配偶者居住権のまとめ(11)

 平成31年4月17日より,少しずつ「配偶者居住権のQ&A」を作成しております(過去の記事の一覧)

 なお,配偶者居住権及び配偶者配偶者短期居住権の新設等の施行日は,2020年4月1日(令和2年4月1日)になります。



配偶者居住権が消滅した場合には,どのような効果がありますか?仮に,居住建物の持分を配偶者が取得している場合にでも,配偶者居住権が消滅したことをもってして,居住建物の返還義務を負いますか?
 配偶者居住権が消滅した場合には,配偶者は,居住建物の返還義務を負います(民法1035条1項本文)。もっとも,配偶者が居住建物の共有持分を有する場合には,配偶者は共有持分につき建物を占有することができることから,配偶者居住権が消滅したことを理由とする返還義務は負わないことになっています(民法1035条ただし書き)
民法1035条

(居住建物の返還等)
第千三十五条 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。


配偶者居住権が消滅した後の原状回復はどのようにすればよいでしょうか?例えば,相続開始後に居住建物にエアコンを新たに設置した場合には,そのエアコンを持っていってよいのでしょうか?
 配偶者が,相続開始後に居住建物に付属させたものがある場合には,配偶者は,これを収去する権利を有し,義務を負います(民法1035条2項において準用する民法599条1項及び2項)。したがって,当該エアコンに関しては,配偶者は持っていってよいと考えられます。

配偶者居住権が消滅した後の,原状回復はどのようにすればよいでしょうか?例えば,相続開始後に,飼い始めた犬が居住建物の柱を噛んで損傷した場合には,当該柱のキズは直さないといけないでしょうか?
 居住建物について相続開始後に生じた損傷がある場合には,配偶者は,通常の使用によって生じた居住建物損傷及び居住建物の経年劣化を除き原状回復義務を負います(民法1035条2項において準用する621条)。したがって,配偶者は,当該柱については原状回復義務があるため柱のキズを直すべきです。
民法599条

(借主による収去等)
第五百九十九条 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
3 借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。


配偶者居住権の存続期間中に配偶者が死亡した場合には,存続期間中は,配偶者の相続人が当該配偶者居住権を相続するということでしょうか?
 配偶者居住権の存続期間は,原則として配偶者の終身の間とされており (民法1030条本文),遺産分割等において別段の定めをした場合でも,存続期間中に配偶者が死亡したときは,配偶者居住権は消滅します(民法1036条において準用する民法597条3項)。したがって,配偶者が配偶者居住権の存続期間中に死亡した場合には,当然に,当該配偶者居住権が消滅しますので,配偶者居住権は相続しません。

配偶者居住権の存続期間の定めは,どのように登記すべきでしょうか?
 ①配偶者居住権の登記の登記事項であるその存続期間について別段の定めがない場合には「存続期間配偶者の死亡時まで」,②別段の定めがある場合には 「存続期間 令和2年何月何日から何年(又は「令和2年何月何日から令和22年何月何日まで」)又は配偶者の死亡時までのうち,いずれか短い期間」と公示することが相当であると考えられています(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法24頁)。

配偶者居住権は,配偶者居住権が消滅した場合に,建物所有者の単独申請で配偶者居住権の抹消登記を申請することができるでしょうか?
 不動産登記法69条では,権利が人の死亡によって消滅する旨が登記されている場合において,当該権利がその死亡によって消滅したときは,登記権利者が単独で当該権利にかかる権利に関する登記の抹消申請することができることとされています。そして,配偶者居住権の登記においては,配偶者居住権の存続期間として別段の定めの有無に関わらず,配偶者の死亡時が終期として必ず登記記録に記録されることから,配偶者居住権が配偶者の死亡によって消滅する旨が登記されているものと理解することができます。したがって,配偶者の死亡によって配偶者居住権が消滅した場合には,登記権利者である建物居住の所有者は不動産登記法69条に基づき単独で配偶者居住権の設定の登記の抹消を申請することができると考えられます(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法24頁)。
不動産登記法69条

(死亡又は解散による登記の抹消)
第六十九条 権利が人の死亡又は法人の解散によって消滅する旨が登記されている場合において、当該権利がその死亡又は解散によって消滅したときは、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該権利に係る権利に関する登記の抹消を申請することができる。

不動産登記法60条

(共同申請)
第六十条 権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。


配偶者が死亡せず,配偶者居住権がその存続期間が終了したために消滅した場合には,建物所有者の単独申請で配偶者居住権の抹消登記を申請することができるでしょうか?
 配偶者の死亡以外の原因(存続期間の定めがある場合に,存続期間の終期が経過した場合など)によって,配偶者居住権が消滅した場合には,居住建物の所有者及び配偶者は,不動産登記法60条に基づき共同で配偶者居住権の設定の登記を抹消を申請することになります。

配偶者居住権の設定を受けた配偶者と建物所有者との合意により配偶者居住権を消滅させることになった場合には,建物所有者の単独申請で配偶者居住権の抹消登記を申請することができるでしょうか?
 配偶者の死亡以外の原因(建物所有者との合意により配偶者居住権を消滅させる場合など)によって,配偶者居住権が消滅した場合には,居住建物の所有者及び配偶者は,不動産登記法60条に基づき共同で配偶者居住権の設定の登記を抹消を申請することになります。
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