配偶者居住権のまとめ(12)
平成31年4月17日より,少しずつ「配偶者居住権のQ&A」を作成しております(過去の記事の一覧)。また,令和元年5月14日より配偶者短期居住権に入りました。
なお,配偶者居住権及び配偶者配偶者短期居住権の新設等の施行日は,2020年4月1日(令和2年4月1日)になります。
(配偶者短期居住権)
第千三十七条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合 第三項の申入れの日から六箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。
- 配偶者短期居住権は,内縁の妻の場合にでも,発生しますか?
- 配偶者短期居住権を取得することができる配偶者は,法律上の配偶者であることが必要です(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法27頁)。したがって,内縁の妻には,配偶者居住権を認められません。これは,配偶者居住権も同様です。
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
- 被相続人が共有持分しか所有していなかった場合,被相続人が所有していなかった共有持分(他の共有持分)に応じた賃料相当額を,当該他の共有持分の所有者に対して支払わなければならないでしょうか?
- 被相続人の生前から居住建物の共有持分を有していた他の共有者に対しては,被相続人が有していた占有権限に基づいて引き続き居住建物を使用することができます。他の共有者との関係では占有権限を設定した法律行為に基づいて対価が発生する場合には,その支払い義務は,居住建物の取得者が引き継ぐことになり,居住建物取得者が他の共有者に対して対価を支払う義務を負います。
もっとも,配偶者は居住建物の通常の必要費を負担するとされており(民法1041条において準用する1034条1項),居住建物を使用するために他の共有者に対して支払うべき対価は通常の必要費に該当すると考えられるから,居住建物取得者が他の共有者に対して対価の支払いをした場合には,配偶者は居住建物取得者に対してこれを償還しなければなりません。
なお,配偶者が他の共有者に対して,その支払いをした場合には求償関係は生じないことになります(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法28頁)。
(使用貸借等の規定の準用)
第千四十一条 第五百九十七条第三項、第六百条、第六百十六条の二、第千三十二条第二項、第千三十三条及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。
(居住建物の費用の負担)
第千三十四条 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
2 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
- 被相続人及び配偶者が借家に居住していた場合に,配偶者短期居住権は成立するでしょうか?
- 被相続人及び配偶者が借家に居住していた場合には,被相続人が賃料を負担し,配偶者自身は居住の対価を負担していなかったとしても,配偶者短期居住権は成立しません。
なぜならば,この場合には,①配偶者は相続によって,その賃借権を他の共同相続人と準共有することになるから,賃借権の準共有持分に基づいて借家での居住を継続することができ,配偶者が他の共同相続人の負担部分を含めて賃料全額の弁済を続けている限り,配偶者の居住自体を保護されるからです。また,②借家に関して配偶者短期居住権を認めると,配偶者は,借家に無償で居住することまでを認めることになりますが,その場合,賃料を他の共同相続人に負担させることとなり,それは他の共同相続人の負担が過大なものになるからです。
- 被相続人の配偶者は,被相続人の「相続開始の時に無償で居住」とありますが,配偶者が長期入院をしている場合には,配偶者短期居住権は認められないのでしょうか?
- 居住建物に居住していたと言えるためには,生活の本拠として現に居住の用に供していたことが必要です。配偶者が相続開始の時点で入院等のために一時的に被相続人の建物以外の場所に滞在していたとしても,配偶者の家財道具がその建物に存在しており,退院後はそこに帰ることが予定されているなど被相続人所有の建物が配偶者の生活の本拠としての実態を失っていないと認められる場合には,配偶者はなおその建物に居住していたということができ,配偶者短期居住権の成立を認めることができます。
司法書士なかしま事務所
司法書士 中嶋 剛士
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