- 事務所開設までの手続きの流れを教えて下さい。
- 司法書士の開業手続きは、主に(1)司法書士としての登録と、(2)税務署への届出、だけです。その手続の流れを下記にまとめてみました。ご参考になれば幸いです。
第1 司法書士登録
司法書士となる資格を有する者が、司法書士となるには、日本司法書士会連合会に備える司法書士名簿に、氏名、生年月日、事務所の所在地、所属する司法書士会その他法務省令で定める事項の登録を受けなければなりません(司法書士法8Ⅰ)。司法書士の登録を受けようとする者は、その事務所を設けようとする地を管轄する法務局又は地方法務局の管轄区域内に設立された司法書士会を経由して、日本司法書士会連合会に登録申請書を提出しなければなりません(司法書士法9Ⅰ)。
記入すべき申請書類は、登録申請書・司法書士名簿・誓約書・特別研修修了確認シート・入会届・履歴書・印鑑届出書などがあります。これらの登録申請書等の作成には、職印と認印が必要です。
この登録申請書には、①司法書士となる資格を有することを証する書面、②申請者の写真(5×5cm)、③次に掲げるいずれかの書類(ア)本籍の記載のある住民票の写し、(イ)本籍の記載のない住民票の写し及び戸籍抄本又は戸籍記載事項証明書、(ウ)申請者が外国人であるときは、国籍等の記載された外国人住民(住民基本台帳法 (昭和四十二年法律第八十一号)第三十条の四十五 に規定する外国人住民をいう。)に係る住民票の写し、を掲げる書類を添付しなければなりません(司法書士法施行規則16Ⅱ)。また、④身分証明書(本籍地の市町村役場)と⑤登記されていないことの証明書(地方法務局本局など)などが必要になります。
市町村の交付する「身分証明書」とは①禁治産(現在は「制限行為能力者」)又は準制限行為能力者の宣告の通知を受けていない。②後見の登記の通知を受けていない。 ③破産の通知を受けていない。 の以上3事項を公的に証明し、民法上の行為能力を特別に剥奪及び制限されていない人か、制限されている人であるかを証明する書類である。
「登記されていないことの証明書」と併せて使用されることが多く、会社設立時や古物商許可時、金額の大きい契約時、警備会社で警務職(警備員のこと)として採用される際などに行為能力確認の為に提出を求められることがある。前記3項目のいずれかに該当する場合はそれぞれの「~の通知を受けていない」が「~の通知を受けている」に変わる。
平成12年4月1日より制度が改められ、同日以降は禁治産者は成年被後見人、準禁治産者は被保佐人と名称が改められ、登記事務も本籍地の市町村から法務局に移管になった。同日以降登記された場合は法務局に登記され、同日以前に登記された事項は自動的に法務局に移管はされず、特に届出がなければ今も本籍地の市町村より登記・証明されている。破産者に関する事項は引き続き本籍地の市町村が行っている。禁治産者(成年被後見人)や準禁治産者(被保佐人)でないことを証明する為には、市町村役場の交付する「身分証明書」(平成12年3月31日までに登記されていないこと)法務局の交付する「登記されていないことの証明書」(平成12年4月1日から証明日までに登記されていないこと) の2通が実質的に必要になる。ただし、平成12年4月1日以降に出生した人については、法務局の「登記されていないことの証明書」のみで良い。
司法書士の登録は下記の手続きにより、 ほとんどの場合は、問題なく登録がなされます。もっとも、たまに、その申請が拒否されることがあります。それは、連合会は申請者が「司法書士の信用又は品位を害するおそれがあるときその他司法審士の職責に照らし司法書士としての適格性を欠くとき」に該当すると認めたときはその登録を拒否しなければならない、と規定されているからです(司法書士法10条1項3号)。例えば、過去に司法書士として業務禁止の懲戒処分を受けた場合に、その事由が重大であったときや、前提事情が改善されていないと認められるとき等は、拒否されるようです。
第2 登録の際の流れ
私の登録の際には、下記のような流れで行われました。
- 所属する司法書士会の事務局に電話
- 所属する司法書士会の事務局に電話して、司法書士の登録をしたい旨を伝え、自宅に登録申請書類を送ってもらいました。直接、所属する司法書士会に行って貰っても大丈夫だと思います。
- 司法書士の職印・認印の注文
- 登録申請書等の作成には、職印と認印が必要です。
- 【職印】
- 司法書士の職印には、要件があります。その職印の要件とは、(1)大きさ 1㎝×1㎝以上、3㎝×3㎝以内であること、(2)「司法書士」である旨及び「氏名」の記載があることです。一般的には、司法書士の職印は、角印で18mm、てん書体を使用するようです。
- 材質に関しては、私は金属製(チタン製)のものを選びました。なぜなら、司法書士法28条Ⅰで定められているように、司法書士は、その作成した書類(法第三条第一項第六号 及び第七号 に規定する業務に関するものを除く。)の末尾又は欄外に記名し、職印を押さなければならなく、職印を酷使するためです。職印があまりにも安い材質のものですと、その酷使に耐えられないのです。
なお、オンライン申請の場合には、電子署名が職印の代わりになります。 - 【認印】
- 私は職印と同時に、業務上使用する認印も注文しました。こちらの認印も業務上、酷使しますが、印鑑登録するわけではないので、材質は一番安いものにしました。ちなみに、私は、認印にも、司法書士である旨を記載しましたが、その場合には、業務上以外には使いにくいし、登録申請書に押印できないので、注意が必要です。なお、認印は丸印が多いようです。
- 電話番号・FAX番号の取得
- 登録申請書には、事務所所在地と電話番号・FAX番号を記入する欄があります。したがって、独立開業する場合には、電話番号の取得とFAX番号の取得が必要になります。
- 【電話番号】
- 電話番号は、慎重に決めなければなりません。最初は、一人事務所であり、ずっと事務所にいるわけにもいかないので、携帯の電話番号でも、仕方ないとも思えますが、携帯の電話番号では、信用力が足りません。したがって、信用力の観点からすれば、固定電話やフリーダイヤルが好ましいでしょう。私は、仕事用としてよく使用されるIP電話を取得し登録しました。
- 【FAX】
- FAXも慎重に決めなければなりません。FAXに関しては、電話番号のように、信用力の問題はないのですが、通常の家庭で使用されるようなFAXでは業務に支障をきたします。
- なお、私は、補助者として働く前(大学生時代)には、emailがこれだけ世の中に普及しているので、FAXの文化は既に死滅したものだと思っていました。しかしながら、現実には、今もビジネス上、普通にFAXを使用します。また、簡裁訴訟代理等関係業務を行う場合には、FAXはより必須のものとなります。なぜならば、「訴状には、第一項に規定する事項のほか、原告又はその代理人の郵便番号及び電話番号(ファクシミリの番号を含む。)を記載しなければならない(民事訴訟法規則53Ⅳ)。」という規則や、「直送(当事者の相手方に対する直接の送付をいう。以下同じ。)その他の送付は、送付すべき書類の写しの交付又はその書類のファクシミリを利用しての送信によってする(民事訴訟法規則47Ⅰ)。」との規則が、民事訴訟法規則で定められているので、ファクシミリ(FAX)は、必須のものだからです。
- FAXに関しては、私は、インターネットFAXの番号を取得し、登録しました。これは、コストの削減・利便性の向上を考慮した結果です。
- 事務所の決定
- 事務所の決定も非常に重要になります。信用力の観点とコストの観点とでさじ加減が非常に難しく、比較的独立開業がしやすい士業であっても慎重に決定しなければならないことです。
- 事務所の選択は、主に、(1)自宅を事務所にする、(2)自宅とは別に事務所を借りて事務所を構える、(3)ボス司法書士の事務所に居候させてもらう、という選択があります。事務所の決定方法は他の記事で書きたいと思います。
- 登録申請
- 登録申請書の提出には30分ほど時間がかかりました。補助者登録をしている方は、この段階までには、補助者の退職届も合わせて提出しなければなりません。補助者証の返却もこの時にしますので、補助者をしている方は、外回りができなくなるので、気をつけてください。
- 司法書士会の役員との面談
- これから、どのような司法書士になりたいのか、どんな仕事をするつもりなのかといったことを聞かれます。また、研修会や委員会も参加するように求められます。基本的には、和気あいあいと雑談形式で行われるようです。
- 私は、面談の際には、同期5人ほどに会いまして、面談時間を待っている間も、同期とお喋りをして過ごしました。
- 日本司法書士会連合会にて登録審査
- 問題がなければ、登録されます。
- 司法書士会にて登録証の交付
- 登録証の交付で、司法書士の登録手続きは終了です。
第3 開業届(税務署の手続き)
1. 税務署の手続き
事業を開始する際には、自宅兼事務所の場合は現住所の所轄の税務署に出向きます。自宅とは別の場所に事務所を構える場合は、その事務所を所在地を納税地にすることもできますが、「所得税の納税地の変更届」を、自宅住所側と新住所側のそれぞれの税務署に提出する必要があります。
また、所得(売上から経費を引いたもの)が290万円以上になる場合、事業税が発生する場合は、地方税を管轄する都道府県税事務所へも「個人事業開始申告書」を提出します。ただ、事業初年度で所得が見込めない人は、届け出の必要はありません。初年度の所得を確定申告すると、自動的に通知が届くようになります。
2.節税のための手続き
(1)所得税の減価償却資産の償却方法の届出書の手続き
事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は、一般的には時の経過等によってその価値が減っていきます。このような資産を減価償却資産といいます。減価償却資産の取得に要した金額は、取得した時に全額必要経費になるのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して必要経費としていくべきものです。この使用可能期間に当たるものとして法定耐用年数が財務省令の別表に定められています。減価償却とは、減価償却資産の取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続です。
(注)https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2100.htm
1 使用可能期間が1年未満のもの又は取得価額が10万円未満のものは、その取得に要した金額の全額を業務の用に供した年分の必要経費とします。
2 取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、一定の要件の下でその減価償却資産の全部又は特定の一部を一括し、その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1に相当する金額をその業務の用に供した年以後3年間の各年分において必要経費に算入することができます。
3 一定の要件を満たす青色申告者が、平成18年4月1日から平成26年3月31日までに取得した取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産(上記(注2)の適用を受けるものを除きます。)については、一定の要件の下でその取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの取得価額の合計額をその業務の用に供した年分の必要経費に算入できるという特例があります。
4 取得価額の判定に際し、消費税の額を含めるかどうかは納税者の経理方式によります。すなわち、税込経理であれば消費税を含んだ金額で、税抜経理であれば消費税を含まない金額で判定します。なお、免税事業者の経理方式は税込経理になります。
事業開始時に届け出をすることによって、所得税の減価償却資産の償却方法として、「定率法」を選ぶことができます。償却方法は「定率法」と「定額法」があります。定額法は、毎年の減価償却費が定額となることで、「定率法」は資産を購入した初めの年の方が減価償却費は多く、年とともに減少していく方法です。事業開始時は、いろいろなものを購入することになるでしょう。定率法の方が減価償却率を大きく計上でき、節税効果が大きくなりますので、定率法を選択することをおすすめします。
届け出を出さないと、自動的に「定額法」が適用されますのでご注意ください。
(2) 「青色申告(所得税の青色申告承認申請書)」の手続き
個人事業主になったら、所得税を自分で計算し、年に1度、税務署に申告(確定申告)します。青色申告を希望する人全員が提出しなければならないのが「所得税の青色申告承認申請書」です。所定のフォーマットで納税先の所轄税務署に提出します。提出期限がありますので、開業届と同時に手続きをしてしまうことをお勧めします。
提出期限は、新規開業の場合、1月1日~15日までに開業届を出した場合は、その年の3月15日まで。1月16日以降に開業する場合、開業日から2カ月以内となります。
(3)「青色専従者給与に関する届出書」の手続き
「青色専従者給与に関する届出書」を提出すると、奥様など、家族と一緒に事業を行う場合、家族に対して支払った給与を全額経費にすることができます。もちろん、(ア)青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること(イ)年齢が15歳以上であること(その年の12月31日現在)※15歳以上であっても学業に専念する大学生・高校生は、原則として専従者にはなれません。(ウ)原則、年間6ヵ月(つまり2日に1日以上)を超えて、青色申告者の事業に専念していること、といった条件があります。