配偶者居住権のまとめ(3)
平成31年4月17日より,少しずつ「配偶者居住権のQ&A」を作成しております(過去の記事の一覧)。
なお,配偶者居住権及び配偶者配偶者短期居住権の新設等の施行日は,2020年4月1日(令和2年4月1日)になります。
- 【配偶者居住権の成立要件】配偶者居住権の贈与は,配偶者に対する特別受益に該当しないのですか?
- 配偶者が,遺産分割により配偶者居住権を取得する場合には,原則として,他の遺産を取得する場合と同様に自らの具体的相続分の中からこれを取得することになります。また,遺贈または死因贈与により配偶者居住権を取得する場合には特別受益に該当することになります。
もっとも,配偶者居住権の遺贈または死因贈与がされた場合には,民法903条4項の規定が準用されるため(民法1028条3項),婚姻期間が20年以上の夫婦間において配偶者居住権の遺贈または死因贈与がされた場合には,これらの遺贈または死因贈与は原則として特別受益とは取り扱われないこととなります。
- 【配偶者居住権の成立要件】亡夫の前妻の子が,配偶者居住権の設定につき,反対しています。この場合,遺産分割の調停や審判によって配偶者居住権を発生させることはできますか?
- 民法1028条1項1号の遺産分割には遺産分割の審判も含まれるから,他の相続人が反対してる場合あっても審判によって配偶者に配偶者居住権を取得させることも可能です。
遺産分割の請求を受けた家庭裁判所は,共同相続人の間で配偶者に配偶者居住権を取得させることについて合意が成立している時か,または,配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要であると認めるときに限り配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の審判をすることができることとしています(民法1029条)
- 【配偶者居住権の成立要件】配偶者居住権を“遺言”で設定する場合に,気をつけなければならないことはありますか?
- 被相続人が遺言によって配偶者に配偶者居住権を取得させるためには“遺贈”によることを要します。特定財産承継遺言,いわゆる相続させる旨の遺言の家遺産分割方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言(民法1014条2項参照)によることはできないこととしています。
これは仮に,特定財産承継遺言による取得を認めることとすると,配偶者が配偶者居住権の取得を希望しない場合にも配偶者居住権の取得のみを拒絶することができずに相続放棄をするしか他ないこととなり,かえって配偶者の利益を害するおそれがあること 配偶者居住権の取得には一定の義務の負担を伴うことになるが一般に遺産分割方法の指定について負担をすることはできないとかいされていること等を考慮したものです。(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法14頁)
このため,遺言者があえて配偶者居住権を目的として特定財産承継遺言をしたと認められる場合には,その部分は無効ということになるが,通常は遺言者があえて無効な遺言をすることは考え難い。したがって,例えば相続させる旨の遺言により遺産の全部を対象として各遺産の帰属は決められ,その中で配偶者に配偶者居住権を相続させる旨が記載されていた場合でも,少なくとも配偶者居住権に関する部分については以上の趣旨であると解するのが遺言者の合理的意思に合致するものと考えられる(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法14頁)。
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