- 保佐が始まるとどうなりますか?
- 本人の判断能力が失われていないものの、著しく不十分な場合(日常的な買物程度は単独でできるが重要な財産行為は単独でできない)に、保佐開始の審判とともに、本人を援助する人として保佐人が選任されます。この制度を利用すると、お金を借りたり、保証人となったり、不動産を売買するなど法律で定められた一定の行為について、家庭裁判所が選任した保佐人の同意を得ることが必要になります。保佐人の同意を得ないでした行為については、本人または保佐人が後から取り消すことができます。
ただし、自己決定の尊重の観点から、日用品(食料品や衣料品等)の購入など「日常生活に関する行為」については、保佐人の同意は必要なく、取消しの対象にもなりません。また、家庭裁判所の審判によって、特定の法律行為について保佐人に代理権を与えたりすることもできます。保佐が開始されると、資格などの制限があります。
- 保佐人はどのような仕事をするのですか?
- 保佐人の主な職務は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、本人が重要な財産行為を行う際に適切に同意を与えたり、本人が保佐人の同意を得ないで重要な財産行為をした場合にこれを取り消したりすることです。代理権付与の申立てが認められれば、その認められた範囲内で代理権を行使することができます。
保佐人は、申立てのきっかけとなったこと(例えば、相続登記、保険金の受取、相続放棄の申述等)だけをすればよいものではなく、保佐が終了するまで、行った職務の内容(保佐事務)を定期的に又は随時に家庭裁判所に報告しなければなりません。家庭裁判所に対する報告は、本人の判断能力が回復して保佐が取り消されたり、本人が死亡するまで続きます。
保佐人になった以上、本人の財産は、あくまで「他人の財産」であるという意識を持って管理していただく必要があります。保佐人に不正な行為、著しい不行跡があれば、家庭裁判所は保佐人解任の審判をすることがあります。不正な行為によって本人に損害を与えた場合には、その損害を賠償しなければなりませんし、背任罪、業務上横領罪等の刑事責任を問われることもあります。
- 保佐人の同意を要する行為とは何ですか?。
- 保佐人には、民法13条1項所定の重要な財産に関する行為について同意権が与えられます。すなわち、同条所定の行為を被保佐人が有効に行うためには保佐人の同意が必要であり、保佐人の同意なくして当該行為を行った場合は、保佐人及び被保佐人はこれを取り消すことができます。
① 民法13条1項所定の行為
民法13条1項所定の行為の概要は、次のとおりです。
ア 「元本を領収し,又は利用すること」(1号)
元本とは、他人に利用させることでその対価として収益(法定果実)を生ずるものをいいます。民法13条の規定は、このようなまとまった財産を被保佐人が単独で受領し、不合理に利用することによって財産が浪費されるのを防止しようとするものです。(【比較】ただし、本条9号により,民法602条に定める期間を超えない賃貸借は取り消すことができません。)
イ 「借財又は保証をすること」(2号)
借財とは,金銭消費貸借契約により債務を負担するほか、取引通念上これに準ずる行為も含まれると解されています。
(ア) 債務の承認
時効完成後の債務の承認について、判例は民法13条を類推適用する(大判大正8年5月12日(民録25輯851頁))が、他方で、時効中断の効力を生ずる承認については保佐人の同意を要しないとします(大判大正7年10月9日(民録24輯1886頁))。
(イ) 手形行為
手形行為については、これを借財に当たるとする見解(大判明治39年5月17日(民録12輯758頁))と,借財には当たらず取消し得ないが、保佐人の同意なき約束手形の振り出しは人的抗弁になるとする見解(我妻『新訂民法総則(民法講義I)』84頁)とがあります。
ウ 「不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること」(3号)
本号に該当するものとして、抵当権の設定(大判明治39年6月1日(民録12輯892頁))、消費寄託(大判大正2年7月1日(民録19輯594頁))、土地賃貸借の合意解除(大判昭和12年5月28日(大審院民集16巻903頁))、記名株式の質入れ(大判明治40年7月9日(民録13輯806頁))等の判例があります。「重要な財産」に該当するか否かは、被保佐人の生活状況、財産状況に照らして判断されると解されます。
エ 「訴訟行為をすること」(4号)
オ 「贈与,和解又は仲裁合意をすること」(5号)
贈与を受けることはこれに当たらないと解されています。
力 「相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること」(6号)
相続の承認には単純承認のみならず限定承認をも含みます。限定承認の場合は相続財産の清算をすることが避けられず、それが合理的に行われる必要があるからです。遺産分割につき保佐人の同意を要するのは、遺産分割の仕方により被保佐人が不利益を受ける可能性があるからです。
キ 「贈与の申込みを拒絶し,遺贈を放棄し,負担付贈与の申込みを承諾し,又は負担付遺贈を承認すること」(7号)
贈与の申込み拒絶、遺贈の放棄は、財産を得る機会を失うことになり、負担付贈与の申込みを承諾したり負担付遺贈を承認したりすることは新たな義務を負うことになるから、被保佐人が単独で行った場合には取り消しができます。
ク 「新築,改築,増築又は大修繕をすること」(8号)
ケ 「民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること」(9号)
② 保佐人の同意権の拡張
民法13条1項に定める行為以外の行為についても、保佐人の同意を要するものとする必要がある場合には、保佐開始の審判の申立てをすることができる者からの申立てにより、家庭裁判所は保佐人の同意を要する行為を拡張する審判をすることができます。ただし、その行為は日常生活に関する行為以外のものでなければなりません。これにより、被保佐人の必要性に応じて柔軟な保護が実現できることとなります。③家庭裁判所の同意に代わる許可
保佐人の同意を要する行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意しないときは、被保佐人の請求によって家庭裁判所が保佐人の同意に代わる許可を与えることができます。これは、被保佐人の自己決定の尊重を推し進めた制度であるといえます。
- 保佐人は、後見人と同様に、被保佐人の代理権をもっていますか?
- 保佐人は当然には被保佐人の代理権を有するものではありませんが、被保佐人の保護の必要性に応じて、保佐人に代理権を付与することもできます。
- どのようにしたら代理権が付与されるのですか?
- 保佐開始の審判の申立てをすることができる者又は保佐人若しくは保佐監督人からの申立てにより、家庭裁判所は被保佐人のために「特定の法律行為について」保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができます。
また、代理権付与の審判を行うには,本人の同意が必要です。すなわち、代理権付与の審判は、本人の意思に基づく場合にのみなされます。
- 代理権の範囲はどのように定められますか?
- 代理権の範囲は、被保佐人の保護の必要性に応じて個別具体的に定められ、保佐人は取消権の行使に加えて、その代理権の範囲において被保佐人の財産を管理する権限を有することになります。
- 後見人と同じように、保佐人の代理権も制限される場合がありますか?
- 被保佐人の居住用不動産の処分について家庭裁判所の許可を要します。また、保佐人と被保佐人との利益が相反する場合に、保佐監督人がいない場合には臨時保佐人が選任されます。その内容は,いずれも後見の場合と同様でです。
- 後見人と比較して、保佐人になったときに気をつけるべきことは?
- 被保佐人は被後見人に比べて判断能力低下の程度が小さいこと、そ のために被保佐人自らが法律行為を行う場面が比較的多いことから、 保佐人としては後見の場合以上に被保佐人との意思疎通を十分に行い、 被保佐人の意思を尊重しながら被保佐人のために保佐事務を行う配慮 が求められます。