岡口裁判官の「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」不要説(否認説)
さて,特別研修が,先週の土曜日から始まりましたが,岡口裁判官の下記のツイートが,特別研修の研修生間で物議を醸しそうなので,コメントをします。
なお,私は,今年もチューターをしておりますが,本件に関しては,現在(平成30年1月30日)の私の考えであり,特別研修の中で,話をすることは,避けたいと考えております(懇親会(飲み会)で,話をするのはありでしょうけど…。)。
1.岡口裁判官のTweet
この「司法研修所の独自の見解」が,判例学説の支持を得ることはなかったし、実務でもこんな抗弁はお見かけしない。
ところが、なぜか,近時の司法試験では,この抗弁が大人気。
司法試験や予備試験で毎年のように出題されている。学者試験委員は,この抗弁について、どう考えているのだろうか・・
— 岡口基一 (@okaguchik) 2018年1月28日
2.岡口裁判官の「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」不要説(否認説)
岡口裁判官は,上記のとおり,「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」を司法研修所の独自説としています。たしかに,岡口裁判官の言うとおり,「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」は,抗弁としては,相応しくないです。なぜならば,抗弁とは,①請求原因事実と両立しつつその法律効果を排斥する別個の事実をいい,かつ②被告が立証責任を負う主要事実であるためです。「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」を抗弁として認めると,本来,被告側に,対抗要件具備の立証責任があることになり,それは,二重譲渡の譲受人間の公平を害するものということになります。
3.司法研修所の考えと私の考え
私が,推論するに,司法研修所としては,『二重譲渡の場合に,被告側が“反論”する方法として,①被告に対抗要件がない場合は“対抗要件の抗弁”を主張することができ,②被告に対抗要件がある場合は,“対抗要件具備による所有権喪失の抗弁”を主張することができる』という安易な考えにより,「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」を紹介しているのではないでしょうか。
そもそも,対抗要件の抗弁の説は主に3説に分かれていますが,私も,岡口裁判官が考えているとおり(?),対抗要件の抗弁として主張する事実(A被告間の所有権移転原因事実)は,抗弁ではなく,否認(の理由)であると思います。これは,上記で説明したとおり,「対抗要件の抗弁」を抗弁として説明すると,二重譲渡の場合に,被告に立証責任を負わせるかのような説明になり,不適切であるからです。
つまり,『二重譲渡の場合に,被告側が“否認”する方法として,被告に対抗要件がない場合でも,被告に対抗要件がある場合でも,被告が“A被告間の所有権移転原因事実”を主張することで,原告は,原告による対抗要件具備を主張立証しなければならない』ことになります。
4.認定考査で,二重譲渡の事案が出てきたらどう記載するか?
(1)司法研修所の説で書く
まず,第一の選択は,司法研修所説で書くことです。つまり,『二重譲渡の場合に,被告側が“反論”する方法として,①被告に対抗要件がない場合は“対抗要件の抗弁”を主張することができ,②被告に対抗要件がある場合は,“対抗要件具備による所有権喪失の抗弁”を主張することができる』と覚えるのです。抗弁なのかなと,モヤモヤしながら,書くことになりそうですが,採点側としては,これを不正解にすることは,難しいはずです。
(2)岡口裁判官の説で書く
第二の選択は,岡口裁判官の説で書くことです。つまり,「対抗要件の抗弁」や「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」なんて,書かないのです。それは,抗弁ではないと,断固拒否するのです。「基づく登記」の抗弁と「登記基づく」の抗弁って言い回しが似ているな,とか思わなくていいのです。現在のところ,私は,試験対策としては,オススメできませんが。
5.さいごに
要件事実の勉強をすると,思いの外,様々な説があり,どの説が正しいのかわからなくなることもありますが,多数説で書いておけば,認定考査で不合格になることはありません。あまり,神経質にならないように,注意しましょう。
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