●財産分与による登記
- 離婚に際して自宅の名義を夫から私に変えたいのですが,どのような手続きが必要になりますか。
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「財産分与の請求」により,自宅の財産分与について夫が同意すれば,夫名義から妻名義に変更することができます。つまり,原則としては,夫婦双方の同意があれば,名義変更はできます。もっとも,双方の間で協議が調わないときは,家庭裁判所に対して調停の申立てをして,財産分与を請求することができます。
財産分与が成立した後,夫から妻へ財産分与を原因とする所有権移転の登記申請を行います。所有権移転登記を行うにあたり期限はありませんが,「財産分与の請求」は離婚後2年以内に行わなければならない点にご注意ください。
ただし,その自宅に夫名義の住宅ローンがあり,まだ返済を終えていない場合には注意が必要です。
通常,住宅ローンで購入・新築した土地建物には抵当権が設定されています。抵当権が設定されていても,夫から妻に自宅を財産分与すること自体は可能ですが,夫が住宅ローンの返済をしなくなると,住宅ローンを貸し出した金融機関が債権回収のために抵当権を実行し,裁判所に競売を申立てるため,妻はその家に住むことができなくなります。これを防ぐには,住宅ローンの債権者である金融機関の同意を得て,債務者を夫から妻に変更する必要があります。そして,この同意が得られた場合には,財産分与を原因とする所有権移転の登記申請とあわせて,抵当権の債務者変更の登記申請も行う必要があります。
また,ローン債権者銀行は,不動産の名義変更をローン債務の期限の利益(期限まで弁済を猶予されるという利益)喪失事由とする約款を定めているのが通常です。その約款がある場合,抵当不動産を財産分与で譲渡して所有権移転登記をし,かつ,ローン残額の一括返済を避けるには,事前に銀行の承諾を得る必要があります。しかし,分与を受ける当事者に資力があるというようなごく例外的な場合を除けば,銀行は承諾しないことが多いようです。
したがって,この場合には,夫としては,不動産の名義を離婚時に妻に変えてやりたくても,それが事実上できない場合があるのです。この場合には,夫が他に不動産を譲渡し名義を変更すると,妻は譲受人に対抗できないことになります。そこで,夫から妻への所有権移転登記は債務完済後にすることとし,離婚時には仮登記をつけておくことが考えられます。
以上は一つの例にすぎませんが,住宅ローン付き不動産の分与については,いろいろ困難な問題が生じるおそれがありますので,当事務所にご相談ください。
●財産分与と税金
- 財産分与を受けた側は,税金がかかるのですか。
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離婚による財産分与又は慰謝料として取得した財産は,贈与により取得したものでありませんから,贈与税は課せられません。一時所得として所得税が課せられることもありません。ただし,その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合における当該過当である部分又は離婚を手段として贈与税若しくは相続税の逋脱(ほだつ)を図ると認められる場合における当該離婚により取得した財産の価格は,贈与によって取得した財産となります(相続税法基本通達9条98)。
しかし,不動産を財産分与等で取得した者は,所有権移転登記を行おうとする場合は,登録免許税及び不動産取得税が課せられます。
- 財産分与をした側は,どうですか。
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財産分与は,不動産等の資産を無償で譲渡するものですが,資産の譲渡である以上,譲渡する資産の譲渡時の価格が取得時の価格を上回っているときは,分与する配偶者に対し,増加分について譲渡所得税が課せられます(ただし,特別控除の制度があります。)。
これを知らないで財産分与の合意をしたときは,錯誤により無効になることもあり得ます(最高裁判決・平成元・9・14家裁月報41・11・75)
●年金分割制度について
- 離婚時年金分割制度とは,どういうものですか。
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平成19年4月1日から,厚生年金等について離婚時に婚姻期間中の保険料納付(年金受給権)の記録分割をする制度が導入されました。
この制度は,離婚する夫婦の年金受給の格差を是正するため,厚生年金の報酬比例部分(老齢基礎年金に上乗せされる老齢厚生年金)の年金額の基礎となる「標準報酬」について,夫婦であった者の合意(合意ができないときは裁判)によって分割割合(請求すべき按分割合)を決め,夫婦であった者の一方の請求により,厚生労働大臣が標準報酬の決定を行う制度です。これを合意分割制度といいます。
この制度の適用を受けるのは,平成19年4月1日以後に離婚した場合であり,婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録が分割されます。また,請求すべき分割割合は,法律で一定の範囲(上限は50%)に限られています。この分割割合の合意は,かつては,公正証書によるか,又は当事者の合意書に公証人の認証を受けることが必要とされていましたが,平成20年4月1日からは,公証人の認証を受けないでも当事者双方がそろって(代理人でも可)合意書を年金事務所に直接提出する方法でもよいことになりました。
また,平成20年4月1日から,いわゆる第3号被保険者期間についての厚生年金の分割制度が始まりました。これを3号分割制度といいます。この制度の適用を受けるのは,平成20年4月1日以後に離婚した場合であり,婚姻期間のうち,平成20年4月1日以後の第3号被保険者期間中の厚生年金の保険料納付記録が分割されます。分割の割合は,2分の1すなわち50%と一律に決められています。したがって,平成20年3月31日までの分については,合意分割制度によることになります。もっとも,平成20年4月1日以降の分も含めて婚姻期間全体について合意分割を行うこともできます。その場合,平成20年4月1日以降の分につき2分の1であるとみなして全体の分割割合を算定することになります。