【判例】家賃滞納者追い出す契約条項無効(最一小判令和4年12月12日)
目次【最一小判令和4年12月12日】
判事事項
1 賃貸住宅に係る賃料債務等の保証委託及び連帯保証に関する契約書中の、賃料等の不払があるときに連帯保証人が無催告にて賃貸借契約を解除することができる旨を定める条項の消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項該当性
2 賃貸住宅に係る賃料債務等の保証委託及び連帯保証に関する契約書中の、賃料等の不払等の事情が存するときに連帯保証人が賃貸住宅の明渡しがあったものとみなすことができる旨を定める条項の消費者契約法10条に規定する消費者契約の条項該当性
裁判要旨
一般に、賃借人に賃料等の支払の遅滞がある場合、原契約の解除権を行使することができるのは、その当事者である賃貸人であって、賃料債務等の連帯保証人ではない。また、上記の場合において、賃料債務等につき連帯保証債務の履行がないときは、賃貸人が上記遅滞を理由に原契約を解除するには賃料等の支払につき民法541条本文に規定する履行の催告を要し、無催告で原契約を解除するには同法542条1項5号に掲げる場合等に該当することを要する。
他方で、上記の連帯保証債務の履行があるときは、賃貸人との関係においては賃借人の賃料債務等が消滅するため、賃貸人は、上記遅滞を理由に原契約を解除することはできず、賃借人にその義務に違反し信頼関係を裏切って賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為があるなどの特段の事情があるときに限り、無催告で原契約を解除することができるにとどまると解される。
そうすると、本件契約書13条1項前段は、賃借人が支払を怠った賃料等の合計額が賃料3か月分以上に達した場合、賃料債務等の連帯保証人である被上告人が何らの限定なく原契約につき無催告で解除権を行使することができるものとしている点において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の権利を制限するものというべきである。
原契約は、当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であるところ、その解除は、賃借人の生活の基盤を失わせるという重大な事態を招来し得るものであるから、契約関係の解消に先立ち、賃借人に賃料債務等の履行について最終的な考慮の機会を与えるため、その催告を行う必要性は大きいということができる。ところが、本件契約書13条1項前段は、所定の賃料等の支払の遅滞が生じた場合、原契約の当事者でもない被上告人がその一存で何らの限定なく原契約につき無催告で解除権を行使することができるとするものであるから、賃借人が重大な不利益を被るおそれがあるということができる。
したがって、本件契約書13条1項前段は、消費者である賃借人と事業者である被上告人の各利益の間に看過し得ない不均衡をもたらし、当事者間の衡平を害するものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるというべきである。