成年後見制度とはどのようなものですか?
 成年後見制度とは、事故や認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分でない方(ここでは「本人」といいます。)について、本人の権利を守る援助者(「成年後見人」等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度です。
 成年後見制度には、“法定後見制度”と“任意後見制度”の2種類があります。
法定後見制度とは何ですか?
 民法は、意思自治の原則(人は自己の権利義務関係を自由な意思決定により自ら規律することができる)を大前提としつつ、判断能力が十分でない者に対する配盧から行為能力制度を設けています。すなわち、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人を定型的に制限行為能力者とすることで、これらの者が単独で法律行為をした場合にこれを取り消し得るものとし、判断能力の不十分な者を保護しています。このうち、未成年者を除いた成人を対象とする制度が、成年後見制度です。
 成年被後見人には成年後見人が、被保佐人には保佐人が、被補助人には補助人がそれぞれ選任され、これらの者が保護者となって被後見人等の財産を守ることとなります。
任意後見制度とは何ですか?
 任意後見制度(契約による後見制度)は、本人に判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分な状態になることに備え、公正証書を作成して任意後見契約を結び、任意後見受任者を選んでおくものです。本人の判断能力が不十分になったときに、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから、その契約の効力が生じます。
後見監督とは何ですか?
 成年後見人等は、申立てのきっかけとなったこと(例えば、相続登記、保険金の受取、相続放棄の申述等)だけをすればよいものではなく、後見が終了するまで、行った職務の内容(後見事務)を定期的に又は随時に家庭裁判所に報告しなければなりません。
 事案によっては、家庭裁判所が、弁護士や司法書士などの専門職を後見等監督人に選任して、監督事務を行わせる場合もあります。その場合には、後見人等は行った職務の内容(後見事務)を定期的に又は随時に後見等監督人に報告しなければなりません。
成年後見人等としての責任を問われる場合は、どのような場合ですか?
 後見人等に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適さない事由があるときには、家庭裁判所は成年後見人等解任の審判をすることがあります。
 また、成年後見人等が不正な行為によって被後見人等に損害を与えた場合には、その損害を賠償しなければなりませんし、背任罪、業務上横領罪等の刑事責任を問われることもあります。本人と親子の関係にあっても、刑罰は免除されませんし、量刑上酌むべき事情になりません。
被後見人になると選挙権がなくなると聞いたことがありますが本当ですか?
 平成25年改正前の公職選挙法11条1項1号は,後見開始により被後見人は選挙権・被選挙権を喪失すると規定していましたが,東京地方裁判所はこの規定は違憲無効であるとして被後見人の選挙権を認める判決を言い渡しました(東京地判平成25年3月14日(判タ1388号62頁))。この判決をきっかけに、公職選挙法が改正され、改正法は平成25年6月30日から施行されました。
 被後見人の選挙権回復についての公職選挙法改正の概要は,以下のとおりとなります。
(1)被後見人の選挙権回復
 被後見人の選挙権及び被選挙権の欠格条項が廃止され、被後見人は選挙権及び被選挙権を有することとなりました。
(2)代理投票の要件の整理
 代理投票とは、自分で候補者の氏名または政党名を書くことができない選挙人が投票管理者に申請し代筆により投票する制度でありますが、被後見人の選挙権の回復に伴い、代理投票の要件が以下のとおり整理されました(公選法48条)。
 ①代理投票が認められている者として「身体の故障又は文盲」により自書できない者との規定が「心身の故障その他の事由」により自書できない者に改められました。
 ②投票管理者が選任する代理投票の補助者について、改正前は明文上の制限がなかったが、「投票所の事務に従事する者のうちから」定めるとの規定が設けられました。
成年後見人等、成年後見等監督人に第三者が選任された場合の報酬はどのくらいの金額ですか?
 成年後見人等、成年後見等監督人に対する報酬は、家庭裁判所が公正な立場から金額を決定した上で、本人の財産の中から支払われます。
 具体的には、成年後見人等として働いた期間、被後見人の財産の額や内容、成年後見人等の行った事務の内容などを考慮して決定します。

 成年後見人が、通常の後見事務を行った場合の報酬(これを「基本報酬」と呼びます。)のめやすとなる額は、月額2万円です。
 ただし、管理財産額(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)が高額な場合には、財産管理事務が複雑、困難になる場合が多いので、管理財産額が1000万円を超え5000万円以下の場合には基本報酬額を月額3万円~4万円、管理財産額が5000万円を超える場合には基本報酬額を月額5万円~6万円とされることが多いようです。
 なお、保佐人、補助人も同様です。

 成年後見監督人が、通常の後見監督事務を行った場合の報酬(基本報酬)のめやすとなる額は、管理財産額が5000万円以下の場合には月額1万円~2万円、管理財産額が5000万円を超える場合には月額2万5000円~3万円とされることが多いようです。
 なお、保佐監督人、補助監督人、任意後見監督人も同様です。

後見人は、被後見人の介護をしてくれますか?
 後見人は、被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、被後見人の意思を尊重し、身上に配慮しなければならなりません(民858条)。法は後見人の職務として被後見人の「身上監護」と「財産管理」とがあることを前提としています。後見人は前記の代理権、取消権を行使して、被後見人の「身上監護」及び「財産管理」をその職務として行います。 身上監護とは、被後見人の生活の維持や医療、介護等、身上の保護に関する法律行為を行うことをいいます。具体的には、介護サービス契約、施設入所契約、医療、教育に関する契約の選定とその締結、解除のみならず、これらの契約に基づく費用の支払いや、サービスの履行状況の確認等、法律行為に当然伴うと考えられる事実行為等広範囲にわたります。ただし、実際に被後見人を介護することなど、事実行為を行うことは含まれません。
 財産管理とは、被後見人の財産全体を把握し,前記の包括的代理権を行使することによってこれらの財産を保存したり、一定の範囲で被後見人のために利用したりすることをいいます。
認知症になった父の後見人である私は、父の財産を殖やすために父の財産より株式投資をしたいと考えていますが可能でしょうか?
 成年後見制度の趣旨とは、被後見人の自己決定権を尊重し、残存能力を活用しながら被後見人を保護することです。ここでいう保護とは、ノーマライゼーションの思想を取り入れた成年後見制度の目指すところから考えると、単に被後見人の財産の減少を防ぐという『消極的保護』のみならず、被後見人の心身の状況に配慮して被後見人の意思を尊重しつつ被後見人の財産を積極的に活用することで被後見人の生活の質を向上させるように、保護者の行為によって被後見人を支援するという『積極的保護』を指すと考えるべきである。
 しかしながら、後見も事務の委任の一形態であることから、後見人に対して善管注意義務が課せられています。したがって、被後見人の身上面の保護と直接の関連性がない場面では,後見人には他人の財産を預かり管理する者としての通常の善管注意義務が課せられています。例えば、被後見人の財産を積極的に殖やすべく、リスクのある金融商品を購入することなどは許されないということになります。
申立てをするにあたり、最初に何をしたらよいのですか?
 当事務所が用意した家庭裁判所指定の「診断書(成年後見用)」及び「診断書附票」を、主治医に作成してもらってください。なお、主治医が精神科の医師でなくても構いません。「鑑定連絡票」を利用し、主治医の方に申立て後の精神鑑定の引受けをお願いしてください。