【実務】【試験】【第2回】配偶者居住権関係通達〔令和2年3月30日付法務省 民二第324 号〕
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配偶者居住権関係通達〔令和2年3月30日付法務省 民二第324 号〕が出たので,「配偶者居住権の窓口」の更新をしていきます。
本日は,第2回目となります(「第1回目」)。
実務上,これから配偶者居住権は多く使われることになることが予想されるため,実務家である司法書士・税理士・弁護士等の皆さんはもちろんのこと,司法書士試験受験生の皆さんも必見のQ&Aサイトになっています。
配偶者居住権の注意点
特定財産承継遺言の場合は配偶者居住権の設定は不可
- 夫の遺言書に「配偶者に配偶者居住権を相続させる」旨の記載(特定財産承継遺言)があったのですが,この遺言で配偶者居住権を設定することはできるでしょうか?
- 配偶者居住権は,居住建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割,遺贈又は死因贈与がされたことによって成立するとされており(法第1028条第1項,法第554条),特定財産承継遺言(遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(法第1014条第2項)。いわゆる相続させる旨の遺言のうち遺産の分割の方法の指定がされたもの。)によって配偶者居住権を取得することはできません。
もっとも,「遺贈」を登記原因とする配偶者居住権の設定の登記の申請において,配偶者に配偶者居住権を相続させる旨の記載がされた遺言書を登記原因証明情報として提供する場合にあっては,遺言書の全体の記載からこれを遺贈の趣旨と解することに特段の疑義が生じない限り,配偶者居住権に関する部分を遺贈の趣旨であると解して,当該配偶者居住権の設定の登記を申請することができる(令和2年3月30日民二第324号)ことになっています。
ただし,もし遺言の再作成ができるのであれば,配偶者居住権を相続させる旨の遺言を訂正した方がよいです。
配偶者居住権の申請情報等
配偶者居住権の設定登記の登記原因日付
- 配偶者居住権の設定登記の登記原因日付はどのように記載するのでしょうか?
- ①登記原因が「遺産分割」である場合
「年月日【遺産分割の協議若しくは調停の成立した年月日又はその審判の確定した年月日】遺産分割」
②登記原因が「遺贈」である場合
「年月日【遺贈の効力の生じた年月日】遺贈」
③登記原因が「死因贈与」である場合
「年月日【贈与者の死亡の年月日】死因贈与」
と記載する(令和2年3月30日民二第324号)ことになっています。
なお,③に関しては,(1)所有権移転登記の死因贈与の登記原因日付が「年月日【贈与者の死亡の年月日】贈与」であること,(2)後記の配偶者居住権の登記記録例で「年月日遺産分割(,「遺贈」又は「贈与」)」との記述があるため,令和2年3月30日民二第324号通達の解説部分がミスをしている可能性が高いです。
配偶者居住権の設定登記(存続期間)
- 配偶者居住権の設定登記の存続期間はどのように記載するのでしょうか?
- 配偶者居住権の存続期間は登記事項とされており(改正不登法第81条の2第1号),この存続期間について別段の定めがない場合には,配偶者の終身の間が存続期間となる(法第1030条本文)。配偶者居住権の設定の登記の申請において,申請情報の内容とする存続期間は,
①存続期間の定めがない場合
「存続期間 配偶者居住権者の死亡時まで(又は年月日から配偶者居住権者の死亡時まで)」
②存続期間の定めがある場合
「存続期間 年月日から何年(又は年月日から年月日まで)又は配偶者居住権者の死亡時までのうち、いずれか短い期間」
と記載する(令和2年3月30日民二第324号)ことになっています。
配偶者居住権の設定登記(存続期間の延長や更新の可否)
配偶者居住権の設定登記(存続期間短縮の可否)
- 配偶者居住権の存続期間が定められた場合に,配偶者居住権の存続期間の短縮を内容とする登記はできますか?
- 登記原因証明情報として,配偶者居住権を取得した配偶者が配偶者居住権の存続期間の一部を放棄した旨の情報を提供し,その存続期間を終身の間より短期(例えば「10年又は配偶者居住権者の死亡時までのうち、いずれか短い期間」)とする配偶者居住権の設定の登記を申請することができる(令和2年3月30日民二第324号)。
これは,配偶者居住権の設定の登記がされた後の配偶者居住権の存続期間の短縮を内容とする配偶者居住権の変更の登記の申請においても同様である(令和2年3月30日民二第324号)。
配偶者居住権の設定登記(使用収益の定め)
- 配偶者居住権の「第三者に居住建物の使用又は収益をさせることを許す旨の定め」が定められた場合に,その定めの登記はできますか?
- 配偶者居住権を取得した配偶者は,居住建物の所有者の承諾を得なければ,第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができないとされているところ(法第1032条第3項),第三者に居住建物の使用又は収益をさせることを許す旨の定めがあるときは,その定めをあらかじめ登記することができるとされました(改正不登法第81条の2第2号)(令和2年3月30日民二第324号)。
具体的には,
「特約 第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができる」
と記載することになります(改正不登法第81条の2第2号)(令和2年3月30日民二第324号)。
配偶者居住権の添付書類(配偶者の住所証明書は必要か?)
- 配偶者居住権の登記をする場合に,当該配偶者の住所を証する書面(住民票の写しや戸籍の附票)は必要でしょうか?
- 配偶者居住権が成立するためには,配偶者が被相続人所有の建物に相続開始の時に居住していたことを要するところ(民法第1028条第1項),当該要件に係る登記原因を証する情報(以下「登記原因証明情報」という。)としては,必ずしも当該配偶者の住民票の写し等の提供を要せず,提供された登記原因証明情報中にその旨が明らかになっていれば,これによって差し支えない(令和2年3月30日民二第324号)こととされています。
もっとも,実際には,前提登記としての相続登記等の際に,当該配偶者の住所証明書(住民票の写しや戸籍の附票)を取得していることが多いと思います。