配偶者居住権のまとめ(13)

 平成31年4月17日より,少しずつ「配偶者居住権のQ&A」を作成しております(過去の記事の一覧)。また,令和元年5月14日より配偶者短期居住権に入りました。

 なお,配偶者居住権及び配偶者配偶者短期居住権の新設等の施行日は,2020年4月1日(令和2年4月1日)になります。



配偶者短期居住権は,配偶者居住権と同じように,居住建物を取得した第三者に対し,対抗(配偶者短期居住権の主張)をすることができますか?
 配偶者短期居住権は,下記の平成8年判例を参考にしつつ,被相続人の意思にかかわらず成立する法定の債権として構成したものであり,配偶者を債権者とし,居住建物取得者を債務者とする使用貸借類似の性質を有しています。(民法1037条1項)
 このように配偶者短期居住権は,①あくまで債権であり,使用貸借類似の性質を有する権利として構成していること,②その存続期間は短期間に限定されるのが通常であることなどを考慮して,配偶者居住権と異なり対抗要件制度を設けることとはしていません。
 したがって,居住建物取得者が,その居住建物の所有権または共有持分を第三者に譲渡した場合には,配偶者は配偶者短期居住権をその譲受人に対抗することができません(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法33頁)。

事件番号  平成5(オ)1946
事件名  土地建物共有物分割等
裁判年月日  平成8年12月17日
法廷名  最高裁判所第三小法廷
裁判種別  判決
結果  破棄差戻
判例集等巻・号・頁  民集 第50巻10号2778頁


【判示事項】
 遺産である建物の相続開始後の使用について被相続人相続人との間に使用貸借契約の成立が推認される場合
【裁判要旨】
 共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。
【参照法条】
 民法249条,民法593条,民法703条,民法898条,民訴法185条


 主    文
     原判決中、上告人ら敗訴の部分を破棄する。
     前項の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人小室貴司の上告理由第一点について
 一 本件上告に係る被上告人らの請求は、上告人ら及び被上告人らは第一審判決添付物件目録記載の不動産の共有者であるが、上告人らは本件不動産の全部を占有、使用しており、このことによって被上告人らにその持分に応じた賃料相当額の損害を発生させているとして、上告人らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として、被上告人ら各自の持分に応じた本件不動産の賃料相当額の支払を求めるものである。
 二 原審の確定した事実関係の概要は、(一) Dは昭和六三年九月二四日に死亡した、(二) 被上告人B1はDの遺言により一六分の二の割合による遺産の包括遺贈を受けた者であり、上告人ら及びその余の被上告人らはDの相続人である、(三)本件不動産はDの遺産であり、一筆の土地と同土地上の一棟の建物から成る、(四) 上告人らは、Dの生前から、本件不動産においてDと共にその家族として同居生活をしてきたもので、相続開始後も本件不動産の全部を占有、使用している、というのである。
 三 原審は、右事実関係の下において、自己の持分に相当する範囲を超えて本件不動産全部を占有、使用する持分権者は、これを占有、使用していない他の持分権者の損失の下に法律上の原因なく利益を得ているのであるから、格別の合意のない限り、他の持分権者に対して、共有物の賃料相当額に依拠して算出された金額について不当利得返還義務を負うと判断して、被上告人らの不当利得返還請求を認容すべきものとした。
 四 しかしながら、原審の右判断は直ちに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
  共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。
  本件についてこれを見るのに、上告人らは、Dの相続人であり、本件不動産においてDの家族として同人と同居生活をしてきたというのであるから、特段の事情のない限り、Dと上告人らの間には本件建物について右の趣旨の使用貸借契約が成立していたものと推認するのが相当であり、上告人らの本件建物の占有、使用が右使用貸借契約に基づくものであるならば、これにより上告人らが得る利益に法律上の原因がないということはできないから、被上告人らの不当利得返還請求は理由がないものというべきである。そうすると、これらの点について審理を尽くさず、上告人らに直ちに不当利得が成立するとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして、右部分については、使用貸借契約の成否等について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととする。
  よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    尾   崎   行   信


配偶者短期居住権の存続期間は,いつまでなのでしょうか?
 配偶者短期居住権の存続期間は,①配偶者が居住建物について遺産共有持分を有している場合と,②配偶者が居住建物について遺産共有持分を有していない場合とで,異なります。配偶者短期居住権の消滅時期や消滅要件は,異なりますが,いずれも,被相続人が死亡してから6ヶ月を経過しなければ,配偶者短期居住権を消滅させることができません。

配偶者が居住建物について遺産共有持分を有している場合の配偶者短期居住権の存続期間はいつまでなのでしょうか?
 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合は,配偶者短期居住権の存続期間は,①遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は②相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日ということになります(民法1037条1項1号)。

配偶者が居住建物について遺産共有持分を有していない場合とは,どのような場合が考えられますか?
 配偶者が居住建物について遺産共有持分を有していない場合は。例えば,被相続人が配偶者以外の者に居住建物の遺贈や死因贈与をした場合,配偶者が相続放棄をした場合等があります。

配偶者が居住建物について遺産共有持分を有していない場合の配偶者短期居住権の存続期間はいつまでなのでしょうか?
 配偶者が居住建物について遺産共有持分を有していない場合の配偶者短期居住権の存続期間は,相続開始の時を始期とし,居住建物を取得者による配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6か月を経過する日を終期として存続します(民法1037条1項2号)。

居住建物が複数の者に遺贈された場合,各居住建物取得者が単独で配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができるでしょうか?
 居住建物取得者が複数いる場合(居住建物が複数の者に遺贈された場合など)には,その持分いかんにかかわらず,各居住建物取得者が単独で配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができ,配偶者短期居住権の消滅により配偶者の占有権原が喪失した場合には,各居住建物取得者は,単独で配偶者に対し居住建物の明渡しを求めることができる(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法32頁)と考えられてます。

配偶者短期居住権は,配偶者短期居住権者が死亡した場合には,相続されますか?
 配偶者短期居住権も帰属上の一身専属権であり,配偶者居住権と同様にその帰属主体は配偶者に限定され配偶者はこれを譲渡することができず,配偶者が死亡した場合には当然に消滅して相続の対象にならないこととしています(民法1041条において準用する1032条2項,597条3項)
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