【NEWS】相続登記の義務化等に反対する会長声明

【独自】相続登記の義務化等に反対する会長声明(2021年 2月25日:全国青年司法書士協議会)

2021年 2月25日

全国青年司法書士協議会
会長 川上真吾

 去る2月10日、法制審議会から上川法務大臣に、諮問第107号で諮問された民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正(以下、「本改正」という。)の答申がなされ、その答申中の相続登記の義務化等に対して、当協議会は反対する声明を発する。

 本改正の内容たる相続登記の義務化は、少なくとも以下の4つの観点から問題があり反対する。

①「登記の対抗要件主義」の観点から
 我が国の民法は、登記を第三者対抗要件と定めており(民法第177条及び同第899条の2)、登記を備えるかどうかは当事者の意思に委ねられているのが原則である(対抗要件主義)。にもかかわらず、手続法たる不動産登記法において、相続による所有権の移転の登記に限って申請義務を課すことは、民法が定める原則に反しているため問題がある。
②「所有者不明土地問題解消との整合性」の観点から
 相続登記が義務化されると、多くのケースで義務履行のために法定相続分による所有権移転登記がされることが想定され、所有者不明土地問題の解消を更に困難にするから、断固として義務化を認めるべきではない。
 いわゆる所有者不明土地の問題は、多数当事者の共有状態を解消するための合意形成の困難性にその原因がある。相続人全員が関与せずとも可能である法定相続分による所有権移転登記を推進することは、法定相続分による登記を行ったことによる軋轢の発生等により、登記手続きに関与しなかった当事者との合意形成をますます困難にする。更に、登記された法定相続人に相続が発生した場合には、土地全体での遺産分割協議ではなく、各法定相続人の持分についての遺産分割協議が行われることで、多数当事者による共有状態の複雑化とその固定化を助長してしまうことが懸念される。法定相続分による相続登記を促進することは、むしろ新たな所有者不明土地を生み出す原因となり得る。
③「相続人の個人情報保護」の観点から
 相続登記の義務化により、相続人の意思によらず、相続人の法定相続分、住所及び氏名を登記させ、公示を強制させることは、相続人のプライバシーの侵害に当たる可能性がある。
④「相続人への負担の強要」の観点から
 法制審議会においては、改正法施行の際、既に所有権の登記名義人が死亡している不動産についても義務化の適用対象とすることを前提に検討がされているところ、不動産の登記名義人が死亡した数代前の者の名義のままであった場合には、相続人が関与していない数代前の相続事案にまで相続登記の義務履行の範囲が及ぶこととなるため、その履行に多大な困難が予想され、相続人に過大な負担を強要することとなり、問題である。

 なお、当協議会は相続登記の義務化に反対の立場であり、相続登記の登記申請懈怠に過料を課す規定は相続登記の義務化を前提とするため、当然これに反対する。

 最後に、本改正による相続人申告登記(仮)の創設についても反対する。当協議会は、「所有権の登記名義人に係る相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み」については、職権での死亡の事実の公示(例えば、所有権登記名義人が死亡した旨の死亡の付記登記など)によるべきであると考える。故に、死亡事実の公示が(職権で)自動的に可能になった際に、相続人申告登記(仮)がシステム導入の障害となる可能性を懸念している。

 以上の理由から、当協議会は本改正にある相続登記の義務化等に反対する。                    

ーーー内容は↓ーーー

http://www.zenseishi.com/opinion/2021-02-25-01.html

目次【相続登記の義務化等に反対する会長声明】

①「登記の対抗要件主義」の観点から

我が国の民法は、登記を第三者対抗要件と定めており(民法第177条及び同第899条の2)、登記を備えるかどうかは当事者の意思に委ねられているのが原則である(対抗要件主義)。にもかかわらず、手続法たる不動産登記法において、相続による所有権の移転の登記に限って申請義務を課すことは、民法が定める原則に反しているため問題がある。

 所有者不明土地問題を解決するために、民法の原則である対抗要件主義を一部修正して例外的に「相続登記義務化」の規定を新たに設けようとしているわけだが、原則に反しているから問題であるとの主張は論理的におかしいのでは。そもそも、対抗要件主義は、常に守られなければならない原則でもなく、例えば、判決による登記や代位の登記などの場合など当事者の意思に委ねられていない登記制度は存在している。したがって、「相続登記義務化」の反対理由として、「対抗要件主義」の原則に反しているという理由はどうなのだろうか。

 さらに、問題があるとの主張だが、具体的にどのように問題であるのかが、不明である。具体的にどのように問題なのだろうか。

②「所有者不明土地問題解消との整合性」の観点から

 相続登記が義務化されると、多くのケースで義務履行のために法定相続分による所有権移転登記がされることが想定され、所有者不明土地問題の解消を更に困難にするから、断固として義務化を認めるべきではない。

 いわゆる所有者不明土地の問題は、多数当事者の共有状態を解消するための合意形成の困難性にその原因がある。相続人全員が関与せずとも可能である法定相続分による所有権移転登記を推進することは、法定相続分による登記を行ったことによる軋轢の発生等により、登記手続きに関与しなかった当事者との合意形成をますます困難にする。更に、登記された法定相続人に相続が発生した場合には、土地全体での遺産分割協議ではなく、各法定相続人の持分についての遺産分割協議が行われることで、多数当事者による共有状態の複雑化とその固定化を助長してしまうことが懸念される。法定相続分による相続登記を促進することは、むしろ新たな所有者不明土地を生み出す原因となり得る。

 法定相続分による登記を行った場合、遺産共有ではなく、物権共有化されるのだろうか。仮に、そうであれば、指摘の通りであると思われる。しかし、法定相続分による登記を行った場合でも、遺産共有状態であると思われる。したがって、ある土地に関する遺産分割の方法には変わりはないので、現状とほとんど変わりがないと思われる。

 もっとも、登記手続上、法定相続分による登記が数次相続で行われていた場合でも、遺産分割を原因とする某持分全部移転登記を認めるということにならないと、登記手続が煩雑になるとは思う。

③「相続人の個人情報保護」の観点から

相続登記の義務化により、相続人の意思によらず、相続人の法定相続分、住所及び氏名を登記させ、公示を強制させることは、相続人のプライバシーの侵害に当たる可能性がある。

 この論理のみだと、代位による相続登記すら相続人のプライバシーの侵害に当たるという考えだと思われるけど、それでいいのか。

④「相続人への負担の強要」の観点から

法制審議会においては、改正法施行の際、既に所有権の登記名義人が死亡している不動産についても義務化の適用対象とすることを前提に検討がされているところ、不動産の登記名義人が死亡した数代前の者の名義のままであった場合には、相続人が関与していない数代前の相続事案にまで相続登記の義務履行の範囲が及ぶこととなるため、その履行に多大な困難が予想され、相続人に過大な負担を強要することとなり、問題である。

 所有者不明土地問題を解決するには、どうしようもないのでは。問題の解決のためには、常に費用がかかるのは当然であろう。

職権での死亡の事実の公示

最後に、本改正による相続人申告登記(仮)の創設についても反対する。当協議会は、「所有権の登記名義人に係る相続の発生を不動産登記に反映させるための仕組み」については、職権での死亡の事実の公示(例えば、所有権登記名義人が死亡した旨の死亡の付記登記など)によるべきであると考える。故に、死亡事実の公示が(職権で)自動的に可能になった際に、相続人申告登記(仮)がシステム導入の障害となる可能性を懸念している。

 所有権登記名義人が死亡した旨の死亡の付記登記(職権での死亡の事実の公示)は、数次相続が起きている場合でも、数次相続が起きていることを明記しないということであると思われるが、そうであれば職権での死亡の事実の公示をしても、所有者不明土地問題を解決することに繋がらないと思われる。

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