親が記名押印する手順となります。
表や手続きの流れ:
| 未成年者の相続放棄における利益相反の該当性 | 利益相反の有無 | 必要となる追加手続きおよび書類の詳細 |
|---|---|---|
| 親と子が同時に相続放棄を行う場合 | 利益相反に該当しない | 特別な書類は不要です。未成年者用の申述書に親が署名します。 |
| 親が先に相続放棄を完了している場合 | 利益相反に該当しない | 特別な書類は不要です。親の申述受理証明書の添付が実務上望ましいです。 |
| 子のみが相続放棄をし、親は放棄しない場合 | 利益相反に該当する | 家庭裁判所に対し「特別代理人選任申立て」を行い、選任された特別代理人が手続きを代理する要件があります。 |
【引用条文】
民法第5条第1項
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。民法第824条
親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。民法第826条第1項
親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
Q7-2 海外在住者の手続きと本人確認書類

《質問》海外に住んでおり、日本の印鑑証明書や住民票がありません。この場合、どのような書類を集める要件がありますか。

《回答》海外在住者の場合、住民票の代わりに現地の日本領事館で発行される在留証明書を使用します。また、署名証明書を取得して提出する手順となります。
注釈
日本国籍を有するものの、生活の拠点を海外に移しており、日本国内に住民登録を行っていない(住民票が除票となっている)場合、国内の居住者とは異なる公的な証明書類を準備する要件があります。具体的には、住所を客観的に証明する「住民票」に代わる書類として、居住地の在外公館(日本大使館または総領事館)が発行する「在留証明書」を取得し、家庭裁判所に提出する仕組みとなっています。また、日本国内で実印を登録していないため印鑑証明書を取得できない場合には、申述書等に記載された署名が間違いなく本人のものであることを公的に証明する「サイン証明書(署名証明書)」を在外公館の担当官の面前で作成・発行してもらう手順となります。なお、海外から直接、日本の家庭裁判所に相続放棄の書類を国際郵便等で郵送して手続きを進めること自体は適法に可能です。ただし、裁判所から送付される照会書などの国際郵便でのやり取りに相当の時間を要することや、海外への郵送に対応するための追加の予納郵便切手(国際郵便料金分)を納める要件がある点に十分留意した上で、計画的に手続きを進めることが求められます。
表や手続きの流れ:
| 海外在住者が取得すべき代替の公的書類 | 証明する内容と法的な意義 | 取得先の詳細と手順 |
|---|---|---|
| 在留証明書 | 現在の外国での住所を公的に証明するものであり、住民票の代わりとなります。 | 居住地を管轄する日本の在外公館(大使館・領事館)の窓口で申請します。 |
| サイン証明書(署名証明書) | 申述書の署名が本人のものであることを証明し、印鑑証明書の代わりとなります。 | 在外公館の担当官の面前で署名を行い、直接証明を受ける要件があります。 |
| 戸籍の全部事項証明書 | 申述人の生存と身分関係を証明するものであり、国内居住者と同様に必須です。 | 日本の本籍地の役所から国際郵送で取り寄せるか、国内の親族に代理取得を依頼します。 |
Q7-3 成年被後見人の手続き

《質問》認知症などで成年後見制度を利用している人が相続放棄をする場合、手続きと書類はどうなりますか。

《回答》本人は手続きができないため、成年後見人が代わりに申立てを行います。通常の書類に加え、後見人であることを証明する登記事項証明書を提出する手順となります。
注釈
認知症や重度の知的障害などにより、事理を弁識する能力を欠く常況にあるとして家庭裁判所から後見開始の審判を受けた方(成年被後見人)は、単独で有効な法律行為を行うことができない仕組みとなっています(民法第9条本文)。相続放棄という、財産的地位および身分関係に極めて重大な影響を及ぼす行為についても例外ではなく、成年被後見人自身が申述書を作成して家庭裁判所に提出することは認められません。この場合、家庭裁判所によって選任された法定代理人である「成年後見人」が、成年被後見人の財産管理権の行使として(民法第859条第1項)、成年被後見人に代わって相続放棄の申述を行う要件があります。手続きに必要な書類としては、被相続人と成年被後見人との関係性に応じた通常の戸籍の全部事項証明書などの書類に加えて、申述を行う者が正当な代理権を有していることを客観的に証明するための公的な資料が求められます。具体的には、法務局が発行する成年後見の「登記事項証明書」を添付する手順となります。なお、成年後見人自身も同時に被相続人の相続人であり、成年被後見人との間に利益相反が生じる場合においては、未成年者の場合と同様に、利益相反を解消するために家庭裁判所で特別代理人の選任を受ける要件が発生します(民法第860条、第826条)。
表や手続きの流れ:
| 成年後見人が代理で手続きを行う場合の追加書類 | 取得先機関 | 書類の法的な意味と役割 |
|---|---|---|
| 成年後見登記事項証明書 | 全国の法務局の窓口、または東京法務局への郵送請求 | 申述書の提出者が、法的な代理権を正当に有する成年後見人であることを裁判所に証明します。 |
| (利益相反の場合)特別代理人選任審判書謄本 | 管轄の家庭裁判所 | 利益相反が生じるケースにおいて、適法に選任された特別代理人であることを証明します。 |
【引用条文】
民法第9条
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。民法第859条第1項
後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。民法第860条
第八百二十六条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。民法第826条第1項
親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
手続きの効率化と完了後の証明書類
Q8-1 法定相続情報一覧図の写しの利用

《質問》銀行の手続きのために取得した法定相続情報一覧図の写しを、相続放棄の書類として使うことはできますか。

《回答》戸籍の全部事項証明書の代わりに、法定相続情報一覧図の写しを提出できる場合があります。ただし、利用の可否は裁判所により異なるため確認する要件があります。
注釈
「法定相続情報証明制度」は、平成29年(2017年)に新設された制度であり、法務局に戸籍の全部事項証明書等の束と家系図のような一覧図を提出することで、登記官の認証を得た「法定相続情報一覧図の写し」が無料で交付される仕組みです(不動産登記規則第247条)。この写しは、不動産の相続登記や金融機関での預貯金解約手続きにおいて、膨大な戸籍謄本の束の代わりとして広く利用され、国民の負担軽減に大きく寄与しています。家庭裁判所における相続放棄の申立て手続きにおいても、被相続人との身分関係を証明する書類として、多数の戸籍等の束に代えてこの「法定相続情報一覧図の写し」を提出することが認められるケースが実務上増加しています。しかしながら、家庭裁判所における家事事件手続きにおいては、個別の事件ごとに裁判官による独自の審査基準や運用方針がなされている場合があり、一覧図の写しだけでは身分関係の確認として不十分であるとして、結果的に元の戸籍の全部事項証明書の提出を求められる可能性も排除できません。そのため、一覧図の写しを利用して申立ての効率化を図ることを検討する場合には、あらかじめ管轄の家庭裁判所に連絡を取り、一覧図の写しによる代用が正式に受理されるかを確認する手順が推奨されます。
表や手続きの流れ:
| 法定相続情報一覧図の写しを利用するメリットと注意点 | 詳細内容と実務上の影響 |
|---|---|
| 取得費用に関する利点 | 法務局での一覧図の写しの交付自体は無料です(ただし、事前の戸籍収集費用はかかります)。 |
| 手続きの簡略化効果 | 多数の戸籍の束を裁判所や銀行ごとに何度も提出・返却する手間を大幅に省くことが可能です。 |
| 裁判所への提出の可否に関する制約 | 原則として利用可能とされていますが、裁判所の最終的な判断により原本の提出が求められる場合があります。 |
【引用条文】
不動産登記規則第247条第1項
表題部所有者、登記名義人又はこれらの相続人その他の権利承継人(以下「申出人」という。)は、次項の規定により作成した被相続人(表題部所有者若しくは登記名義人又はその権利承継人をいう。以下同じ。)の同項に規定する法定相続情報一覧図に同項に規定する申出人の記名押印をし、当該法定相続情報一覧図を添付して、登記官に対し、当該法定相続情報一覧図を保管し、かつ、これの写しを交付すべき旨を申し出ることができる。この場合において、申出人は、その者の代理人(弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士又は社会保険労務士であって、申出人からの委任に基づく者に限る。第七項において同じ。)によって当該申出をすることができる。
Q8-2 相続放棄完了後に発行される書類

《質問》手続きが終わった後、借金の督促をしてくる相手に対して、完了したことを証明するにはどの書類を見せればよいですか。

《回答》裁判所から送付される相続放棄申述受理通知書の写し、または、裁判所に申請して取得する相続放棄申述受理証明書を提示する手順となります。
注釈
相続放棄の申立てが家庭裁判所によって適法なものとして正式に認められると、申述人のもとへ「相続放棄申述受理通知書」という書面が自動的に郵送されます。これは、申立てが受理され、法的に「初めから相続人とならなかったものとみなす」という極めて強力な効果が発生したことを知らせる公的な通知です(民法第939条)。多くの場合、消費者金融や銀行などの一般の債権者に対しては、この「受理通知書の写し(コピー)」を郵送または窓口で提示するだけで、借金の督促は停止される仕組みとなっています。しかし、一部の厳格な手続きを求める債権者や、他の親族が不動産の相続登記を法務局で行う場面においては、単なる通知書の写しではなく、現在の法的状態を証明する原本の提示が求められることがあります。その際には、家庭裁判所に対して別途「相続放棄申述受理証明書」の交付申請を行う要件があります。この受理証明書は、1通につき150円の収入印紙を添えて家庭裁判所に申請することで、手続きの利害関係人として必要な枚数を取得することができます(家事事件手続法第254条)。状況に応じてこれらの書類を適切に使い分けることが求められます。
表や手続きの流れ:
| 相続放棄完了後の証明書類の種類 | 法的な性格と主な用途 | 取得方法および費用の詳細 |
|---|---|---|
| 相続放棄申述受理通知書 | 裁判所からの手続き完了の「お知らせ」です。一般的な債権者への提示(写し)に利用します。 | 手続き完了時に裁判所から自動で郵送されます(追加費用は発生しません)。 |
| 相続放棄申述受理証明書 | 相続放棄が完了している事実を公的に「証明」する書面です。登記手続き等で厳格な証明として利用します。 | 裁判所に交付申請書と150円分の収入印紙を提出して取得する手順となります。 |
【引用条文】
民法第939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。家事事件手続法第254条
当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の書記官に対し、最高裁判所規則で定めるところにより、審判書その他の裁判書の謄本若しくは抄本又は家事事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。

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