第1 登記事項証明書の取得

家庭裁判所で記録を取得するとどのようなことがわかりますか?
 一件記録の中には、申立書、申立事情説明書、被後見人の財産目録等があります。これらにより、財産調査、財産目録作成の際の資料を得ることができます。被後見人の心身の状況、生活状況、後見事務の課題、親族に関する情報、関係機関に関する情報(担当者の氏名、連絡先等)を得ることで、まず初めに行わなければならない後見事務は何かを把握し、事案ごとに身上配慮義務に沿った後見事務を行うことが可能となります。
自らが後見人であることを第三者に対して証明するための書類はありますか?
後見人が財産調査をする際に、自らが後見人であることを第三者に対して証明するための資格証明書類としては、東京法務局及び全国の法務局、地方法務局(本局)発行の登記事項証明書を用いることができます。

第2 本人や関係者からの情報収集と挨拶

被後見人等との面談に関して注意することはありますか?
 被後見人の心身の状況、生活状況の概要については一件記録に基づいてある程度把握できるにしても、被後見人の「意思を尊重し」た後見事務を行うには、実際に被後見人と面談し、被後見人の意向を確認する必要があります。
 被後見人との面談の際には、成年後見制度の概要について説明し、被後見人の理解を得ること、すなわち、今後は後見人が被後見人のために財産管理を行うこと、後見人に対する希望・要望の有無とその内容、後見人との連絡の取り方等、事務的な事項についての打合せを行い、また、面談を通じて被後見人の後見人に対する信頼を得るよう努めることが、今後の後見事務の円滑な遂行にとって極めて重要です。
被後見人が意思疎通ができない状況にある場合には、面談は不要ですか?
 被後見人が心神喪失状態であるとか、意思疎通が不可能な状態の場合は被後見人の意向確認はできないが、少なくともそのような状態にあるかどうかを確認し、被後見人に必要な後見事務が何であるかを見定めるためにも、被後見人と面会し、被後見人の様子を後見人自ら確認する必要があります。したがって、被後見人が意思疎通ができない状況にある場合でも、面談は必要です。
申立人や親族等の関係者とも面談は必要ですか?
 申立人が被後見人等と同居している場合や、これまでの事実上の財産管理を行ってきた者である場合には、申立人が被後見人の財産や身上に関する情報を最も多く有していると考えられることから、後見人は就任後、できるだけ早い時期に就任挨拶もかねて申立人を訪問すべきです。また、財産関係調査、財産目録作成及び今後の財産管理、身上監護等の後見事務を適正かつ円滑に遂行する上で、申立人の協力は欠かせません。したがって、申立人や親族等の関係者とも面談は必要です。
親族間に紛争等がある場合には、どのような点に注意すべきですか?
 まずは、申立人と、被後見人が同居している親族との間に意見対立がある等、親族間紛争がある場合には、後見人は親族間紛争に巻き込まれないよう注意をします。
 親族間に紛争等があるケースでは、申立人の手元に被後見人の財産に関する情報が乏しい一方で、それまで事実上の財産管理を行ってきた同居親族は後見開始審判に対して反対の意向を持っている場合が多いので、後見人としては同居親族に対して成年後見制度の趣旨を正しく伝え、理解及び協力を得るよう努力するとともに、場合によっては親族の協力なしで独自に被後見人の財産調査をしなければならないことも覚悟しておく必要があります。
 また、後見人は特定の親族の代理人ではなく、被後見人のために財産管理を行う者であるから、一部の親族の立場に立っているとか、親族の一方の利益を重視しているとの誤解を受けないよう配慮しなければなりません。キーマンとなる親族は誰か、対応に注意を要する者はいないか等被後見人を取り巻く人間関係をできるだけ把握しておくことが望ましいといえます。
被後見人が入院等している場合は、どのような点に注意すべきですか?
 被後見人が入院あるいは施設に入所しているような場合は、医療機関担当者、ケアマネージャー、施設の担当者と面談し、これまでの被後見人の心身の状況、生活状況を聴取し、今後の課題を確認するなど、身上監護に関する連携を深めておくほか、医療費、施設費等の支払い方法、被後見人の日常生活費の支出方法等、財産管理に関する事務的な内容や連携の取り方についても十分に打合せを行い、今後の円滑な後見事務に備えておくべきです。いずれにしても、後見人は、就任の初めの段階で、被後見人を取り巻く親族、関係者らと良好な信頼関係を構築するように努め、被後見人のよりよい生活の実現を目指すため円滑な後見事務が行える環境を整えておくべきであるといえます。
近所の人に挨拶はすべきでしょうか?
 本人が在宅で生活しており、同居の親族等の監護者がいないのであれば、隣近所の人に、後見人に就任したこと
の挨拶をしておきます。借家に住んでいる場合には家主や不動産業者にも挨拶しておきましょう。本人に何かあったときには後見人に連絡をくれるように、連絡先もきちんと伝えておきましょう。近所の人は、本人の判断能力が十分ではないことから、在宅での生活を心配したり、不安に感じたりしていることがあるかもしれません。そのような場合には、成年後見制度の基本理念(在宅での生活を望んでいるという本人の意思の尊重、高齢者や障害者等を施設に隔離せず地域の一員として助け合いなカヌら暮らしていくというノーマライゼーションの考え方など)について説明するとともに、具体的な支援の方法を伝え、理解や協力を求めていく必要があります。それには、本人を実際に支援するケアマネジャーや福祉関係者等も紹介し、顔の見える関係をつくり、安心していただくことも大切です。また、本人が入所・入院しており、自宅を空き家のまま管理しなければならない場合もあります。こういった場合にも、同様に就任の挨拶をし、後見人の定期的な確認作業では気が付かないことなどについて連絡をもらえるようにお願いしておきましょう。
地域包括支援センターとの連携はどのようにとるべきでしょうか?
 地域包括支援センターは、市町村により設置された「地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設」です(介護保険法115条の46第1項)。要支援認定を受けた人の介護予防マネジメントを行う介護予防支援事業所でもあるので、本人の認定区分が要支援であれば、かかわりをもってもらうように働きかけ、後見人の連絡先も伝えて連携を求めましょう。
 なお、要介護認定を受けている場合で、担当のケアマネジャーがすでにいる場合には、このケアマネジャーに直接連絡をとればよいのですが、担当のケアマネジャーがいない場合には地域包括支援センターに相談してみましよう。
民生委員との連携はどのようにとるべきでしょうか?
 民生委員とは、「社会奉仕の精神をもって、常に住民の立場に立って相談に応じ、及び必要な援助を行い、もって社会福祉の増進に努める」人のことです(民生委員法1条)。 本人が一人で在宅生活を送る場合には、後見人に就任したことの挨拶をし、連絡先も伝え、見守り等の協力を求めましょう。

第3 財産状況の調査

財産調査はどのようにすればよいでしょうか?
 財産目録を作成する前提として、申立てにあたって添付されている財産目録から把握することのできる通帳などについては、まず、それらを管理している人から引渡しを受けます。被後見人自身が管理している場合には被後見人から、申立人である親族が管理しているような場合にはその親族から、日常生活自立支援事業を利用している場合には社会福祉協議会から、任意後見人カヌいる場合には任意後見人から引き継ぐことになります。通帳がない場合は、再発行の手続をとります。
 引渡しを受ける際に、親族が、管理している通帳をなかなか渡してくれないことがあります。このような場合は、後見業務について理解が得られるように丁寧に説明することが考えられますが、それでも難しい場合には、家庭裁判所の協力を求めたほうがよいこともあります。
申立ての際に把握されている財産以外にも財産があるかどうかは、調査しなければならないのでしょうか?
 申立ての際に把握されている財産以外にも財産があるかどうか、調査をする必要があります。認知症高齢者は、それまでの人生に応じて、多様な財産を所有している場合があります。また、財産に関する重要な書類を紛失している場合もあります。
どのように申立ての際に把握されている財産以外にも財産があるか調査するのでしょうか?
1.金融機関における財産調査
 普通預金があることがわかっている金融機関については、残高証明書を発行して貰い、定期預金など他の種類の預金がないか、貸金庫がないかを確認します。また、郵便局については、ゆうちよ銀行以外に、かんぽ生命保険に加入していないかどうかを確認します。さらに、国債を保有していないかどうかについても確認しましょう。
2.親族等関係人からの事情聴取・自宅調査
 被後見人や親族などといった関係者に聞いたり、自宅を調査して未確認の通帳や現金がないかを確認します。なお、自宅を調査する場合は、被後見人の財産を隠匿したなどとの疑念をもたれることのないように、1人で行わず、公正な第三者など(監督人がいれば監督人)に立ち会ってもらうようにしましょう。
3.確定申告書等
 確定申告をしている場合は、税理士に申告書の控えの提出を求めたり、税務署で過去の申告書を閲覧します。
4.通帳の記載より
 通帳の記載を確認すると、財産の流れがわかります。例えば、年金を受け取れるはずなのに、判明している金融機関の口座には振り込まれていない場合は、年金事務所で振込先の口座を確認します。また、三者による不正な払戻しが懸念される金融機関の口座については、取引履歴を入手します。
不動産はどのように調査するのでしょうか?
 不動産については、法務局の窓口で全部事項証明書を取得し、現在の状況を把握します。全部事項証明書は、後見人でなくても、誰でも取得することができます。全部事項証明書を取得するには、申請書に不動産の地番を記入する必要がありますが、地番は住所と違う場合が多いため、確認することが必要です。わからない場合は、以下の①~④ような方法により地番を確認できます。①登記済証(権利証)または登記識別情報に記載されている不動産の表示で確認することができます。②住所しかわからない場合には、法務局に備え付けられているパソコンなどで、住所から地番を検索したり、地番を確認することができます。③固定資産税納付書に不動産の所在地番が記載されていますから、それで確認することができます。④物件の所在地の市区町村までわかれば、市役所や都税事務所で「名寄帳」をとり、確認することができます。

第4 各機関への届出

なぜ、金融機関に届出をしなければならないのですか?また、金融機関に届出を出したら、どうなるのですか?
  金融機関への届出は、スムーズな後見活動をするための環境作りをするとともに、金融機関との取引を後見人が行うことを明らかにする目的があります。金融機関に届出を出した場合、金融機関によって、多少異なりますが、下記のとおりになります。
(1)成年後見の場合
 届出により、成年後見人以外の人(本人を含む)は取引できなくなります。
(2)保佐の場合
 金融機関との取引に関する代理権が付与されている場合には、この届出により、法律上、当然に本人が取引できなくなるわけではありませんが、実務上、保佐人以外の人(本人を含みます)は取引できなくなるとしている金融機関が多いのが現状です。
 金融機関との取引に関する代理権の付与がないときには、保佐人からする届出は同意権者としての届出になります。この場合、本人は、保佐人の同意を得て、みずから取引をすることができます。どちらの場合も、できれば本人にも金融機関に同行してもらい、今後の取引がどのようになるのか理解してもらうことも大切です。
(3)補助の場合
 金融機関との取引に関する代理権が付与されている場合には、この届出により、法律上、当然に本人が取引できなくなるわけではありませんが、実務上、補助人以外の人(本人を含みます)は取引できなくなるとしている金融機関が多いのが現状です。
 金融機関との取引に関する代理権の付与がないときで、同意権が付与されてい金融機関との取引に関する代理権の付与がないときで、同意権が付与されている場合には、補助人が行う届出は同意権者としての届出になります。この場合、本人は補助人の同意を得てみずから取引をすることができます。
 どちらの場合も、できれば本人にも金融機関に同行してもらい、今後の取引がどのようになるのか理解してもらうことも大切です。補助人に当該金融機関との取引に関する同意権および代理権が付与されていなければ、本人は補助人の関与なくしてみずから取引をすることができます。

第5 財産目録・予定収支表の作成

後見人に選任された場合には、財産目録を作成しなければならないようですが、財産目録とはどのようなものでしょうか?
 後見人は、選任審判確定後遅滞なく被後見人の財産調査に着手し、1か月以内にその調査を終わり、財産目録を作成しなければなりません。財産調査及びこれに基づいて作成される財産目録は、財産管理の開始時における被後見人の財産内容を明らかにし、後日、被後見人の財産の増減を計算する際の標準となるとともに、被後見人の財産と後見人の財産の混同を防ぎ、適正・明確な財産管理を行うために欠かせないものです。
 また、後見監督人が選任されている場合は、財産調査及び財産目録作成は後見監督人の立会いの下に行わなければなりません。実務においては、後見人が財産調査、財産目録の作成を行い、後見監督人の点検を受ける形で行われることもあります。
財産目録の記載内容は、どのように記載すべきでしょうか?
 財産目録には、財産の種類ごとにその名称、特定のための事項を記載しなければなりません。例えば、①土地の場合には、所在、地番、地目地積等、②建物の場合には、所在、家屋番号、種類、構造、床面積等、③預貯金の場合には、銀行名、支店名、口座の種類、口座番号、預貯金残額等、④株式の場合には、銘柄、株式数等、⑤保険の場合には、保険会社名、保険の種類、保険証券番号等、⑥債務の場合には、債権者名、債務額、原因及びその日付、弁済期限等が記載内容になります。
財産目録の作成前に、後見人所有の空き地を駐車場として賃貸することは可能でしょうか?
 後見人は、財産目録の作成が終了するまでは、急迫の必要がある行為以外の行為を行うことはできません。なぜなら、広範な財産管理権を有する後見人が、財産目録作成前にその権限を無制限に行使できるとすれば、財産目録作成の趣旨が損なわれるからです。
 「急迫の必要がある行為」とは、被後見人に回復しがたい財産上の不利益をもたらす事態を避けるために、財産目録の作成前でもする必要がある行為を指し、法律行為のみならず事実行為も含まれます。具体的には、債権保全のための時効中断、仮差押え、仮処分、緊急を要する家屋の修繕等がこれにあたります。
 したがって、財産目録の作成前には、原則として、後見人所有の空き地を駐車場として賃貸することはできないと考えるべきでしょう。
管理財産の引継ぎについて、どのようにして行うべきですか?
 後見人は、財産調査及び財産目録の作成と並行して、被後見人の財産を被後見人自身から、あるいはそれまで事実上の財産管理をしていた者から引渡しを受け、以後、後見人が被後見人の財産を実質的にも管理することとなります。
 また、後見人が管理財産を現実に占有・支配しながら管理する方法のほか、管理財産の額や内容によっては、それまで第三者が占有して管理していたものを、その占有状態をそのまま継続し、後見人が間接占有する形で管理することもあります。例えば、被後見人が入所先の施設で必要とする日用品等購入のための金銭、小遣い等について、一定の少額の範囲内で、入所先施設に管理を委ねるなどの方法があります。
預貯金等の管理財産の引継方法について、教えてください。
 後見(保佐、補助を含む。)が開始した場合は、被後見人名義の口座を有する金融機関に対して後見開始の審判があった旨を届け出るべきことが各金融機関の取引規定で定められているので、後見人はこの届出を行うとともに自らが後見人に就任したことを金融機関に知らせなければなりません。金融機関によってはキャッシュカードの利用が制限される場合もあります。
 その他被後見人の生活状況や必要に応じて、公租公課、年金、介護保険等の関係官署に対して後見開始及び後見人就任の連絡を行い、各種手続の切り替えや申請などを行わなければなりません。
被後見人の支出金額を予測しなければならないようですが、それはなぜですか?
 後見人は、就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養看護、財産管理のために毎年費やすべき金額を予定しなければなりません。
 これは、財産管理について広範な権限を持つ後見人が恣意的な支出を行うと、被後見人に重大な損害を及ぼすことから、あらかじめ予算を立てさせ、それに従って適正に財産管理を行わせようとする趣旨です。
どのように支出の予算を立てるのでしょうか?
 後見人が予算を立てるためには、被後見人の財産状況、生活状況等を見ながら身上配慮義務に従って適正な支出内容を確定することが必要です。したがって、財産調査及び財産目録作成が終了し、被後見人の財産状況が明らかになった段階で、速やかに支出金額の予定をすべきです。支出金額の細目や内訳を明らかにすることは法律上求められていませんが、ある程度の概算で、生活費、医療費、公租公課、後見事務費等の細目を定めて積算するのが望ましいといえます。
 実務においては、家庭裁判所が後見監督の一環として、財産目録とともに収支予定表等の提出を求めていることが多く、この収支予定表の作成が支出金額の予定を兼ねることになります。収支予定表の書式は、各家庭裁判所で定めているので、これを利用するとよいでしょう。
 なお、家庭裁判所から提出を求められる収支予定表は1年間のものが多いが、後見人としては被後見人の身上に配慮した長期的・計画的な収支予定を立てて後見事務に望むべきです。24時間介護のように長期にわたり多額の支出を要する契約をするときは、必要性をよく吟味し、被後見人の存命中に資産が底をつくようなことがないように収支のバランスを考えて十分に計画を練る必要があります。
財産目録を期限内に提出することができません。どのようにすればよいでしょうか?
 民法853条に定められているように、成年後見人は、就任してから1カ月以内に財産目録を作成しなければなりません。この1力月の提出期限については、成年後見人に就任する際に、家庭裁判所が期日を指定しますので、その期日までに提出することになります。しかし、以下のような事情により1力月という期間では十分でないこともあります。そのような場合には期間を伸長してもらうことが可能です(民法853条1項ただし書)。
 ① 申立ての段階で財産調査が未了である
 ② 把握できない財産がある
 ③ 財産が多い
 ④ 通帳などの財産を管理している親族の協力が得られない
 期間を伸長したい場合には、被後見人等の住所地を管轄する家庭裁判所に財産目録作成期間伸長の申立てをします。この申立てを受けて、家庭裁判所は、相当と思える期間の伸長を決定することになります。なお、このような正式な申立てでなくとも、期間内に提出ができないことがわかった場合には、その時点ですぐに、提出が遅れる旨の連絡を家庭裁判所にして ください。また、提出期限日において、「その時点で判明している限りの財産目 録」を作成して提出することも可能ですし、ほぼ確定しているものについては、 「調査中」として提出することも可能です(いずれにしても、調査を終了した後 は、追加の財産目録を速やかに提出することとなります)。財産目録を作成して家庭裁判所に提出した後に、予期していなかった財産が出てくることもあります。これについても、わかった時点ですぐに家庭裁判所に連絡し、追加の財産目録を提出します。