配偶者居住権のまとめ(10)

 平成31年4月17日より,少しずつ「配偶者居住権のQ&A」を作成しております(過去の記事の一覧)

 なお,配偶者居住権及び配偶者配偶者短期居住権の新設等の施行日は,2020年4月1日(令和2年4月1日)になります。



配偶者居住権はどのような場合に,消滅するのでしょうか?
 配偶者居住権の消滅原因としては,①居住建物所有者による消滅請求(民法1032条4項),②存続期間の満了(民法1036条において準用する民法597条1項),③配偶者の死亡(民法1036条において準用する民法597条3項),④居住建物の全部滅失等(民法1036条において準用する民法616条の2)などがあります。
民法1032条

(配偶者による使用及び収益)
第千三十二条 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
2 配偶者居住権は、譲渡することができない。
3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
4 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。

民法1036条

(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)
第千三十六条 第五百九十七条第一項及び第三項、第六百条、第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する。

民法597条

(期間満了等による使用貸借の終了)
第五百九十七条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。

民法616条の2

(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)
第六百十六条の二 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。


配偶者居住権を得た配偶者が,勝手に,居住建物を増築したのですが,その場合には,居住建物の所有者は,当該配偶者に対し配偶者居住権の消滅請求をすることができるでしょうか?
 配偶者が,民法1032条1項または民法1032条2項の規定に違反した場合,つまり,用法遵守義務や善管注意義務に違反した場合や居住建物の所有者の承諾を得ずに第三者に使用収益をさせ又は増改築をした場合には,居住建物所有者は,配偶者に対して相当の期間を定めて是正の催告を行い,この期間内に是正をされない時は配偶者に対する意思表示によって,配偶者居住権を消滅させることができます。
 したがって,配偶者居住権を得た配偶者が,勝手に,居住建物を増築した場合,居住建物の所有者は,当該配偶者に対し配偶者居住権の消滅請求をすることができます。

配偶者に対する配偶者居住権の消滅請求の場合には,常に,“是正の催告”は必要なのでしょうか?
 配偶者に対する配偶者居住権の消滅請求の場合には,常に,“是正の催告”は必要となります(民法1032条4項)。
 なぜならば,①配偶者は,自らの具体的相続分において,配偶者居住権を取得しており,その意味では,権利取得の対価を負担していることや,②配偶者居住権は審判での設定も認められているなど,必ずしも当事者間の信頼関係に基づくものとは言えないためです(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法23頁)。
 なお,配偶者短期居住権の消滅請求(民法1038条3項)の場合は,是正の催告は必要的なものではありません。
民法1038条

(配偶者による使用)
第千三十八条 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。
2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。
3 配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。


配偶者居住権を得た配偶者が,勝手に,配偶者居住権を譲渡したのですが,その場合には,居住建物の所有者は,当該配偶者に対し配偶者居住権の消滅請求をすることができるでしょうか?
 配偶者居住権の譲渡禁止を定める民法1032条2項に違反しただけでは,建物所有者は配偶者居住権の消滅請求をすることができませんが,実際に,第三者が使用収益をした場合には,配偶者居住権の消滅請求をすることができます(民法1032条)。なぜならば,配偶者居住権の譲渡禁止に違反しただけでは,第三者に使用収益をさせていない段階では,居住建物所有者に実害は生じていないものとも考えられ,配偶者居住権の消滅請求を認めるまでの必要性に乏しいと考えられるからです。
 なお,これは賃貸借の場合(民法612条参照)と同様です。
民法612条

(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。


居住用建物が共有である場合には,各共有者はそれぞれ単独で配偶者居住権の消滅請求をすることができるでしょうか?
 居住用建物が共有である場合には,各共有者はそれぞれ単独で配偶者居住権の消滅請求をすることができるものと考えられています。配偶者居住権は,配偶者の居住の権利を保護するために特に認められた法定の権利であり,配偶者の義務違反によって居住建物価値が毀損することを防ぐために配偶者居住権の消滅請求をすることは保存行為(民法252条ただし書)にあたると考えられるからです(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法23頁)。
民法252条

(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

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