目次【事前通知制度と本人確認情報(本人確認認証)】
第1 権利証を提供できない場合の取扱い
1.権利証(登記識別情報・登記済証)の意義
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登記申請書に権利証(登記識別情報通知・登記済証)を添付しなければならないのは、なぜですか?
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不実の登記をされることを避けるためです。不動産の権利に関する登記において、登記識別情報の提供(登記済証の提出)は、申請人である登記名義人の本人確認としての機能があります。例えば、これらの書類が提出されないで登記申請がなされた場合、登記名義人の本人確認ができないことになります。登記名義人の本人確認ができないと不実の登記がなされてしまう可能性がでてきてしまいます。
2.権利証(登記識別情報・登記済証)の代替手段
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権利証(登記識別情報・登記済証)は、法務局で再発行してくれますか?
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権利証(登記識別情報・登記済証)は、再発行できません。
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権利証(登記識別情報・登記済証)を紛失してしまった場合には、不動産は売却できなくなるのですか?
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権利証(登記識別情報・登記済証)を紛失しても、不動産を売却できなるわけではありません。なぜならば、権利証(登記識別情報・登記済証)には、代替手段が用意されているからです。具体的には、不動産の権利に関する登記申請をする場合において、登記名義人が登記識別情報を提供(又は登記済証を提出)できない場合、その代替となる手続き方法として、①事前通知制度、②司法書士による本人確認情報の制度、③公証人による本人確認認証の制度があります。
【条文】不動産登記法23条
(事前通知等)
第二十三条 登記官は、申請人が前条に規定する申請をする場合において、同条ただし書の規定により登記識別情報を提供することができないときは、法務省令で定める方法により、同条に規定する登記義務者に対し、当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨を通知しなければならない。この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない。
2 登記官は、前項の登記の申請が所有権に関するものである場合において、同項の登記義務者の住所について変更の登記がされているときは、法務省令で定める場合を除き、同項の申請に基づいて登記をする前に、法務省令で定める方法により、同項の規定による通知のほか、当該登記義務者の登記記録上の前の住所にあてて、当該申請があった旨を通知しなければならない。
3 前二項の規定は、登記官が第二十五条(第十号を除く。)の規定により申請を却下すべき場合には、適用しない。
4 第一項の規定は、同項に規定する場合において、次の各号のいずれかに掲げるときは、適用しない。
一 当該申請が登記の申請の代理を業とすることができる代理人によってされた場合であって、登記官が当該代理人から法務省令で定めるところにより当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な情報の提供を受け、かつ、その内容を相当と認めるとき。
二 当該申請に係る申請情報(委任による代理人によって申請する場合にあっては、その権限を証する情報)を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録について、公証人(公証人法(明治四十一年法律第五十三号)第八条の規定により公証人の職務を行う法務事務官を含む。)から当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な認証がされ、かつ、登記官がその内容を相当と認めるとき。
【条文】不動産登記法22条
(登記識別情報の提供)
第二十二条 登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合その他登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合には、申請人は、その申請情報と併せて登記義務者(政令で定める登記の申請にあっては、登記名義人。次条第一項、第二項及び第四項各号において同じ。)の登記識別情報を提供しなければならない。ただし、前条ただし書の規定により登記識別情報が通知されなかった場合その他の申請人が登記識別情報を提供することができないことにつき正当な理由がある場合は、この限りでない。
【条文】不動産登記法21条
(登記識別情報の通知)
第二十一条 登記官は、その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合において、当該登記を完了したときは、法務省令で定めるところにより、速やかに、当該申請人に対し、当該登記に係る登記識別情報を通知しなければならない。ただし、当該申請人があらかじめ登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をした場合その他の法務省令で定める場合は、この限りでない。
第2 事前通知制度
1.事前通知制度とは
事前通知制度とは、登記識別情報の提供(登記済証の提出)が必要となる登記において、これらの書類が提供(提出)されないで申請手続きがなされたとき、その登記が登記名義人本人の意思に基づいて申請されたのかを登記官側で確認したうえで登記手続きを実行するための制度です。
具体的には、登記識別情報が提供(又は登記済証が提出)されないで登記申請がなされた場合、登記官から申請人である登記名義人に対して①「登記申請があった旨」及び②「その登記申請の内容が真実であると考えるのであれば、一定期間内にその旨の申出をすること」を通知します。なお、一定期間内とは、登記官より事前通知書が発送されてから原則として「2週間以内」です。ただ、登記名義人の住所が外国にある場合は、「4週間以内」となります。
その後、申請人である登記名義人より、上記通知から一定期間内に申出がなされた場合、申請された登記が処理されることになります。
【事前通知制度と遺贈を原因とする所有権移転登記】
遺贈を原因とする所有権移転登記の場合の事前通知は、遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対して行われます。一方で、遺言執行者がいないときは、相続人全員に対して事前通知が行われます。
2.事前通知の手続の流れ
- (1)登記の申請
- 不動産の権利に関する登記申請をする場合において、登記名義人が登記識別情報を提供(又は登記済証を提出)できない場合で、②司法書士による本人確認情報の制度、③公証人による本人確認認証の制度を利用していない場合には、事前通知の手続が開始します。
なお、申請書には、登記識別情報を提供(登記済証を提出)理由を記載して申請先の法務局へ提出します。
- (2)登記官による書面送付
- 事前通知の方法によって登記手続きを進める場合、登記官は登記名義人に対して書面を送付する方法により通知します。具体的には、事前通知の方法で登記申請を行った件数ごとに事前通知書を登記名義人宛に送付します。不動産の権利に関する登記の申請方法は、書面申請とオンライン申請がありますが、どちらの方法で登記の申請手続きを行った場合でも、上記の方法で事前通知がなされることになります。
ア.登記名義人が個人の場合
登記名義人が、個人の場合には、登記官は、登記名義人に対し、登記名義人の住所宛に【本人限定受取郵便またはそれに準ずる方法】によって送付します。
イ.登記名義人が法人の場合
登記名義人が、法人の場合には、登記官は、登記名義人に対し、登記名義人である法人の主たる事務所へ【書留郵便などの方法】で送付します。
もっとも、登記名義人が法人の場合でも、事前通知の方法によって登記手続きを行う際、その法人の代表者の住所へ事前通知書を送付する旨の希望を申出することが可能です。この場合には、法人の代表者の住所に本人限定受取郵便またはそれに準ずる方法によって送付することになります。
- (3)登記名義人の申出
- 登記官より事前通知書が発送されてから一定期間内に、登記名義人は申請された登記の内容が真実である旨の申出をしなければなりません。なお、申出期間は、登記官より事前通知書が発送されてから原則として「2週間以内」です。ただし、登記名義人の住所が外国にある場合は、「4週間以内」となります。
ア.書面申請の場合
書面申請の方法で手続きをした場合、事前通知書の下側にある申出書の回答欄に、登記名義人の名前を記載して、その横に申請書または委任状に押印した印鑑と同じ印鑑で捺印をします。その後、署名捺印をした申出書(事前通知書)を登記申請先の法務局へ返送する方法で申出を行います。
イ.オンライン申請
オンライン申請によって手続きをした場合、法務大臣の定めるところにより、登記名義人が事前通知の書面の内容を通知番号などにより特定し、申請された登記の内容が真実である旨に電子署名を行ったうえで、オンラインによってその情報を送信するという形で申出を行います。
- (4)申出書の受領および登記の処理、実行
- 登記名義人より返送された申出書が、登記申請先の法務局側が受領した後、登記の処理の作業を行って登記が実行されます。
3.事前通知がなされない場合
①資格者代理人(司法書士など)により本人確認情報が提供され、その内容を登記官が相当であると認めた場合や②申請情報または委任状につき、公証人から登記義務者(登記名義人)である旨を確認するために必要な認証がなされ、その内容を登記官が相当であると認めた場合には、登記識別情報を提供(登記済証を提出)しないで登記申請を行ったときでも、登記官より事前通知はなされません。
また、登記申請自体に却下事由がある場合にも事前通知は行われません。
4.事前通知を法人代表者個人の住所へ送る場合
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登記義務者が法人の場合には、法人の主たる事務所に事前通知が送られるとのことですが、法人の主たる事務所ではなく、法人の代表者の個人に事前通知書を送ることはできませんか?
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申請書(申請情報)に、「不動産登記事務取扱手続準則第43条第2項の規定に基づき事前通知の送付先について法人の代表者の住所にあてて事前通知書を送付をしていただきたく申出する」と記載すれば、法人の主たる事務所ではなく、法人の代表者の個人に送ることができます。
5.住所の「方書(マンション名・部屋番号等)」へ送る場合
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義務者の住民票に「方書(マンション名・部屋番号等)」が記載されていないものの、実際には、「方書(マンション名・部屋番号等)」を入れないと郵便物が届かない場合には、「方書(マンション名・部屋番号等)」を入れて、事前通知書を送ることはできませんか?
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申請書(申請情報)に、「不動産登記事務取扱手続準則第44条第1項の規定に基づき事前通知の送付先について申請人の住所に「○○アパート○○号室」(又は「何某方」)を付記して事前通知書を送付をしていただきたく申出する」と記載すれば、法人の主たる事務所ではなく、法人の代表者の個人に送ることができます。
6.事前通知の再発送
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事前通知を再発送してもらうことはできませんか?
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事前通知書が受取人不明を理由に返送された場合において、不動産登記規則第70条第8項に規定する期間の満了前に申請人から事前通知書の再発送の申出をしたときは、事前通知の再発送をしてもらうことができます(不動産登記事務取扱手続準則第45条)。なお、この場合には、同項に規定する期間は、最初に事前通知書を発送した日から起算するものとされているので、注意が必要です。
第3 前住所通知
1.3ヶ月以内の住所変更(更正)+事前通知=前住所通知
登記識別情報を提供(登記済証を提出)できないため、事前通知制度を利用して登記申請をする際、その登記が所有権に関するものであり、かつ登記義務者(登記名義人)の住所の変更(更正)登記が3ヶ月以内にされている場合、原則として、その登記義務者の登記記録上の前住所への通知も行われます。これを前住所通知といいます。
この前住所通知の目的は、登記名義人に成りすました者が、事前に住所変更(更正)登記をした上で、変更(更正)後の住所への通知を不正に受け取って、不正な登記をしようとするのを防止することです。
2.前住所通知がされない場合
次の場合には、前住所への通知はされません。
- 住所変更(更正)の登記の登記原因が行政区画若しくはその名称又は字若しくはその名称についての変更又は錯誤若しくは遺漏である場合
- 事前通知によって登記申請をした日が最後の住所変更(更正)登記の申請の受付年月日から3ヶ月を経過している場合
- 登記義務者(登記名義人)が法人である場合
- 資格者代理人(司法書士など)により本人確認情報の提供があり、その内容により申請人が登記義務者(登記名義人)であることが確実であると認められる場合(※公証人による本人確認認証の場合には、前住所通知を省略できません。)
第4 司法書士による本人確認情報
1.本人確認情報とは
登記申請をする際、登記識別情報を提供(登記済証を提出)できないときに資格者代理人(司法書士など)によって提供される本人確認情報とは、申請人が登記申請権限のある登記名義人であることを確認できる事項が記載されている情報(書面)のことをいいます。
司法書士による本人確認情報の要件は下記のとおりです。
司法書士による本人確認情報の要件(司法書士法23条4項1号)
- 登記の申請の代理を業とすることができる代理人によってされた申請であること
- 資格者代理人が本人を確認した旨の具体的な情報(本人確認情報)を提供したこと
- 登記官が本人確認情報の内容を適切であると認めたとき
本人確認情報制度も、申請人となる登記名義人の本人確認を行ったうえで登記の申請手続きがなされる点では事前通知制度と共通しています。しかし、事前通知制度の場合は、登記官側で本人確認が行われるのに対し、本人確認情報制度の場合は、資格者代理人側で行われる点が異なります。
本人確認情報制度と事前通知制度の使い分け
本人確認情報制度は、原則として、不動産の売買や(根)抵当権の設定など同時履行の抗弁権が問題となる時に利用されます。
事前通知制度は、原則として、(根)抵当権の抹消など 同時履行の抗弁権が問題とならないような場合にのみ利用されます。
実務上問題となりうるのは、 親族間の贈与の登記をする場合などです。 親族間の贈与の登記をする場合は、司法書士によって、本人確認情報制度の利用を勧めるか事前通知制度の利用を勧めるか、異なるようです。その他の事情により、本人確認情報制度と事前通知制度を使い分けることも考えられます。
2.本人確認情報に記載してその情報を明らかにすべき事項
本人確認情報に記載してその情報を明らかにすべき事項とは、下記のとおりです。
本人確認情報の記載すべき内容(不動産登記規則72条1項)
- 資格者代理人(資格者代理人が法人である場合にあっては、当該申請において当該法人を代表する者)が申請人(申請人が法人である場合にあっては、代表者又はこれに代わるべき者)と面談した日時、場所及びその状況
- 資格者代理人が申請人の氏名を知り、かつ、当該申請人と面識があるときは、当該申請人の氏名を知り、かつ、当該申請人と面識がある旨及びその面識が生じた経緯
- 資格者代理人が申請人の氏名を知らず、又は当該申請人と面識がないときは、申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために当該申請人から提示を受けた本人確認書類(不動産登記規則72条2項)の内容及び当該申請人が申請の権限を有する登記名義人であると認めた理由
3.本人確認情報に添付する本人確認の書類
本人確認情報に添付する本人確認の書類は、不動産登記規則72条1項で定められています。なお、不動産登記規則72条1項1号及び第2号に掲げる書類及び有効期間又は有効期限のある第3号に掲げる書類にあっては、資格者代理人が提示を受ける日において有効なものに限ります。また、資格者代理人が本人確認情報を提供するときは、当該資格者代理人が登記の申請の代理を業とすることができる者であることを証する情報を併せて提供しなければなりません。
(1)1号書類(1種類の書類で可能)
- 運転免許証(道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第九十二条第一項に規定する運転免許証をいう。)
- 個人番号カード(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成二十五年法律第二十七号)第二条第七項に規定する個人番号カードをいう。)
- 旅券等(出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)第二条第五号に規定する旅券及び同条第六号に規定する乗員手帳をいう。ただし、当該申請人の氏名及び生年月日の記載があるものに限る。)
- 在留カード(同法第十九条の三に規定する在留カードをいう。)
- 特別永住者証明書(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成三年法律第七十一号)第七条に規定する特別永住者証明書をいう。)又は運転経歴証明書(道路交通法第百四条の四第五項(同法第百五条第二項において準用する場合を含む。)に規定する運転経歴証明書をいう。)
(2)2号書類(2種類の書類で可能)
- 国民健康保険
- 健康保険
- 船員保険
- 後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証
- 健康保険日雇特例被保険者手帳
- 国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証
- 私立学校教職員共済制度の加入者証
- 国民年金手帳(国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)第十三条第一項に規定する国民年金手帳をいう。)
- 児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書
- 母子健康手帳
- 身体障害者手帳
- 精神障害者保健福祉手帳
- 療育手帳
- 戦傷病者手帳
2号書類の注意点
- 2号書類は、申請人の氏名、住所及び生年月日の記載があるものでなければなりません。
- 令和2年6月に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が公布され、令和4年4月から年金手帳が廃止されることになっています(年金手帳の廃止後は、年金手帳の交付に代わり、「基礎年金番号通知書」が交付される予定になっています。)。
(3)3号書類(2号書類1通と併せて2種類の書類で可能)
- 2号書類のうちいずれか一つ以上及び官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに準ずるものであって、当該申請人の氏名、住所及び生年月日の記載があるもののうちいずれか一つ
4.本人確認情報の例
【本人確認情報制度と遺贈を原因とする所有権移転登記】
遺贈を原因とする所有権移転登記の場合の本人確認情報制度は、遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対しての本人確認情報が必要になります。一方で、遺言執行者がいないときは、相続人全員に対しての本人確認情報が必要になります。
5.施設に現に赴いた司法書士によるテレビ会議を用いた本人確認情報の作成について(令和5年3月30日付法務省民二第555号)
第5 公証人による本人確認認証
登記の申請人が正当な理由により登記識別情報を提供することができない場合において、申請書
等について公証人から当該申請人が不動産登記法第23条第1項の登記義務者であることを確認するために必要な認証がされ、登記官がその内容を相当と認めるときは、事前通知を省略すること
ができます。(不動産登記法 23 条 4項 2 号)。
なぜならば、公証人は、私署証書につき当事者が公証人の面前で署名又は記名捺印をしたときは、当該私署証書につき認証することができるので(公証人法 58 条)、公証人の認証がある申請情報又は委任状については,本人が作成したものであるということが公に証明されるからです。
公証人による本人確認認証の要件(司法書士法23条4項2号)
- 申請情報または委任情報( 代理人の申請による場合) を記載又は記録した書面又は電磁的記録に公証人の認証を受けたこと
- 登記官が、公証人の認証の内容を適切であると認めたとき