「60/70点とる!」認定考査の勉強法:第3 要件事実(1)
本日から、簡裁訴訟代理等能力認定考査(以下、「認定考査」という。)の勉強法をお伝えします。
まずは、認定考査の過去問において出題され続けけている要件事実について分析をします。
1.要件事実とは
要件事実とは、一定の法律効果が発生するために必要な具体的事実をいいます。
要件事実の具体的な事実は、実体法の解釈によることとなりますが、ここで重要となるのは、「何が必要最小限の事実か」という観点です。すなわち、ある法律効果の発生が認められるために立証しなければならない必要最小限の事実が「要件事実」なのです。
試験においては、「要件事実」が問われているので、法律効果の発生が認められる事実(=要件事実)のみを記載することを特に気をつけてください。
もっとも、要件事実は、一定ではありません。
弁済の抗弁を例とすると、相手方がこの抗弁を争わないのであれば、単に「弁済したこと」が要件事実となるが、相手方が争えば、具体的に「相手方に金員を交付したこと」が要件事実となり、交付の態様を相手方が争えば、さらに具体的に「金員を相手方の銀行口座に振り込んだ」とか「金員を相手方に手渡した」などの事実が要件事実となります。要件事実が振込みであれば、その後の立証段階は、当該振込みがされた通帳の提出等が中心となり、一方、要件事実が手渡しであれば,その金員をいかに準備したか(預金を降ろしてきた等)や、手渡された金銭をどうしたか(通常はそれを銀行に預けるなどする)等が立証の中心となります(要件事実マニュアル1p22)。
平成26年度簡裁訴訟代理等能力認定考査においても、「引渡しの再抗弁」において、上記の論点を正確に記載出来たか否かが隠れ論点として存在していそうです。
2.認定考査で問われる要件事実
認定考査で問われる要件事実の問題は、
(1)訴訟物(2)請求の趣旨(3)請求の原因
(4)抗弁・再抗弁・再々抗弁(5)事実認定
となり、それぞれ、簡単にポイントをお伝えします。
(1)訴訟物
訴訟物とは、当該訴訟において審判の対象となる権利関係をいう(伊藤・民訴198頁)。例えば、売買代金請求訴訟では、訴訟物は、現在(=事実審の口頭弁論終結時)における売買代金請求権の存在であり、これが認められれば、原告が勝訴します。
認定考査で出題される訴訟物は、簡単に、説明すると、「○○契約に基づく△△請求権」といった形で表されるものです。
訴訟物の選択方法は、問題文のX(原告)の言い分に着目し、Xの要求が(1)金を払え(2)物を渡せ(3)登記手続をせよ(4)確認する、なのかを見極めます。多くの場合、Xの言い分の末尾に記載があります。その後、法的根拠になる権利より訴訟物を決定します。訴訟物の記載例は後記『「訴訟物」と「請求の趣旨」の記載例』を参照してください。また、多数当事者がいる場合には、被告がどのような相手方なのかの判断をミスすると訴訟物の選択を誤るので注意しましょう。なお、「代理」は、訴訟物に影響を与えなく、「債務不存在確認訴訟」は、給付訴訟の裏返しなので、訴訟物は給付訴訟の場合と同一です。
訴訟物は、下記の記載例程度は暗記しておきましょう。
(2)請求の趣旨
請求の趣旨とは、訴訟における原告の主張の結論であり、原告が勝訴した場合の判決の主文に相当するものをいいます。
請求の趣旨は、給付の法的な性格や理由づけを記載しない取扱いとされています。また、一部請求でも、その記載は不要です。なお、訴訟物を決定すると同時に、請求の趣旨も決定するので、請求の趣旨の記載例は後記『「訴訟物」と「請求の趣旨」の記載例』を参照してください。なお、認定考査では、請求の趣旨の記載について、付随的申立てを除く旨が指示された場合には、付随的申立ての記載を要しないので注意をしましょう。
請求の趣旨も、下記の記載例程度は正確に記載できるようにしておきましょう。
「訴訟物」と「請求の趣旨」の記載例
(1)「金を払え」の法的根拠になる権利
訴訟物 | 請求の趣旨 |
ア.売買契約【第1章】 |
(主)被告は,原告に対し,50万円を支払え。 (主+附)被告は,原告に対し,50万円およびこれに対する平成○年○月○日から支払済みまでの年5分の割合による金員を支払え。 |
イ.消費貸借契約【第4章】 (主)消費貸借契約に基づく貸金返還請求権 (附)利息契約に基づく利息請求権,履行遅滞に基づく損害賠償請求権 |
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ウ.保証契約【第5章】 (主)保証契約に基づく保証債務履行請求権 |
(主)被告は,原告に対し,50万円を支払え。 【主たる債務者と保証人とを共同被告とする場合】 (主)被告らは,原告に対し連帯して50万円およびこれに対する平成○年○月○日から支払済みまでの年5分の割合による金員を支払え。 |
エ.賃貸借契約【第6章】 (主)賃貸借契約に基づく賃料請求権 |
(主)被告は.原告に対し、平成○年○月○日から1の明渡済みまで1か月10万円の割合による金員を支払え。 |
オ.譲受債権【第10章】 (主)AY間の消費貸借契約に基づく貸金返還請求権 (附)利息契約に基づく利息請求権,履行遅滞に基づく損害賠償請求権 |
(主)被告は.原告に対し,50万円を支払え。 (主+附)被告は,原告に対し,50万円およびこれに対する平成○年○月○日から支払済みまでの年5分の割合による金員を支払え。 |
カ.請負契約【第11章】 (主)請負契約に基づく報酬請求権 (附)履行遅滞に基づく損害賠償請求権 |
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キ.不法行為【第13章】 (主)不法行為に基づく損害賠償請求権 (附)履行遅滞に基づく損害賠償請求権 |
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ク.不当利得【第14章】 (主)不当利得返還請求権 (附)―――――――――― |
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ケ.債権者代位権(金銭債権保全) (主)AのYに対する◯◯請求権 (附)―――――――――― |
(2)「物を渡せ」の法的根拠になる権利
訴訟物 | 請求の趣旨 |
ア.売買契約【第3章】 (主)売買契約に基づく目的物引渡請求権 (附) |
(主)被告は.原告に対し,本件皿を引き渡せ。 |
イ.賃貸借契約の終了【第6章】 (主)賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての建物(土地)明渡請求権 (主)賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての建物収去土地明渡請求権 (附)賃貸借契約に基づく賃料請求権,履行遅滞に基づく損害賠償請求権 |
(主)被告は,原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。 (主)被告は,原告に対し、別紙物件目録記載の建物を収去し別紙物件目録記載の土地を明け渡せ。 (主+附)1被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。 2被告は,原告に対し,20万円を支払え。 3被告は.原告に対し、平成○年○月○日から1の明渡済みまで月額10万円の割合による金員を支払え。 |
ウ.所有権(不動産)に基づく返還請求権【第7章】 (主)所有権に基づく返還請求権としての建物(土地)明渡請求権 (主)所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権※建物収去土地明渡訴訟 (附)所有権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権 |
(主)被告は,原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。 (主)被告は,原告に対し、別紙物件目録記載の建物を収去し別紙物件目録記載の土地を明け渡せ。 (主+附)1被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。 2被告は,原告に対し、平成○年○月○日から1の明渡済みまで月額5万円の割合による金員を支払え。 |
エ.所有権(動産)に基づく返還請求権【第8章】 (主)所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権 (主)所有権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権※代償請求の併合請求 (附)所有権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権 |
(主)被告は,原告に対し,本件絵画を引き渡せ。 【代償請求の併合請求】 (主)1被告は,原告に対し,本件絵画を引き渡せ。 2前項の強制執行の目的を達することができなかったときは、原告に対し,20万円を支払え。 (主+附)1被告は,原告に対し,本件絵画を引き渡せ。2被告は,原告に対し、平成○年○月○日から1の引渡し済みまで月額5万円の割合による金員を支払え。 |
(3)「登記手続をせよ」の法的根拠になる権利
訴訟物 | 請求の趣旨 |
ア.売買契約【第9章】<債権+移転> (主)売買契約に基づく債権的登記請求権としての所有権移転登記請求権 |
(主)被告は,原告に対し,別紙物権目録記載の建物について,平成○年○月○日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。 |
イ.売買契約の解除<債権+抹消> (主)売買契約解除に基づく原状回復請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権 |
(主)被告は,別紙物権目録記載の建物について,別紙登記目録記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。 |
ウ.時効取得【第9章】<物権+移転> (主)所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権 |
(主)被告は.原告に対し、甲土地について.平成○年○月○日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。 |
エ.所有権に基づく妨害排除請求権【第9章】 (所有権移転登記抹消登記+承諾請求)<物権+抹消> (主)所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権 (主)所有権に基づく妨害排除請求権としての承諾請求権 |
(主)1被告Y1は,別紙物権目録記載の建物について,別紙登記目録記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。 2被告Y2は,原告に対し,別紙物権目録記載の建物について,別紙登記目録記載の所有椎移転登記の抹消登記手続に対する承諾をせよ。 |
オ.所有権に基づく妨害排除請求権【第9章】(抵当権抹消)<物権+抹消> (主)所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消登記請求権 |
(主)被告は,別紙物権目録記載の建物について,別紙登記目録記載の抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。 |
難問対策 | |
ア.売買契約<(債権+移転)+引渡し> (主)売買契約に基づく土地建物引渡請求権及び所有権移転登記請求権 |
(主)1被告は,原告に対し、別紙物件目録記載の土地建物を引き渡せ。 2被告は,原告に対し,別紙物権目録記載の建物について,平成○年○月○日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。 |
イ.債権者代位権(転用型)【第14章】 (主)AのYに対する◯◯請求権 (附)―――――――――― |
(主)被告は,別紙物権目録記載の建物について,別紙登記目録記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。 |
ウ. 詐害行為取消権【第14章】 (主)詐害行為取消権に基づく贈与契約の取消権及び所有権移転登記抹消登記請求権 |
(主)1AとYが平成○年○月○日に別紙物権目録記載の建物についてした売買契約を取り消す。 2Yは、別紙物権目録記載の建物について、別紙登記目録記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。 |
(※1)別紙物権目録記載の建物は,試験では,「本件建物」として記載することもある。
(4)「確認する」の法的根拠になる権利
訴訟物 | 請求の趣旨 |
ア.所有権の確認 (主)土地・建物の所有権 |
(主)原告が,別紙物件目録記載の土地・建物につき,所有権を有することを確認する。 |
イ.債務不存在の確認 (主)消費貸借契約に基づく貸金返還請求権 |
(主)原告被告間の平成○年○月○日締結の消費貸借契約に基づく原告の被告に対して債務が存在しないことを確認する。 (主)原告被告間の平成○年○月○日締結の消費貸借契約に基づく原告の被告に対する債務が30万円を超えて存在しないことを確認する。 |
To Be Continued...