【試験】【実務】取締役会議事録等に押印ではなくクラウド型電子署名をした場合,有効か否かver1.5

目次【クラウド型電子署名の有効性】

社会的な背景

クラウドサインなどのクラウド型電子署名とは

 現在,新型コロナウイルスの影響により,多くの企業ではリモートワークを推進している。もっとも,リモートワークを推進させるものの,様々な書面に押印をする日本の「ハンコ文化」がボトルネックになり,完全なリモートワークができないでいる。

 そこで,クラウドサインというクラウド型電子署名付与会社が注目を集めている。なぜならば,「PDFにクラウドサインという会社の電子署名を付与すれば,書面に押印するという手間が省けることになる(つまり,ペーパーレス化もできる)」と謳っているからである。

https://www.cloudsign.jp/

クラウド型電子署名=立会人型電子署名

クラウド型電子署名付与会社のサービス

 そもそもクラウドサインなどのクラウド型電子署名付与会社とはどのようなサービスをしているのだろうか。基本的には,「クラウドサイン」など,現在普及している電子契約サービスは,当事者同士が電子署名をしない「立会人型」と呼ばれる形式のサービスを行っている。

 具体的には,契約の当事者が,PDFなどの書類データをネットに上げて,これを双方が確認し,合意すれば、立ち会った「クラウドサイン」が自らの名義で「契約書が甲と乙によるものであることを確認した」と電子署名するサービスである。「クラウドサイン」としては,別人が当事者同士になりすましていないかの本人確認はメールアドレスやパスワードで行うとのことである。

 英米では立会人型のクラウド上の電子契約が広く普及しており,判例で有効性が認められている。米大手のドキュサインは約180カ国で展開し,すでに56万社以上が導入。英フレッシュフィールズ法律事務所の調べによると,クラウド型電子契約は世界中で3月以降に急増し,4月だけで1~3月の累計件数を上回ったもようだ(2020/5/28[日経新聞])

クラウド型電子署名のメリット

 通常の電子署名と比較して,クラウド型電子署名のメリットは,契約の当事者が,「実印の印鑑証明書」に相当する「電子署名の電子証明書」などを取得しなくてもすむということである。要するに,クラウド型電子署名は,メールアドレスとパスワードだけで契約ができるということであるので,電子証明書の発行費用や維持費用などの費用負担もない。

クラウド型電子署名のデメリット

 通常の電子署名と比較して,クラウド型電子署名のデメリットは,第三者が電子署名した契約書が法的に有効なのかは実は曖昧であることである。なぜなら,立会人型の場合は『本人』の電子署名ではないので、電子署名法の規定では文書は本物として成立したと認められない可能性が高いからである。法務省などもこうした電子契約書について「電子署名法3条に基づく推定効(文書が有効だと推定されること)は働き得ないと認識している」との見解を2020年5月12日の政府の規制改革推進会議の会合で示している。

一般的な電子署名=当事者型電子署名

通常の電子署名

 電子署名法3条に基づく推定効(文書が有効だと推定されること)が働くと言われているのは,通常の一般的な電子署名である。その従来から有効だとされてきた一般的な電子署名とは,ICカードを用いた方法や,クラウド上であっても「当事者型」と呼ばれる形式である。

 当事者型電子署名では,電子署名の利用者が認証サービスを手掛ける事業者に自らを証明する書類などを提出し,事業者が電子証明書の入ったICカードや電子ファイルを発行し,その発行された電子証明書を使って当事者同士が署名をすることになる。

当事者型電子署名のデメリット

 この当事者型電子署名の弱点は,上記のとおり,双方が電子証明書を持っていなくてはならないことである。もちろん契約の方式は本来自由であるため,クラウド上で結んでも成立する。トラブルで裁判になった場合はこうして結ばれた電子契約書や,事業者が提出するログ情報なども証拠になりうる。しかし有効性を巡る過去の判例はなく,当事者同士が署名した紙や電子の契約書に比べると証明力が劣り,法律上不利益に働く可能性がある。

紙の書面の「文書の真正な成立の推定」

二段の推定

 そもそも,書面の場合の押印はなんのためにあるかというと,紛争の予防又は紛争の解決のためである。これについては,【(要件事実)二段の推定と推定の覆し方】で説明しているとおりである。

 二段の推定とは,簡単に言うと,「文書は本人の意思によって作成されていなければならないが,本人の意思を文書から判断することは難しい,そこで,民事訴訟法228条4項では,文書(私文書)に本人の署名または押印があれば,本人の意思によって作成された文書であることを推定する」規則である。つまり,民事訴訟で,本人または代理人が文書に署名あるいは押印したことを認めている場合や,証拠上その事実が認められる場合には,民訴法228条4項により,文書の成立の真正が推定されることになっている。この二段の推定の規定があるので,文書には押印をしなければならないのだ。

署名代理

 なお,上記,署名又は記名押印につき,書面には代理行為であることを表さず,代理人が本人名義で署名押印又は記名押印して代理行為を行う,いわゆる「署名代理」の方法がある。

 この署名代理の方法によって作成された処分証書は,本人名義の文書であるという面からすれば,二段の推定が働くものと考える余地があるが,代理人によって作成された文書であるということからすれば,その適用を否定すべきものとも考えられる。

 この点,署名代理についての判例はないが,実務上では,二段の推定が働くものと考えることが多いであろう。

電子署名の場合の「電子文書の真正な成立の推定」

 それでは,紙の書面ではなく,電子文書の場合はどうであろうか。これは電子署名及び認証業務に関する法律3条のとおりである。

 つまり,電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定されることになっている。

電子署名及び認証業務に関する法律

第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

(定義)
第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。

一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。

二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

クラウドサインのサービス=電子署名の署名代理

2020年5月22日時点での法務省の考え方

 それでは,クラウドサインの電子署名は,電子署名法上の電子署名と考えることができるであろうか。つまり,「取締役会議事録等に押印ではなくクラウド型電子署名をした場合,有効か否か」が問題になる。

 2020年5月22日時点での法務省の考え方は,下記のとおり否定的に捉えていたようだ。その根拠は,【クラウドサインの電子署名は,立会人型電子署名であり,「クラウドサイン」が自らの名義で「契約書が甲と乙によるものであることを確認した」と電子署名をしたからといって,本人が電子署名をしたわけではないので,電子署名法上の電子署名とは考えられないから】というものであった。

2020年 5月22日開催の規制改革推進会議成長戦略WGに提出した論点に対する回答(リ・デザイン)

 電子署名法の解釈として,御指摘のいわゆる「リモート署名」又は「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」であっても,電子署名法第2条第1項各号の要件を満たすものについては,同条に規定する「電子署名」に該当するものであると解される。ただし,この場合であっても,「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」は,電子契約事業者が自ら電子署名を行うサービスであって,当該サービスによる電子署名は,電子契約事業者の電子署名であると整理される。このように整理される場合には,出席した取締役又は監査役が「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」を利用して電磁的記録をもって作成された取締役会の議事録に電子署名をしても,当該電子署名は取締役等の電子署名ではないこととなり,会社法第369条第4項の署名又は記名押印に代わる措置としては認められないこととなると考えられる。

https://www.cloudsign.jp/media/20200601-houmusyou-shinkaisyaku/

会社法369条

(取締役会の決議)
第三百六十九条 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
4 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。
5 取締役会の決議に参加した取締役であって第三項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。

2020年5月29日時点での法務省の考え方

 一方で,2020年5月29日時点での法務省の考え方は,下記のとおり肯定的に捉えるようになったようである。

 つまり,クラウドサインの電子署名(クラウド型電子署名)は,(電子署名法上の電子署名と考えることができるか否かは置いといて,)会社法369条4項の電子署名と考えることができるということである。

2020年5月29日付法務省新解釈の解説(リ・デザイン)

 会社法上,取締役会に出席した取締役及び監査役は,当該取締役会の議事録に署名又は記名押印をしなければならないこととされています(会社法第369条第3項)。また,当該議事録が電磁的記録をもって作成されている場合には,署名又は記名押印に代わる措置として,電子署名をすることとされています(同条第4項,会社法施行規則第225条第1項第6号,第2項)。
 当該措置は,取締役会に出席した取締役又は監査役が,取締役会の議事録の内容を確認し,その内容が正確であり,異議がないと判断したことを示すものであれば足りると考えられます。したがって,いわゆるリモート署名(注 サービス提供事業者のサーバに利用者の署名鍵を設置・保管し,利用者がサーバにリモートでログインした上で自らの署名鍵で当該事業者のサーバ上で電子署名を行うもの)や サービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスであっても,取締役会に出席した取締役又は監査役がそのように判断したことを示すものとして,当該取締役会の議事録について,その意思に基づいて当該措置がとられていれば,署名又は記名押印に代わる措置としての電子署名として有効なものであると考えられます。

https://www.cloudsign.jp/media/20200601-houmusyou-shinkaisyaku/

 なぜ,このように解釈に変更があったのかを考えると,私は法務省が次の通りに考えたのではないだろうかと思っている。

 それは,①「クラウドサインの電子署名サービス(クラウド型電子署名)は立会人型電子署名という側面もあるが,一方で,署名代理とみることもできる」し,②「会社法369条3項で求められている【署名又は記名押印】の電子バージョンが会社法369条4項の電子署名であることから,会社法369条4項の電子署名は署名代理でも問題がないと考えることができる」。よって,「クラウドサインの電子署名サービス(クラウド型電子署名)は会社法369条4項の電子署名として有効である。」という考えである。

登記に使えるの?

 多くの司法書士・司法書士受験生の疑問点は,クラウドサインのサービス(クラウド型電子署名)で作成された議事録が登記の申請で使えるか否かである。

 この点,上記のとおり,リ・デザイン(クラウドサイン)の情報が正しいことを前提とするならば,認印で足りるような議事録等の場合には,クラウドサインのサービス(クラウド型電子署名)で作成された議事録が登記の申請で使えることになる。

 もっとも,実印が必要な議事録等の場合には,登記の申請には使用することはできないであろう。これは,クラウドサインは役所ではないから,真実性の担保が弱いからである。

 この点には,内藤先生も下記のとおり,記事を書いている。 

法務省,取締役会議事録の電子署名,「リモート型」と「クラウド型」を認める(内藤先生)

通常の取締役会議事録は,「署名」のみ,又は「記名押印」(認印も可)で足りるので,電子署名も緩やかな規律(認印レベル)でよいと思うが,代表取締役の選定に係る取締役会の議事録については,書面では,実印の押印と印鑑証明書の添付が求められており,電子署名の場合も同レベルの規律が求められることになる。そういった意味では,上記の電子署名では難しいのではないか。再任の場合等には,従前の代表取締役が商業登記に基礎を置く電子認証制度に基づく電子署名をすれば,その他の取締役や監査役は,上記の電子署名でよいわけであるが。

司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

結論(「二段の推定」の理解は大事)

 以上のとおり,「取締役会議事録等に押印ではなくクラウド型電子署名をした場合,有効か否か」について書き出すと,色々と長くなったが,【二段の推定】について理解をしていれば,かなりシンプルな考え(電子署名の署名代理もありという考え)で結論が出せることになっている。

 要するに,【実印が必要とされる議事録等の場合には,クラウド型電子署名は使えないが,認印でよい議事録等の場合には,クラウド型電子署名でも問題がない】ということだ。

おそらく。

 司法書士受験生は,これを機会に【二段の推定】を正確に理解しておきましょう。おそらく,そのうち試験に出ます。

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