目次【(裁判書類)関連事実等】

第1 関連事実(間接事実・補助事実・その他紛争の背景)とは

1.定義

 民事訴訟規則では,早期に実質的な審理に入り,充実した審理を実現するために,訴状においても,基本的な主張及び立証をできる限り明らかにすることを求め,請求を理由づける事実(要件事実・主要事実)を具体的に記載することに加えて,立証を要する事由ごとに,当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならないとしている(民訴規則53条1項)。この請求を理由づける事実(主要事実)とは,法律要件の発生・障害・消滅・阻止を規定し,主張・立証責任の対象となるもの(要件事実)であり。また,要件事実に関連する事実で重要なもの(関連事実【間接事実・補助事実・その他紛争の背景】)とは,その要件事実(主要事実)を推認させる(あるいは推認を妨げる)事実である間接事実や証拠の信用性に関する事実である補助事実のことを指す。

この「推認」(「事実上の推定」と同義である)とは,証拠によって認定した1つあるいは複数の間接事実から経験則を適用して主要事実を認定することである(ある間接事実から1つ上位の間接事実を認めることも「推認」である)。

 民事訴訟の多くの事案では,争いのある要件事実(主要事実)の存否が直接的な証拠のみによって証明されることは少なく,その要件事実(主要事実)の存在を推認させ,又は不存在を推認させる間接事実の存否が争われる。

2.直接証拠と間接証拠

 主要事実を直接証明する証拠を直接証拠と呼び,間接事実を証明する証拠を間接証拠(補助事実を証明する証拠も間接証拠と説明されることがある)と呼ぶ。たとえば,売買契約が要証事実である場合,①売買契約書,②原告,被告の当事者尋問での「売った」「買った」という供述,③売買契約の場面をみずから目撃した証人による「原告と被告が売買契約をした」との証言は,直接証拠である。一方,①売買契約書の下書,②被告から原告への,売買代金と思われる金銭の支払い,などは間接証拠である。

第2 間接証拠⇒間接事実⇒主要事実

1.間接事実が検討される場合

 実質的証拠力が高い直接証拠がない場合には,間接事実から主要事実を推認することができるかを検討することになる。また,直接証拠があっても,直接証拠から主要事実を認定できない場合,あるいは,直接証拠が証言である場合のようにその信用性を確かめる場合にも間接事実の検討が行われる。

2.間接事実の具体例

 たとえば,金銭の消費貸借(民法587条)において,金銭授受の事実が争われている場合に,金銭の貸し借りがあった事実が証拠から直接認定できなかったとしても,経済状態が苦しい状態にある借主が,貸主が金銭授受があったと主張する日時の直後にそれに相当する金額をもって第三者に弁済を行った間接事実が認められれば,他に特段の事情がない限り,裁判所は金銭授受の事実を認定しうる。借主としては,貸主以外の者から融資を受けたこと等の反証をして他の間接事実を裁判所に確信させない限り,上記事実上の推定を覆すことは難しい。

なお,間接証拠からいきなり主要事実を認定することがないように注意する必要がある。必ず間接証拠から間接事実を認定し、認定できた間接事実から主要事実が推認できるかを検討するという順序になる。

3.間接事実の事実認定

 裁判実務では、要証事実を強く推認させる間接事実(直接証拠の信用性に関する補助事実を含む)については,高度の蓋然性の証明に至らなくとも,その可能性が高いという場合には考慮するが,それ以外の間接事実については証明された事実のみを考慮するのが一般的である。そして,認定できる間接事実については,要証事実を強く推認させる事実,相当程度推認させる事実,弱く推認させる事実というように整理をしたうえで,総合して要証事実を推認できるかを検討している。

第4 関連事実の記載方法

1.要件事実と関連事実を区別して記載する

 請求を理由づける事実(要件事実・主要事実)と関連事実(間接事実)とを区別なく雑然と記載して訴状を作成すると,どのような事実を要件事実(主要事実)として主張しているのかが不明確となり,関連事実がどの要件事実(主要事実)に対してどのような意味を持つかも理解できなくなる。ひいては要件事実(主要事実)を欠落させてしまうことにもなりかねない。そこで,民事訴訟規則53条2項は,「訴状に事実についての主張を記載するときは,できる限り,請求を理由づける事実についての主張と当該事実に関連する事実についての主張とを区別して記載しなければならない。」と定めている。もっとも,具体的な事実経過の中では,要件事実(主要事実)と間接事実とがあらかじめ区分されているわけではないから,常に裁然と区分して記載できるとは限らない。そのため,上記規則でも,「できる限り」区別して記載しなければならないと規定しており,常に項目を別にして,形式的にも区分して記載しなければならないというわけではない。

2.具体的記載方法

 具体的な記載方法としては,「請求の原因」という項目と「関連事実」という項目を別個に設けて記載する方法もあるが,事案によっては,そのような方法によると記載場所が離れて,かえって関連性が理解しにくくなる場合も考えられる。どの部分が請求を理由づける事実(要件事実・主要事実)の記載であり,どの部分が当該事実に関連する事実(間接事実)の記載であるかが明らかになれば足りるのであるから,簡易な事案では形式的な区分を要しないこともあろうし,特に項目を分けないでも,小見出しを付して区別したり,書き出しを下げて区別する,あるいは印刷字体を変えるなど,工夫の余地がある。また,「交渉の経過」等の項目を設け,関連事実の一部を別項とするという方法もあろう。要は,関連事実の記載は冗長になりやすいので,請求を理由づける事実(要件事実・主要事実)と関連事実が混然と記載されて区別ができなくなるようなことのないよう意識をし,表現方法に配盧することである。