戸籍の「長女」記載変更をめぐる大阪高裁決定と、「裁判官マップ」にみる世論の反応

ノンバイナリーなのに戸籍は「長女」 高裁「憲法抵触」、抗告は棄却(朝日新聞)

男性にも女性にも当てはまらない「ノンバイナリー」の人が、「長女」とある戸籍を性別を明らかにしない記載に変更するよう求めた審判の抗告審で、大阪高裁(大島雅弘裁判長)は、男女以外の記載を認めない戸籍法の運用について、法の下の平等を定める「憲法14条の趣旨に抵触するもので是正すべき状態」と判断したことが5月11日、関係者への取材でわかった。

続きは↓

https://news.yahoo.co.jp/articles/8d1e469f071645aa521f4e7050ef7422ef77dbc4

朝日新聞社

当事務所では、相続手続きや不動産登記などを通じて、日常的に「戸籍」を取り扱っています。本日は、先日報じられた「ノンバイナリーの方の戸籍上の性別記載に関する大阪高裁の決定」と、その後にネット上で起きている「裁判官への評価(レビュー)の動き」について、実務家の視点を交えて一つの記事として再構成しました。

現在の司法と世論の関わりを示す、非常に象徴的な出来事となっています。


戸籍の「長女」記載変更をめぐる大阪高裁決定と、「裁判官マップ」にみる世論の反応

1. 今回のニュースの概要:画期的かつ苦渋の決定

5月11日、戸籍の記載変更を求めた裁判の抗告審で、大阪高裁(大島雅弘裁判長)が注目すべき決定を下したことが報じられました。

【事案のポイント】

  • 申立ての内容: 京都府に本籍を置く50代のノンバイナリー(自身の性別を男女の枠組みに当てはめない方)が、戸籍の続き柄にある「長女」という記載を、「長子」や「子」など性別を明示しない表記に訂正するよう求めた。
  • 裁判所の結論: 申立て(抗告)自体は「棄却」(認められない)。
  • 裁判所の見解: しかし、男女以外の記載を認めない現在の戸籍法の運用については、法の下の平等を定める「憲法14条の趣旨に抵触するもので是正すべき状態にある」と指摘した。

2. なぜ「憲法違反の趣旨」なのに「棄却」されたのか?

「憲法に反する状態だと言いながら、なぜ訂正が認められなかったの?」と疑問に思われた方も多いでしょう。

ここには、「司法(裁判所)」と「立法(国会)」の役割分担があります。

裁判所は、戸籍が社会の基本的なインフラとして広く機能していることを踏まえ、「具体的な制度の整備は、国会の立法の過程を通じて行われるべきだ」と結論づけました。

つまり、「いまの制度は不平等が生じており直すべき状態だが、それを個別の裁判で書き換えるのではなく、国会が法律を改正して社会全体でルール化すべきだ」と、国会に対して強くボールを投げた形になります。

3. 「裁判官マップ」での低評価急増が意味するもの

この決定の直後から、インターネット上の評価サイト「裁判官マップ」において、決定を下した大島雅弘裁判長への「低評価」がつき始めるという現象が起きています。

https://saibankan-map.jp/judges/osaka-oshima-masahiro

なぜ、このような事態になっているのでしょうか。それは、今回の決定が「双方の立場から不満を持たれやすい」という、非常に難しいバランスの上に成り立っているからです。

  • 従来の制度を重視する立場からの反発「男女の枠組みを前提とした戸籍法を『憲法14条の趣旨に抵触する』とまで踏み込んだこと」に対し、伝統的な家族観や戸籍制度を壊すのか、という強い警戒や反発。
  • 当事者や人権を重視する立場からの落胆「違憲状態だと認めたのなら、なぜ目の前の当事者を今すぐ救済してくれないのか」「結局は『国会で決めてください』と責任逃れをしているのではないか」という不満。

画期的な踏み込みを見せた一方で、結論としては現状維持(棄却)となったため、結果として多様な層から厳しい目が向けられ、それがネット上の「低評価」として可視化されているのだと推測されます。

4. 所感

私たち法律実務家は、こうしたネット上の評価を少し冷静に見つめる必要があります。

裁判官には「司法権の独立」が保障されており、ネットの評価や一時的な世論を恐れて法と良心に基づいた判断を曲げるようなことがあってはなりません。一方で、一般市民が裁判官の判断に強い関心を抱き、ウェブサイトを通じて世論が形成されていく現象は、現代における「司法に対する国民の関心の高さ」の表れでもあります。

私たち司法書士は、相続手続きの際に亡くなられた方の戸籍を収集し、家系図を作成します。戸籍は家族の歴史を証明する大切な公文書であると同時に、そこに記載された「長男」「二女」といった画一的な表記によって、自身のアイデンティティーとのズレに苦しむ方がいるという事実を重く受け止めています。

今回の高裁決定は、賛否両論を巻き起こしながらも、間違いなく社会に「戸籍制度のあり方」を問いかけました。

社会の基本インフラである戸籍が、誰も排除しない形へとアップデートされる日が来ることを望むとともに、今後の国会での議論の行方、そして世論の成熟を、法律専門職として引き続き注視していきたいと思います。


当事務所では、多様なご家族のあり方や、個人の価値観に寄り添った法務サポートを心がけております。相続や遺言、財産管理などでお悩みのことがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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