目次【相続登記(家督相続と遺産相続)[明治31年~昭和22年]】
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1.旧民法の相続(明治31年7月16日から昭和22年5月2日)
(1)適用法(明治31年7月16日から昭和22年5月2日)
(2)戸主の相続 ⇒ 家督相続
明治31年7月16日から昭和22年5月2日までの間に戸主の相続
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明治31年7月16日から昭和22年5月2日までの間に戸主に相続が発生した場合には、誰が財産を引き継ぐことになっていたのですか?
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明治31年7月16日から昭和22年5月2日までの間に戸主の相続が発生した場合は、明治31年7月16日に施行された民法(以下、旧民法という)が適用されます。旧民法においては、戸主に相続が発生した場合は家督相続制度によって特定の家督相続人が全財産を単独で相続していました。これを家督相続といいます。なお、家督相続には、下記のような原因があります。現在の民法とは異なり、旧民法では「隠居」「国籍喪失」「戸主の婚姻及び縁組の取消」「入夫婚姻」「入夫戸主の離婚」などによって相続が発生しますので注意が必要です。
昭和22年5月2日以前に家督相続が開始し、家督相続人を新民法の施行後に選定
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昭和22年5月2日以前に家督相続が開始し、家督相続人を新民法の施行後に選定しなければならない場合、旧民法を適用されるのでしょうか?
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昭和22年5月2日以前に家督相続が開始し(その開始原因が入夫婚姻の取消、入夫の離婚又は養子縁組の取消の場合を除く)、 家督相続人を新民法の施行後に選定しなければならない場合には、その相続については選定手続きとらずに新民法の規定を適用するとされています(新民法附則第25条第2項)。なお、新民法附則第25条第2項の規定により相続に関して新法が適用される場合には、新民法相続編の規定のみならず、親族編の規定も等しく適用されるので、旧民法当時開始した相続について、旧民法の規定によれば直系卑属として相続権を有した者でも、新民法の規定によれば直系卑属たる身分が認められない場合には、相続人となることができません(昭和26年6月1日民事甲1136号回答)。
(3)戸主以外の相続 ⇒ 遺産相続
(4)家督相続か遺産相続かの判断
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戸主であった者が隠居又は女戸主が入夫婚姻により戸主権を喪失した後に死亡し、それらの名義の不動産が現在も存在している場合は、遺産相続を原因として遺産相続人に所有権移転登記をすべきですか? それとも、家督相続を原因として次の戸主に所有権移転登記をすべきですか?
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旧民法中、戸主であった者が隠居又は女戸主が入夫婚姻により戸主権を喪失した後に死亡し、それらの名義の不動産が現在も存在している場合は、遺産相続を原因として遺産相続人に所有権移転登記をすべきか、それとも家督相続を原因として次の戸主に所有権移転登記をすべきかという問題が生じることがあります。これは、前戸主がその財産を留保したものであるのか、それとも単に家督相続が未処理であっただけなのかという疑問から生じるものである。
これについて、旧民法施行前の隠居者が退隠当時所有の不動産に何らの手続をしないで、旧民法施行後死亡した場合には、その不動産に対する相続登記は、申請に従って、遺産相続又は家督相続の登記をすべきであるとされている(大正2.6.30 民132 局長回答)。これは、旧民法施行後の場合も同様とされていた。これは、登記官にあっては、遺産相続を登記原因とした場合に、前戸主の財産留保があったか否かにまで立ち入って調査することはできないからであるとされているからであった。
ところが、これに対して、現行では登記原因証明情報を提供しなければならず、留保財産であるがゆえの遺産相続であるならば、それを証明する確定日付のある証書、判決書の正本、遺産相続人全員の合意書等を提供する必要があるという見解がある(登記研究789号121 頁)。この説によれば、当該不動産が留保財産であることを証する情報がなければ、家督相続を原因として相続登記の申請をせざるを得ないこととなる。
ただし、登記の受付年月日と隠居日とを比較して、隠居者が隠居後に取得した特有財産であることが登記簿上明らかな場合などは、家督相続ではなく遺産相続を原因としてのみ登記申請することになる(大正2.6.30 民132 局長回答)。
2.家督相続
(1)家督相続とは
家督相続の効果
(2)家督相続の原因
家督相続の発生原因
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家督相続は、どのような原因で生じますか?
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家督相続は、下記の事由により生じます。
①戸主の死亡
戸主が死亡した場合、家督相続が開始する。
また、失踪宣告により死亡とみなされる場合も家督相続が開始する。不在者の生死が7年間明らかにならないときは、家庭裁判所は利害関係人の請求により失踪の宣告を為すことができる(旧民30①)。また、戦地に臨んだ者、沈没した船舶中にあった者その他死亡の原因になりうる危難に遭遇した者の生死が、戦争が止んだ後、船舶の沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかにならないときも同じである(旧民30②)。なお、旧民法30条1項の規定により失踪の宣告を受けた者は期間満了の時に死亡したものみなし、2項の規定により失踪の宣告を受けた者は危難の去ったときに死亡したものとみなす(旧民31)。
戦死した旨の記載があるときは、その記載は戸籍法89条の報告によりなされた者と認定すべきであって、戸籍簿記載の死亡の日に死亡したものと認定する(昭和28.4.23 最一小判)。
同時死亡の推定規定がなかった
家督相続の開始原因の一つである死亡については、「同時死亡の推定規定がなかった」
②戸主の隠居(旧民752)
戸主が生前に隠居することで家督相続が開始します。隠居は、戸主がその家督相続人に戸主の地位を承継させるために自ら戸主権を放棄する単独行為で、戸籍上の届出によって成立します(旧民法757条)。
③戸主の国籍喪失(旧国籍18乃至22)
日本人が外国人の妻となり夫の国籍を取得したときは日本の国籍を失い、(旧国籍18)家督相続が開始します。婚姻又は養子縁組によって日本の国籍を取得した者は離婚又は離縁の場合においてその外国の国籍を有するべき時に限り日本の国籍を失います(旧国籍19)。その他に、志望による国籍取得、勅令指定の外国での出生にあっては出生時、勅令以外の外国での出生にあっては法務総裁の許可での国籍離脱等があります(旧国籍20乃至22)。
④戸主が婚姻又は養子縁組の取消によってその家を去ったとき(旧民779、852)
各事項違反による婚姻及び縁組の取消によってその家を去ったときに家督相続が起こります。
各事項の具体的な事項は、婚姻適齢、重婚禁止、再婚禁止期間、相姦者との婚姻期間、近親婚の制限、直系姻族間の婚姻禁止、養親子関係者の婚姻禁止、父母の不同意、詐欺・脅迫、婿養子縁組の無効、養親が未成年の縁組禁止、養子が尊属である縁組禁止、法定推定家督相続人がるときの男子養子制限、後見人と被後見人との縁組禁止、一方配偶者との縁組禁止となります。
⑤女戸主の入夫婚姻(旧民736、旧戸100)
女戸主との婚姻と共に夫が女戸主の家に入ると入夫が新たな戸主となり、女戸主から入夫への家督相続が開始する。但し、当事者が婚姻届の際に入夫が戸主になることを届け出なかった場合には、夫は家族となり妻は女戸主のままとなり家督相続は開始しない。
⑥入夫戸主の離婚
夫が離婚によりその家を去ると家督相続が開始します。
なお、入夫婚姻の際に戸主にならなかった場合で後日女戸主からの指定により夫が家督相続人になった場合は、離婚しても戸主権を喪失せず家督相続は開始しません(大5.2.3 民事1836号法務局長回答)。これは、入夫婚姻によって夫が家督相続したわけではないからです。
(3)家督相続の開始時期
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家督相続の開始時期は、いつですか?
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家督相続の開始時期は下記のとおりです。なお、家督相続の届出日が後日となっても当該届出日は原因日ではありません。
(4)家督相続の順位
家督相続の順位の概要
第1順位:第一種法定推定家督相続人
相続開始当時被相続人の戸籍に同籍している直系卑属で、直系卑属が数人いるときは、下記のとおり、法定された順序によってそのうちの一人が相続する(旧民法970条)。なお、この直系卑属には、自然血族である嫡出子、庶子及び非嫡出子と法定血族である養子、継子及び嫡母庶子が含まれる。また、胎児は、家督相続については既に生まれているものとみなしている(旧民法968条)。
① 親等の異なる者の間においては近い者が優先する。
子は孫より優先する。
② 親等の同じ者の間においては男が優先する(旧民970条二)。
男女間では男が優先。姉よりも弟が優先する。
③ 親等が同じ男又は女の間においては嫡出子が優先する(旧民970条三)。
男兄弟だけで兄が非嫡出子(庶子)、弟が嫡出子の場合は弟が優先する。姉妹だけの場合も同じ。しかし、②により庶男子は、嫡出子女子より優先する。
④ 親等が同じ者の間においては女といえども嫡出子及び庶子を優先する(旧民970条四)。
兄弟姉妹の間では私生子は劣後する。私生子の男子より嫡出子及び庶子の女子が優先する。
⑤ いずれにしても年長者が優先する(旧民970条五)。
⑥ 養子は縁組の日より養親の嫡出子たる身分を取得(旧民860)し、家督相続についてはその時に生まれたものとみなす。
実年齢は養子の方が年上でも、その縁組前に出生した生来の嫡出子の方が優先する。
⑦ 入夫婚姻は前記のすべてに優先する(旧民971)。
第一種法定推定家督相続人がいても、女戸主が入夫婚姻をし、併せて入夫が戸主となる届出をした場合は入夫がすべてに優先して戸主となる。
他家から入った直系卑属の相続順位
親族入籍と離婚離縁による復籍との比較
婿養子の相続順位
通常の養子と婿養子の比較
戸主に法定推定家督相続人たる男子がいる場合は、その者の相続利益が害されるという理由から、男子を養子とすることができないとされている(旧民839)。法定推定家督相続人が庶子男の場合にも同様である。これは、養子は嫡出子として庶子に優先することになってしまうためである。これに対して、婿養子縁組は、家女に対して婿を迎えるためにする意味合いが強く、すでに法定推定家督相続人たる男子がいてもできる制度である。この法定推定家督相続人たる男子の優先順位を保持しなければならないため、この婿養子の順位は妻となる家女の順位と同順位となることとした。例えば、戸主には家族である庶子男と長女しかおらず、その長女に婿養子を迎えれば、法定推定家督相続の順位は、1庶子男、2婿養子、3長女(男子優先により、婿養子は妻より優先する。)となる。
戸籍と登記実務
代襲相続
第2順位:前戸主が生前に又は遺言で指定した者
法定の推定家督相続人たる子や孫がいないとき、もしくは欠格や廃除により法定の推定家督相続人の資格がないときは、被相続人は家督相続人を指定することができます(旧民法979条)。
家督相続人の指定の要件
家督相続の被指定者の条件
家督相続の無資格者である外国人を指定した場合は無効となりますが、基本的には制限はなく他家の戸主であっても指定はできました(大8.5.28 民1226 号民事局長回答)。胎児も家督相続人に指定することができる(大6.6.22 民1180 号法務局長回答)。指定を承認するもしないも被指定者の自由であった。但し、家督相続の開始原因が戸主の隠居の場合には、家督相続人になるものが単純承認することが要件であるためその場合の指定は、被指定者は指定を承認しないことはできない(旧民752二)。つまり、被指定者があらかじめ承認しなければ、隠居はできないということになる。また、被指定者が他家の戸主である場合は、隠居するなど他家の戸主でなくならなければ実質的に指定は意味をなさない。被指定者は、単純承認、限定承認、相続放棄ができた(旧民1017)。
指定の効力消滅
指定の復活の可否
指定家督相続人と戸籍の記載
養子縁組ではなく指定家督相続人の方法をとる主な理由又はその違い
養子縁組は養子が尊属又は年長者であってはならないが、被指定者にその制限はない。養子縁組は配偶者とともにする必要があるが、指定にその制限はない。養子縁組は双方行為であり取消に制限はあるが、指定は単独行為であり取消は自由である。
指定家督相続と応急措置法施行
第3順位:第一種選定家督相続人
第一種法定家督相続人がなく、指定家督相続人もないとき(指定の効力がなくなった時を含む)は、父・母又は親族会によって、家族の中から選定された者(旧民法982条)が家督相続人となる。
選定権者(家督相続人を選ぶ人)
被選定権者(家督相続人に選ばれる人)
家族の中から、次の順序に従って選定する。
第1 家女である配偶者(その家で生まれた妻(養女として家にいる妻を含む。))
第2 兄弟
第3 姉妹
第4 家女でない配偶者(他家から入った妻、入夫婚姻の際に戸主にならなかった夫)
第5 兄弟姉妹の直系卑属
但し、相続開始の時かつ選定の時にもその家の家族であることが必要である。
同順位中ただ1人の時はその者を選定しなければならないが、選定という手続自体を行う必要がある。同順位中に2名以上いるときは、選定者の権限により一家を統括して戸主になる適任者を選定することになり、その際に年長であることや嫡出子であることを基準にする必要はなかった。被選定者は、単純承認、限定承認、相続放棄ができた(旧民1017)。被選定者は、相続開始時のときから家督相続人となり、選定や承認、届出の時からではない。選定順序の例外として、裁判所の許可による変更があった(旧民983)。
戸籍上の届出
被選定者が相続を承認したときは、選定を証する書面を添付して家督相続の届出をする(旧戸125、126)。
第4順位:第二種法定推定家督相続人
第3順位の第一種選定家督相続人になるべき者がいないときは、家にある直系尊属中最も親等の近い者が家督相続人となる(旧民法984条)。
第一種選定家督相続人になるべき者がいない
第二種法定推定家督相続人の順位
第5順位:第二種選定家督相続人
親族会によって被相続人の親族・家族・分家戸主・本家又は分家の家族・他人の中から選定された者が家督相続人になります(旧民法985条)。
選定権者(家督相続人を選ぶ人)
親族会のみ
被選定権者(家督相続人に選ばれる人)
被相続人の親族、家族、分家の戸主又は本家もしくは分家の家族中から選定する(旧民法985条1項)。選定の順位は自由である。その中にもいなければ、他人の中から選定する(旧民985②)。また、正当な事由がある場合は、初めから裁判所の許可を得て他人の中から選定することができる(旧民985条3項)。被選定者は、単純承認、限定承認、相続放棄ができた(旧民1017)。旧民法施行中に、被選定者が選定を承認しない場合や相続放棄がされた場合は、家督相続人がいないときに該当し、その家は絶家となる(旧民764)。絶家の財産は相続人曠欠の手続によって処理され、最終的には国庫に帰属する。また、新法施行期日までに家督相続人の選定がなく相続曠欠の手続により国庫にも帰属していなければ、現行法が適用されることになる(新民法附則第25条2項本文)。
家督相続人を選定していたが届出がされていなかった場合
新法施行日まで、選定行為はしていたのであれば、現在でも選定していたことを証する書面を添付して戸籍の届出をすれば受理される。
家督相続人 選定していない場合
新法施行日までに、家督相続人を選定すべきであったのに選定しなかった場合には、新法が適用され、選定することはできなくなり新法によることになる(民法附則第25条1項、2項)。
「被選定者のない旨の証明書(印鑑証明書付)」の要否
(5)家督相続と登記原因
家督相続の場合の登記原因は「家督相続」であり、日付は家督相続の開始した日です。
家督相続で数次相続が発生している場合には、「年月日A家督相続 年月日B家督相続 年月日相続」となります。
民法附則第25条第2項の規定により相続に関して新法が適用される場合には、登記原因は「相続」とし、日付は戸主の死亡の日(家督相続の開始した日)となります。また、家督相続人の選定は選定によって効力が生じ、その届出は効力要件ではないため、家督相続人を選定しても必ずしも戸籍の届出があるとは限りません。そのため戸籍だけでは家督相続人が選定されていないことが確認できないため、登記実務では民法附則25条2項の適用により相続登記を申請する場合は、原則として相続証明書面の一部として家督相続人が選定されていないことを証明する書面(相続人全員の印鑑証明書付)を添付する必要があります。
(6)家督相続の登記申請書
申請書 | ★相続登記(家督相続) |
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登記の目的 | 所有権移転(又はA持分全部移転) |
原因 | 昭和〇年〇月〇日家督相続 |
申請人欄 | (被相続人A) 住所 ●● 氏名 ●● |
添付情報 | 登記原因証明情報 住所証明情報 代理権限証明情報 |
課税価格 | 不動産の価格 |
登録免許税 | 課税価格×4/1000 |
(7)家督相続の先例
■ 民法施行前の隠居者が退隠当時所有の不動産につき何等の手続をしていない場合には、その不動産に対する相続登記は、申請に従い遺産相続又は家督相続の登記をなすべきである。(大正2年6月30日民第132号法務局長回答)
■ 隠居者が隠居後に取得した特有財産であることが登記簿上明らかな場合においては、当該財産についての(家督)相続登記の申請は、却下すべきである。(大正2年6月30日第132号法務局長回答)
■ 隠居者が隠居後に所有権保存の登記を受けた不動産については、家督相続によ る所有権移転の登記又は遺産相続による所有権移転の登記のいずれの申請があっても受理されるが、隠居後の日付の売買を原因として所有権移転の登記を受けた不動産につい ては、家督相続による所有権移転の登記の申請は受理されない。(登研219号63頁)
■ 旧民法施行中戸主死亡し法定推定家督相続人なく直系尊属のみ存する場合、その届出による家督相続事項の記載なき戸籍謄本を添付して直系尊属への家督相続による所有権移転の登記の申請があった場合受理して差し支えない。(昭和34年1月29日民事甲第150号民事局長回答)これは、相続放棄の熟慮期間を過ぎ、法定単純承認として家督相続が開始するからである(旧民1024)。
■ 旧民法施行中に戸主死亡し、法定推定家督相続人なく、その家に直系尊属乙のみが存したが、その乙も家督相続届をしないまま新法後に死亡している場合、乙の相続人丙が乙の家督相続を承認したときは、乙は甲の家督相続人となる。(昭和37年10月26日民事甲第3069号回答)
■ ①除(戸)籍謄本に家督相続人たるべき者が誤って記載されているときは、当該家督相続の開始後20年を経ている場合であっても、関係戸籍を訂正しない限り家督相続の登記をすることができない。なお、この場合、法定の推定家督相続人からされた家督相続の登記申請も受理できない。
②上記の場合、関係戸籍の訂正は、戸籍法第113条(利害関係人が家庭裁判所の許可を得てする戸籍の訂正)によるべきであるが、訂正の手続きをする者がないときは同法24条第2項(市町村長が監督法務局の長の許可を得てする訂正)の規定により処理する。(昭和40年9月22日民事甲第2536号民事局長回答)
3.遺産相続
(1)遺産相続とは
戸主以外の者の財産
遺産相続の効果
遺産相続となる財産
(2)遺産相続の原因
遺産相続の発生原因
(3)遺産相続の開始時期
(4)遺産相続の順位と法定相続分
遺産相続の順位の概要
第1順位:直系卑属(旧民法994条・995条)
親等の異なる者、例えば子と孫がある場合は、近親である子が優先し、子が複数あるときは同順位で共同して相続する。遺産相続人たる直系卑属については、家督相続と異なって同一家族たることを要しないほか、男女の別・実子養子の別・嫡出子・非嫡出子の別によって遺産相続人となることを差別されません。但し、嫡出でない子の相続分は、嫡出子(継子を含む)の相続分の2分の1となります(旧民法1004条)。代襲相続は、新法と同趣旨に取り扱えば足りるが、次の場合(※1)、新法と異なるため注意を要します。
(※1)養子と養親及びその血族関係は離縁によって終了するが、養子の配偶者・直系卑属は、養子の離縁した後に届出による除籍により養家を去らない限り、養親と養子の配偶者・直系卑属との親族関係は止まないので、養親が死亡した場合、離縁した養子の子は、代襲相続人となる。これは家督相続、遺産相続ともに同様である。(旧民法730条)
第2順位:配偶者(旧民法996条1項第1)
被相続人に直系卑属がいない場合は、被相続人の配偶者が遺産相続人となります。
「配偶者」について現行法と異なる点
第3順位:直系尊属(|日民法996条1項第2)
被相続人に直系卑属及び配偶者がいない場合は、被相続人の直系尊属が遺産相続人となる。
親等の異なった者の間では親等の近い者が優先する。親等の同じ者の間では同順位として共同で相続人となる(旧民994、1002、1003)。例えば、父母と祖父母があるときは、父母が優先します。直系尊属の相続権は養子縁組・継親子・男女の別等によって差別されません。同親等の直系尊属が同順位で均等に遺産相続します。また、家督相続の場合と異なり、同じ家にいることを必要とせず、他家にいる者も相続人となる。
第4順位:戸主(旧民法996条1項第3)
被相続人に直系卑属・配属者及び直系尊属のいずれもない場合は、その被相続人の属した「家」の戸主が遺産相続人となります。戸主は常にいるはずなので、戸主の相続権を認めることによって遺産の国庫帰属を防ぐことができるということです。
なお、家督相続開始後、家督相続人選定前に、その「家」の家族について遺産相続が開始し、戸主が遺産相続人となるべきときは、後に選定された家督相続人が遺産相続人となります(明治40.2.16大審院第1民事部判決)。
戸主が遺産相続人にならない場合
中間の原因が遺産相続と家督相続が混在する場合には注意
遺産相続の法定相続分
代襲相続時の被代襲者相続分の株分け
(5)遺産相続と登記原因
遺産相続の場合の登記原因は「遺産相続」であり、日付は遺産相続の開始した日、すなわち、家族の死亡した日です。
「日本国憲法の施行に伴う民法の応急措置に関する法律」(応急措置法)の施行中(昭和22年5月3日から同年12月31日までの間)に開始した相続については、旧民法の遺産相続の規定に従うことになっていますが、この場合の登記原因は「相続」とし、日付は、相続開始の日(被相続人の死亡の日)となります。
(6)遺産相続の登記申請書
申請書 | ★相続登記(遺産相続) |
---|---|
登記の目的 | 所有権移転(又はA持分全部移転) |
原因 | 昭和〇年〇月〇日遺産相続 |
申請人欄 | (被相続人A) 住所 ●● 氏名 ●● |
添付情報 | 登記原因証明情報 住所証明情報 代理権限証明情報 |
課税価格 | 不動産の価格 |
登録免許税 | 課税価格×4/1000 |
(7)遺産相続の先例
■ 昭和22年5月2日以前の相続法における遺産相続においては、外国人も日本人と同様相続人となることができる。(昭和28年6月29日民事甲第1103号民事局長回答)
■ 後妻の死亡(昭和19年)により開始した遺産相続については、配偶者と先妻(いずれも相続開始前死亡)との間に数人の子がある場合、これらの者のうち被相続人(後妻)婚姻中に同一戸籍にあった者すなわち被相続人と継親子関係を有していた者のみが遺産相続人となる。(昭和28年11月14日民事甲第2073号民事局長回答)
■ 共同相続人中の一人が、相続開始前、生前贈与を受け、その価格が相続分を超える場合において、その者の相続分がない事実を証する書面を添付して他の共同相続人が相続登記を申請できる。(昭和8年ll月21日民事甲第1314号民事局長回答)
■ <要旨>婚姻により家に入った養母が(旧)民法施行前に離婚により養家を去るとその者と養子との親子関係は消滅する。(平成3年7月20日民三第4072号民事局第三課長回答・登記研究527号159頁)
■ 旧民法には現行民法第907条のような共同相続人間の協議による遺産の分割の規定がない。又旧法中の登記実務においてどのように取り扱われていたか行政先例も見当たらない。しかし現行民法附則第32条に分割方法につき新法の準用規定が設けられていることでもあり、共同相続人間において遺産分割の協議をすることができるものと考えられる。(参考昭和4年6月26日法曹会決議・明治44年9月16日大阪控訴判)[高妻新氏著Q&A相続登記の手引き]