目次【(要件事実)所有の主張立証方法】

第1 請求原因事実

1.所有は,「権利自白」から

 「所有」という概念は,事実ではなく,法的評価である。したがって,「所有」を主張立証するには,過去のある時点における所有権取得原因事実を主張立証しなければなりません。

 しかし,所有権の来歴の全てを主張立証する必要があるとするのは,所有権を主張する者に不可能を強いることになるためです。そこで,所有の主張立証では,権利自白という概念を用いる。「権利自白」とは,訴訟物たる権利の前提となる権利,法律効果を認める旨の陳述にかかる自白です。

 具体的な所有(口頭弁論終結時における所有権の存在)の主張立証方法は,下記のとおり,相手方当事者の認否によって異なります。

2.相手方当事者が当該人の現在の所有を争わない場合

 相手方当事者が,当該人の現在の所有を争わない場合,当該人は現在所有しているとの主張をすれば権利自白は成立します。所有権は,法的概念とはいっても,日常的な概念であり,一般人にとっても理解が容易であるから,「所有権」の有無について当事者間に争いがない場合には,自白の効力が認められると考えるのです。

3.相手方当事者が当該人の現在の所有を争う場合

 相手方当事者が当該人の現在の所有を争う場合,当該人の過去の所有(これを「もと所有」といいます。),当該人の前主の所有,当該人の前々主の所有,と遡る中でそのいずれかの時点での誰の所有を認めるかを明らかにしなければなりますん。そして,相手方当事者が,いつの時点での,誰の所有を認めるかにより,下記のいずれかの主張立証方法によることになります。

第2 相手方当事者が,当該人の過去の所有を認める場合

1.もと所有による権利自白

 相手方当事者が,当該人の過去の所有を争わない場合,当該人の当該過去における所有の主張をすれば,権利自白が成立します。

2.最新の時点の所有を主張する

所有権の喪失の抗弁が成立し得る余地を狭めるために,相手方当事者が認める最新の時点の所有を主張すべきです。

3.抗弁

□ 所有権喪失の抗弁

 過去の時点以降に,当該物の所有権を当該人以外の者が承継取得(又は,即時取得)したことにより,当該人が当該物の所有権を喪失したという主張です。

4.再抗弁

 所有権を喪失の抗弁に対する所有権移転の効果発生の障害・消滅原因事実の主張立証などが,再抗弁になります。

第3 相手方当事者が,当該人の前主の所有を認める場合

1.前主のもと所有による権利自白+前主からの所有権移転原因事実の主張立証

 相手方当事者が,当該人の前主の過去の所有を争わない場合,当該前主の当該過去における所有の主張をすれば,権利自白が成立します。そのうえで,前主からの当該人への所有権移転原因事実の主張立証することで,当該人への現在の所有が,主張立証することができます。

2.所有権喪失の抗弁(動産の場合)

 前主から当該人への所有権移転よりも前に,当該人以外の者が,当該物を即時取得したから,当該人は当該物の所有権を取得しなかったとの主張となります。

3.対抗関係に関する抗弁

(1)所有権の場合

 対抗要件の抗弁を主張できます。対抗要件の抗弁とは,原告が対抗要件(元所有者から原告への所有権移転登記)を具備するまでは原告を所有者とは認めないとの主張です。

(2)所有権以外の権利の場合

 「対抗要件の抗弁」「占有権原の抗弁(地上権,対抗力のある賃借権など)」「登記保持権限の抗弁(抵当権など)」を主張することができます。

(3)対抗要件具備による所有権喪失の抗弁【争いあり】

 対抗要件具備による所有権喪失の抗弁とは,被告の対抗要件具備によって,原告が,所有権を喪失し,被告が所有権を確定的に取得したとの抗弁とされています。対抗要件具備による所有権喪失の抗弁は,①被告の所有権取得原因事実及び②被告の対抗要件の具備の事実を主張立証しなければならないとされています。


 

 もっとも,岡口基一裁判官は,「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」を司法研修所の独自説としています。たしかに,岡口基一裁判官の言うとおり,「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」は,抗弁としては,相応しくないです。なぜならば,抗弁とは,①請求原因事実と両立しつつその法律効果を排斥する別個の事実をいい,かつ②被告が立証責任を負う主要事実であるためです。「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」を抗弁として認めると,本来,被告側に,対抗要件具備の立証責任があることになり,それは,二重譲渡の譲受人間の公平を害するものということになります。

 私が,推論するに,司法研修所としては,『二重譲渡の場合に,被告側が“反論”する方法として,①被告に対抗要件がない場合は“対抗要件の抗弁”を主張することができ,②被告に対抗要件がある場合は,“対抗要件具備による所有権喪失の抗弁”を主張することができる』という安易な考えにより,「対抗要件具備による所有権喪失の抗弁」を紹介しているのではないでしょうか。

 そもそも,対抗要件の抗弁の説は主に3説に分かれていますが,私も,岡口裁判官が考えているとおり,対抗要件の抗弁として主張する事実(A被告間の所有権移転原因事実)は,抗弁ではなく,否認(の理由)であると思います。これは,上記で説明したとおり,「対抗要件の抗弁」を抗弁として説明すると,二重譲渡の場合に,被告に立証責任を負わせるかのような説明になり,不適切であるからです。

 つまり,『二重譲渡の場合に,被告側が“否認”する方法として,被告に対抗要件がない場合でも,被告に対抗要件がある場合でも,被告が“A被告間の所有権移転原因事実”を主張することで,原告は,原告による対抗要件具備を主張立証しなければならない』ことになります。

 それでは,認定考査で,二重譲渡の事案が出てきたらどう記載すればよいでしょうか。私は,現在(平成30年2月4日)時点では,司法研修所説で,書くしかないと思います。なぜならば,採点側としては,これを不正解にすることは,難しいはずだからです。