【NEWS】司法書士グループ企業の「国保逃れ」と二律背反(ジレンマ)
【NEWS】司法書士グループ企業の「国保逃れ」と二律背反(ジレンマ)
令和8年4月20日加筆②肯定派の反論及び【論点】
令和8年4月25日加筆②肯定派の反論及び【論点】と文章全体をわかりやすく修正
はじめに
近年、一部の政治家に関する報道を発端に、国民健康保険料の算定基準に対する社会的な関心が高まっています。そうした中、東京新聞の報道により、法律の専門家である司法書士グループが株式会社を設立し、意図的に保険料負担を軽減するスキームを展開していた疑惑が浮上し、波紋を呼んでいます。厚生労働省もすでに実態把握に動き出している状況です。
そこで本記事では、長年放置されてきたこの問題について、以下の3つのポイントから整理と考察を行います。
- 長年の問題である**「国保✕マイクロ法人」というグレーゾーン**の実態
- 集客窓口を巡る**「株式会社✕司法書士」というグレーゾーン**の法的論点
- ビジネス構造に潜む、逃れられない**【致命的な矛盾(ジレンマ)】**
① 「社会保険料軽減スキーム」を巡る議論
国民健康保険(国保)は、前年の所得に応じて保険料が算定されます。個人事業主にとって所得増加に伴う保険料負担の増加は大きな経営課題となりますが、これを軽減する手法として、SNSや一部のコンサルタントの間で広く認知されてきたのが法人格を活用したスキームです。
【スキームの概要】
個人事業とは別に、自身を役員とする小規模な法人(マイクロ法人など)を設立し、役員報酬を低額に設定します。その法人の役員として社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することで、制度上、国保からは脱退扱いになります。結果として、個人事業側でどれだけ稼いでも、健康保険料は法人の低額な役員報酬を基準に算定されるため、トータルの負担を大きく抑えることができます。
批判的な視点:制度の趣旨への抵触と実態の欠如
この手法に対し、制度の根幹を揺るがすものとして批判的な声が上がっています。社会保険制度は、負担能力のある者が多く負担して全体を支え合う「応能負担・相互扶助」の理念に基づいています。そのため、意図的に負担を逃れる目的で法人を利用する行為は「法の抜け穴(バグ)」を突いたモラルハザードであるとの指摘です。
また、設立された法人に社会保険加入以外の事業実態がない(ペーパーカンパニー状態である)場合、法人格の濫用にあたるのではないかという見方も強まっています。
肯定派の反論:法令に基づく適法な手続き
一方、肯定派は「法令に則った適法な手続きである」と反論します。現行法上、個人事業主が別法人を設立すること自体は自由な経済活動として認められています。
また、年金事務所などの行政機関へ適正に届出を行い、受理されている以上、正当な社会保険の加入要件を満たしており、「逃れ」と表現されるような違法行為には当たらないとの主張です。
【論点】形式的な合法性と「実態」の乖離
この問題の最大の争点は、「形式的な手続きの適法性」にとどまらず、「株式会社としての経営実態が伴っているか」という点にあります。
当事者はセミナー運営などの活動実態を主張しますが、株式会社とは本来「営利(利益の追求)」を目的とする法人です。にもかかわらず、その事業が赤字であったり、役員報酬を最低等級(月額数万円程度)に抑えなければ成り立たないような経営状態を意図的に継続しているとすれば、営利企業として極めて不自然と言わざるを得ません。
事業として赤字を出してまで株式会社を存続させる理由は見当たらず、「結局は社会保険に加入するための『アリバイ作り(偽装)』に過ぎないのではないか」という厳しい見方が成り立ちます。行政側がこの「実質的な事業性」の判断に対し、今後どのような基準を示すかが注目されます。
② 司法書士業務における「株式会社による集客」の是非
今回の報道に関連してもう一つ問題視されているのが、司法書士グループが「株式会社を窓口にして集客を行っていた」という点です。
司法書士法第73条等では、資格を持たない者が利益目的で司法書士の業務を行うこと(非司活動)を厳しく禁じています。同時に、司法書士側も無資格者と提携して顧客の紹介を受けたり、報酬を分け合ったりすること(非司提携)が固く禁じられているため、この連携スキームそのものの適法性が問われています。
批判的な視点:実質的な「非司提携」や「名義貸し」の懸念
司法書士業界や専門家からは、株式会社と司法書士法人が主導権の所在に関わらず、法律で禁じられた違法な提携状態にあるのではないかという強い懸念が示されています。具体的には以下の2点です。
- 窓口化による違法な「顧客誘引と提携」: 株式会社が「法律問題の窓口」として顧客を集め、そこから実際の法的手続きを提携する司法書士に回している構図です。無資格の法人が士業の業務に関与し、連携して案件を誘導すること自体が「非司提携」に該当する可能性が高いと指摘されています。
- 不当な「中抜き」と違法な報酬分配: 顧客が支払う費用のうち、株式会社側が「紹介料」や「システム利用料」などの名目で実質的なマージンを抜き取っているという懸念です。営利企業が間に入って利益を吸い上げる構造は、士業に絶対に求められる「独立性」や「顧客保護」のルールを根底から破壊するという批判です。
肯定派の反論:業務の分離と「よくあるビジネス」という擁護
これに対し肯定派は、「業務の切り分けが行われており、非司活動には当たらない」と反論します。株式会社が担うのはマーケティングやシステム提供といった周辺業務に限られ、登記等の独占業務は司法書士が顧客と「直接」契約を結んでいるため、適法だという主張です。
さらに擁護派からは、「司法書士が他社の役員になるケース(副業)や、広告を出すケースと何ら変わりはない」「不動産会社を併設している事務所と同じだ」「内部のお金の流れを見ずに、外側から違法だと決めつけるのは極論だ」といった声も上がるでしょう。
【論点】極論へのすり替えと、ビジネス構造の決定的な筋の悪さ
しかし、これらの反論は問題の本質を理解していないか、意図的な「論点のすり替え」に過ぎません。最大の争点は「そもそも、そんな都合よく業務の切り分けができるのか」という点にあり、以下の理由から擁護派の主張は破綻しています。
1. 「副業」や「一般的な他社役員」との決定的な違い
司法書士が個人的に飲食店のオーナーになろうが自由です。しかし問題なのは、司法書士業務(相続・財産管理など)に密接に関連する分野で無資格の株式会社を立ち上げ、そこを顧客の入り口(フロント)にしている点です。全く別の副業と、自らの士業業務の「集客窓口」を同列に扱うのは論点のすり替えです。
2. 「正当な広告・取引」との決定的な境界線
広告代理店に費用を払ってWeb広告を出すような「正当な外注」とは訳が違います。当該の株式会社は自ら「法務コンサルタント」のように表舞台に立ち、法律知識を使ったセミナーを開催し、消費者の悩みを引き出して案件を誘導しています。無資格企業が自らの利益を確保した上で実務を士業へ流す行為は、単なる「広告」の範疇を完全に逸脱した「非司提携」そのものです。
3. 「不動産会社等との連携」との違い
不動産会社には「不動産の売買・仲介」という明確な独自の本業があります。しかし、今回問題視されている株式会社は、独自の本業ではなく司法書士業務に直結する法律知識を前面に出して直接集客(B to C)を行っています。営利法人が法務サービスの入り口をコントロールしている時点で、同列に語ることはできません。
4. 「実態を見なければ判断できない」という詭弁
「内部情報(紹介料の有無)を知らないのに違法とは言えない」という主張こそが、このスキームの致命的な矛盾を浮き彫りにしています。もし株式会社が紹介料やマージンを受け取っていない(タダ働き・赤字)なら、営利企業として成り立っておらず、単なる「国保逃れのダミー会社」であることを自白しているに等しいと言えます。逆に、成立するだけの多額の利益を吸い上げているなら、実質的な「非司提携による不当な報酬分配」の証左となります。 つまり、今回の場合には、内部の証拠を待つまでもなく、「表に出ている客観的なビジネス構造そのものが、論理的に破綻している」のです。
③ 【最大の論点】「保険料逃れ」か「非司活動」か。逃れられないジレンマ
上記①②を総合すると、このグループ経営のスキームには、論理的に極めて不自然な「致命的な矛盾(ジレンマ)」が潜んでいることが明確になります。株式会社とは本来「営利の追求」を目的とする法人です。当事者が主張するように事業実態があるとするならば、以下のいずれかの矛盾に必ず突き当たるのです。
- 利益を追求していない(紹介料等のマージンを受け取っていない)場合: 集客窓口として多大な労力をかけながら一切の利益を得ていないとすれば、営利企業として完全に破綻しています。赤字や最低等級の役員報酬を維持し続ける理由は見当たらず、結局のところ**「社会保険の加入資格を維持するための『アリバイ作り(ダミー会社)』に過ぎない」**という批判を免れません。
- 利益を追求し、事業として成立している場合: 逆に、十分な利益を上げているとすれば、その源泉はどこにあるのでしょうか。一般顧客を獲得し、株式会社がコンサル料などの名目で多額の利益(マージン)を抜いた上で、実際の法的手続きを提携司法書士へ流しているとすれば、それは無資格法人が法務サービスに介入・支配し利益を吸い上げる**「非司活動」および「非司提携(不当な報酬分配)」そのもの**であるという強い疑義が生じます。
つまり、「国保逃れのダミー会社ではない(=事業実態があり利益を出している)」と主張すればするほど、今度は「非司行為の温床になっている」という疑いが色濃くなります。一方で、「非司提携にあたるような金銭のやり取りはない」と弁明すればするほど、「では何のための会社なのか(=やはりダミー会社ではないか)」という結論に帰結します。
このどちらにも転べない**「二律背反(ジレンマ)の構造」**こそが、本スキームが抱えるごまかしようのない実態なのです。
おわりに
今回の一連の報道と議論は、社会保険制度における「負担の公平性」と、士業における「職務の独立性とコンプライアンス」という二つの重いテーマを社会に投げかけています。
当事者は法令遵守を主張し、形式的な「業務の切り分け」を強調すると思われます。しかし、ビジネスの全体構造と資金の流れを俯瞰したとき、そこに潜む倫理的・法的な矛盾は決して小さなものではありません。
「株式会社✕司法書士」というグレーゾーンと「国保✕マイクロ法人」というグレーゾーン。これらをかけ合わせたら、もはやグレーではなく、ブラックになってしまったのではないでしょうか。
今後、厚生労働省や法務省、そして司法書士会などの関係機関が、これらの事象に対してどのような見解や指導基準を示すのか、その動向が注視されます。
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