目次【配偶者居住権とは-わかりやすく詳しく解説】
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メール・LINEでのご予約・お問い合わせはこちら お気軽にご連絡ください。第1 配偶者居住権とは
1.「配偶者居住権」の窓口
①配偶者居住権の特徴,②配偶者居住権のメリット,③配偶者居住権のデメリット,④配偶者居住権の報酬及び費用,⑤配偶者居住権の手続の流れ,については,【「配偶者居住権」の窓口】をご覧ください。
2.配偶者居住権の関連窓口
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メール・LINEでのご予約・お問い合わせはこちら お気軽にご連絡ください。第2 配偶者居住権のQ&A
1.配偶者居住権の性質
配偶者居住権とは
- 【配偶者居住権の性質】配偶者居住権とは,どのような権利なのですか?
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配偶者居住権 とは,被相続人の配偶者が,相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していた場合に,当該配偶者が,「遺産分割」,「遺贈」または「死因贈与」により,その建物の全部について使用及び収益をすることができる権利となります。
性質は賃貸借か使用貸借か
- 【配偶者居住権の性質】配偶者居住権は,賃貸借契約でしょうか?それとも使用貸借でしょうか?賃貸借契約であると,賃料が発生すると思いますが賃料は発生するのでしょうか?
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「法的性質については規定上特に明確にしていないが賃借権類似の法定の債権であると考えられる。もっとも,配偶者は遺産分割においてこれを取得する場合でも自己の具体的相続分において取得することになるから,その存続期間中に賃料の支払義務を負わず無償で使用することができるなど賃借権とも異なる性質を有している(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]14頁)」とされています。
したがって,配偶者居住権が存続する限り,配偶者は無償で使用できるため,賃料は発生しません。また,無償で使用できるという点からすると,配偶者居住権は,使用貸借権に類似する権利なのではないでしょうか。
債権者と債務者
- 【配偶者居住権の性質】配偶者居住権の債権者と債務者は誰でしょうか?
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配偶者居住権 の債権者は配偶者となります。また,債務者は,居住建物の所有者になります。なお,例えば,配偶者が遺贈により 配偶者居住権 を取得したが,居住建物については遺産共有状態にある場合には,債務者は配偶者を含む相続人全員ということになります。
2.配偶者居住権の要件(配偶者)
内縁の妻
- 【配偶者居住権の成立要件】配偶者には,内縁の妻は含まれるのでしょうか?
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配偶者居住権の「配偶者」(民法1028条1項)は,法律上被相続人と婚姻をしていた配偶者をいい,内縁の配偶者は含まれません(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]11頁)。配偶者居住権は,基本的には,遺産分割等に選択肢を増やす趣旨で創設したものであるが,内縁の配偶者はそもそも相続権を有していないことや,内縁の配偶者を権利主体に含めることとすると,その該当性をめぐって紛争が複雑化,長期化するおそれがあるからです。これは,「配偶者短期居住権」と同様です。
民法1028条
(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。
3.配偶者居住権の要件(建物)
被相続人名義の建物
- 【配偶者居住権の成立要件】配偶者居住権の目的となる建物は,被相続人名義の建物でないといけないのでしょうか?
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配偶者居住権 の目的となる建物は,相続開始の時点において,被相続人の財産に属した建物でなければなりません(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]11頁)。したがって,被相続人が賃借していた建物に配偶者が居住していた場合には, 配偶者居住権 は成立しません
共有の建物でもよいか
- 【配偶者居住権の成立要件】配偶者居住権の目的となる建物は,被相続人名義の単有の建物でないといけないのでしょうか?共有の建物の場合には,常に,配偶者居住権を認めることはできないのでしょうか?
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配偶者居住権 の目的となる建物は,原則として,相続開始の時点において,被相続人の財産に属した,被相続人の単有の建物でなければなりません。したがって,被相続人が建物の共有持分を有していたに過ぎない場合には,原則として,配偶者居住権を成立させることはできません(民法1028条1項ただし書)。もっとも,居住建物が夫婦の共有になっている場合には,配偶者居住権が認められます。
被相続人が長期入院していた場合
- 【配偶者居住権の成立要件】被相続人の配偶者は,被相続人の「相続開始の時に居住していた」とありますが,配偶者が長期入院をしている場合には,配偶者居住権は認められないのでしょうか?
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配偶者が相続開始時点では入院していたために,その時点では自宅である居住建物にいなかった場合であっても,配偶者の家財道具がその建物に存在しており,退院後はそこに帰ることが予定されていた場合のように,その建物が配偶者の生活の根拠として実態を失っていないと認められる場合(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]12頁)には,配偶者居住権は認められます。
生活の拠点が複数で遠隔地の場合
- 【配偶者居住権の成立要件】私と妻は,長年,夏は札幌のマンションで住み,冬は沖縄の海が見える家で住んでいます。私は,妻のために札幌のマンションと沖縄の家に配偶者居住権を与えたいと思いますが可能でしょうか?
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生活の本拠は通常一箇所であることが多いと思われるが,一定の期間,例えば半年ごとに生活の拠点を変えているような場合には,例外的に生活の本拠が複数認められることもありえるのものと考えられ,このような場合でも被相続人所有の建物に居住していた時は,複数の建物について配偶者居住権が成立することもあり得る(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]12頁)と考えられます。
生活の拠点は一箇所だが複数物件に配偶者居住権を設定可能か
- 【配偶者居住権の成立要件】公道に接している家とその裏側にある公道に接していない家があります。公道に接している家は,建物としては古く何かと不便ですので,公道に面していない裏側の建物を主に生活の拠点とし,公道に接している家は郵便の受領のためや家財道具を収納するために使用しています。この場合,両方の家に配偶者居住権をつけることはできるのでしょうか?
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生活の本拠は一箇所であっても例えば二棟の建物を一体として居住の用に供していた場合等については二棟の建物について 配偶者居住権 が成立することもあり得る(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]12頁)と考えられます。
店舗兼住宅
- 【配偶者居住権の成立要件】私と妻は,2階建ての建物で,1階を駄菓子屋の店舗として使用し,2階を居住用として使用しています。この場合,この家に配偶者居住権をつけることはできるのでしょうか?
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配偶者が建物全部を居住の用に供していたことは要件とされていません。したがって,配偶者が被相続人所有の建物を店舗兼住宅として使用していた場合であっても,配偶者が建物の一部を居住の用に供していたのであれば,「居住していた」という要件を満たす(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]12頁)ことになります。
4.配偶者居住権の要件(発生原因事実)
配偶者居住権の要件事実
- 【配偶者居住権の成立要件】配偶者居住権は,常に発生する権利ですか?例えば,私の自宅を前妻の子に渡したいと考えていますが,後妻である現在の妻が亡くなるまでは,自宅は妻が使って欲しいと考えています。
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配偶者居住権 は,配偶者の居住権を保護するために認められた法定の権利で,その発生原因となる法律行為についても法定することとし,これを遺産分割,遺贈または死因贈与の三つに限定しています。したがって,今回の場合,遺言などで, 配偶者居住権の設定 をしておく方がよいと思います。
配偶者居住権と特別受益
- 【配偶者居住権の成立要件】配偶者居住権の贈与は,配偶者に対する特別受益に該当しないのですか?
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配偶者が,遺産分割により 配偶者居住権 を取得する場合には,原則として,他の遺産を取得する場合と同様に自らの具体的相続分の中からこれを取得することになります。また, 遺贈 または死因贈与により 配偶者居住権 を取得する場合には特別受益に該当することになります(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]14頁)。
もっとも, 配偶者居住権 の 遺贈 または死因贈与がされた場合には,民法903条4項の規定が準用されるため(民法1028条3項),婚姻期間が20年以上の夫婦間において 配偶者居住権 の遺贈または死因贈与がされた場合には,これらの 遺贈 または死因贈与は原則として特別受益とは取り扱われないこととなります(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]14頁)。
民法903条
(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
配偶者居住権と遺産分割審判(調停)
- 【配偶者居住権の成立要件】亡夫の前妻の子が,配偶者居住権の設定につき,反対しています。この場合,遺産分割の調停や審判によって配偶者居住権を発生させることはできますか?
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民法1028条1項1号の遺産分割には遺産分割の審判も含まれるから,他の相続人が反対してる場合あっても審判によって配偶者に 配偶者居住権 を取得させることも可能です。
遺産分割の請求を受けた家庭裁判所は,共同相続人の間で配偶者に 配偶者居住権 を取得させることについて合意が成立している時か,または,配偶者が家庭裁判所に対して 配偶者居住権 の取得を希望する旨を申し出た場合において居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要であると認めるときに限り配偶者に 配偶者居住権 を取得させる旨の審判をすることができることとしています(民法1029条)
民法1029条
(審判による配偶者居住権の取得)
第千二十九条 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。
配偶者居住権と特定財産承継遺言
- 【配偶者居住権の成立要件】配偶者居住権を“遺言”で設定する場合に,気をつけなければならないことはありますか?
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被相続人が 遺言 によって配偶者に 配偶者居住権 を取得させるためには“遺贈”によることを要します。特定財産承継遺言,いわゆる相続させる旨の遺言の家遺産分割方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人または数人に承継させる旨の遺言(民法1014条2項参照)によることはできないこととしています。これは仮に,特定財産承継遺言による取得を認めることとすると,配偶者が 配偶者居住権 の取得を希望しない場合にも 配偶者居住権 の取得のみを拒絶することができずに 相続放棄 をするしか他ないこととなり,かえって配偶者の利益を害するおそれがあること 配偶者居住権の取得には一定の義務の負担を伴うことになるが一般に遺産分割方法の指定について負担をすることはできないとかいされていること等を考慮したものです。(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]14頁)
このため,遺言者があえて 配偶者居住権 を目的として特定財産承継遺言をしたと認められる場合には,その部分は無効ということになるが,通常は遺言者があえて無効な 遺言 をすることは考え難い。したがって,例えば相続させる旨の 遺言 により遺産の全部を対象として各遺産の帰属は決められ,その中で配偶者に 配偶者居住権 を相続させる旨が記載されていた場合でも,少なくとも 配偶者居住権 に関する部分については以上の趣旨であると解するのが遺言者の合理的意思に合致するものと考えられる(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]14頁)。
民法1014条
(特定財産に関する遺言の執行)
第千十四条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
配偶者居住権と死因贈与
- 【配偶者居住権の成立要件】民法1028条1項には,死因贈与はあげられていませんが,配偶者居住権を目的とする死因贈与はできるのですか?
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被相続人は,その生前に配偶者との間で 配偶者居住権 を目的とする 死因贈与契約 を締結することもできます。民法1028条1項各号には 死因贈与 はあげられていませんが, 死因贈与 については民法554条においてその性質に反しない限り 遺贈 に関する規定が準用されることから1028条1項各号に列挙しなかったにすぎず 死因贈与 による 配偶者居住権 の成立を否定する趣旨ではありません(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]11頁)。
民法1028条
(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。
民法554条
(死因贈与)
第五百五十四条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
5.配偶者居住権の存続期間
存続期間
- 配偶者居住権は,いつまで続くのでしょうか?
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原則として配偶者の終身の間となります(民法1030条)。もっとも, 配偶者居住権 の存続期間を遺産分割, 遺贈 または 死因贈与 において別段の定めをした場合には,その期間までとなります(民法1030条ただし書き)。
民法1030条
(配偶者居住権の存続期間)
第千三十条 配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。
存続期間の伸長・更新
- 【配偶者居住権の存続期間】配偶者居住権の存続期間が定められた場合,存続期間を更新したり,延長することはできるでしょうか?
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配偶者居住権 の存続期間が定められた場合,その延長や更新をすることはできません。 配偶者居住権 は配偶者がその建物を無償で使用することができる権利であるから,その財産評価額は基本的には 配偶者居住権 の存続期間が長くなるにしたがって高くになると考えられるが 配偶者居住権 の存続期間の延長や更新を認めることとすると 配偶者居住権 の財産評価を適切に行うことが困難になるためです(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]15頁)。
存続期間の事実上の延長方法
- 【配偶者居住権の存続期間】配偶者居住権の存続期間が定められた場合,存続期間を更新をする方法はないのでしょうか?
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配偶者居住権 の存続期間が定められた場合,その延長や更新をすることはできません。もっとも,配偶者居住権 の存続期間が終了した時点で,居住建物の所有者と配偶者との間で新たに使用貸借契約や賃貸借契約が締結をすれば,配偶者居住権 の存続期間経過後も配偶者が居住建物に居住し続けられることになります。
存続期間中の配偶者の死亡
- 配偶者居住権の存続期間中に配偶者が死亡した場合には,存続期間中は,配偶者の相続人が当該配偶者居住権を相続するということでしょうか?
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配偶者居住権 の存続期間は,原則として配偶者の終身の間とされており (民法1030条本文),遺産分割等において別段の定めをした場合でも,存続期間中に配偶者が死亡したときは, 配偶者居住権 は消滅します(民法1036条において準用する民法597条3項)。したがって,配偶者が 配偶者居住権 の存続期間中に死亡した場合には,当然に,当該 配偶者居住権 が消滅しますので, 配偶者居住権 は相続しません。
民法1036条
(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)
第千三十六条 第五百九十七条第一項及び第三項、第六百条、第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する。
民法597条
(期間満了等による使用貸借の終了)
第五百九十七条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
6.配偶者居住権と建物所有者の法律関係
(1)配偶者居住権の処分・相続
売買・贈与・相続
- 配偶者居住権を譲渡(売買・贈与等),または相続することは可能でしょうか?
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配偶者居住権 は,配偶者の居住権を保護するために特に認められた権利であり,帰属上の一身専属権とされています。このため 配偶者居住権 の帰属主体は配偶者に限定され,配偶者はこれを譲渡することができず(民法1032条2項),配偶者が死亡した場合には当然に消滅するため,相続の対象にもなりません(民法1036条において準用する597条3項) 。
民法1032条
(配偶者による使用及び収益)
第千三十二条 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
2 配偶者居住権は、譲渡することができない。
3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
4 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。
民法1036条
(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)
第千三十六条 第五百九十七条第一項及び第三項、第六百条、第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する。
民法597条
(期間満了等による使用貸借の終了)
第五百九十七条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
(2)配偶者居住権の使用・収益
事後的な使用方法の変更①
- 【使用及び収益】配偶者居住権を取得した配偶者は,その居住建物を増築したり,バリアフリー化することはできないのですか?
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配偶者は,居住建物の所有者の承諾を得なければ第三者に居住建物の使用又は収益をさせたり居住建物の増改築をしたりすることはできないこととしています(民法1032条3項) 。したがって,増築に関しては,建物所有者の承諾がなければ,行えないことになります。バリアフリー化に関しましても,改築とみなされるほどのものであると,建物所有者の承諾が必要だと考えられますが,取り外し可能な軽度のバリアフリー化であれば,建物所収者の承諾がなくても,問題はないと考えられます。
民法1032条
(配偶者による使用及び収益)
第千三十二条 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
2 配偶者居住権は、譲渡することができない。
3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
4 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。
事後的な使用方法の変更②
- 【使用及び収益】配偶者居住権を取得した配偶者は,その居住建物の一部を新たに営業のために使用することはできますか?具体的には,配偶者の死亡後,配偶者居住権を取得した後に2階建ての1階で喫茶店を開きたいと考えていますが,可能でしょうか?
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配偶者居住権 は,配偶者の居住権を保護するという制度です。したがって,相続開始前には配偶者が使用していなかった部分や居住の用に供していなかった部分についても事後的に居住の用に供することは妨げられないこととしており,その限度では従前の用法を変更することを認めることとしています。もっとも,配偶者は,従前の用法に従い善良な管理者の注意をもって,居住建物の使用及び収益をしなければなりません(民法1032条1項)。したがって,居住の用に供していた部分を営業の用に供することは用法遵守義務違反となります。
建物所有者の修繕義務の有無
- 【使用及び収益】配偶者居住権を取得した配偶者は,建物の所有者に対し,水道管修理・風呂釜の修理・電気設備等の修理をするように請求できますか?
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賃貸借契約における賃貸人と異なり,居住建物の所有者は,配偶者に対し建物の使用及び収益をするのに適した状態にする義務(修繕義務)までは負っておらず,配偶者が無償で居住建物を使用することを受忍すれば足りると考えられています。
建物所有者の修繕の可否
- 【使用及び収益】配偶者居住権を取得した配偶者が,その居住建物を修繕をしない場合には,建物所有者は,修繕をすることはできるのでしょうか?
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居住建物の所有者は,その配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしない時に修繕をすることができます(民法1033条2項)。
修繕についての建物所有者の承諾の要否
- 【使用及び収益】配偶者居住権を取得した配偶者は,その居住建物を修繕する際には,建物所有者の承諾等は必要なのでしょうか?
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居住建物修繕が必要な場合には,まず,配偶者において修繕することができます(民法1033条1項)。したがって,配偶者居住権を取得した配偶者は,その居住建物を修繕する際には,建物所有者の承諾は不要です。これは居住建物の修繕について,最も利害関係を有しているのは,実際に居住建物を使用している配偶者であり,居住建物の所有者は,配偶者に対して修繕義務を負わず,居住建物の通常の必要費となる修繕費用は,配偶者の負担となることから配偶者の修繕の一時的な権限を付与することとしたものです(民法1034条1項)。
民法1033条
(居住建物の修繕等)
第千三十三条 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
2 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。
3 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
民法1034条
(居住建物の費用の負担)
第千三十四条 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
2 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
配偶者の建物所有者に対する通知義務①
- 【使用及び収益】配偶者居住権を取得した配偶者が,その居住建物を修繕する場合には,配偶者は,その旨を建物所有者に伝える必要はありますか?
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配偶者が自ら修繕をする場合には,配偶者が自らが修繕をする旨の通知をする必要にかけることから,通知を要しないこととしている(民法1033条3項)
配偶者の建物所有者に対する通知義務②
- 【使用及び収益】配偶者居住権を取得した配偶者が,その居住建物を修繕をできない場合には,配偶者は,その旨を建物所有者に伝える必要はありますか?
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居住建物の所有者に修繕の機会を与えるために,賃貸借に関する民法615条と同様に居住建物が修繕を要し又は居住建物について権利を主張する者があるときは,配偶者は,建物所有者に対し遅滞なくその旨を通知しなければなりません。なぜならば,配偶者が居住建物について必要な修繕をしない場合に,建物の保存のために居住建物所有者において修繕をしたいという場合も多いと考えられるが,居住建物の所有者は,実際に建物建物を使用しておらず修繕を要する状態になっていることに気づかないこともあるからです。もっとも,建物所有者が,居住建物が修繕を要し又は居住建物について権利を主張する者があることを既に知っている場合には,通知をする必要にかけることから,これらの場合には,通知を要しないこととしています(民法1033条3項)
建物所有者の配偶者に対する損害賠償請求権
- 配偶者居住権を取得した配偶者が,居住建物の管理を十分にしなかったため,居住建物が雨漏りをしており,当該居住建物の柱が腐食しています。この場合に,配偶者に対し,損害賠償請求をすることができるのでしょうか?
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配偶者の善管注意義務違反等による損害賠償請求権及び居住建物についての費用償還請求権は,居住建物の所有者が居住建物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません(民法1036条において準用する民法600条1項)。これは使用貸借の規定を準用しています。
民法600条
(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
第六百条 契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。
2 前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から一年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
敷地を利用できるか
- 【使用及び収益】配偶者居住権を取得した配偶者は,建物の敷地である庭を使用することはできますか?
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配偶者は,配偶者居住権に基づき居住建物の使用及び収益をする場合にはそれに必要な限度で敷地を利用することができます。
居住建物所有者の承諾の要否
- 【使用及び収益】配偶者居住権を取得した配偶者は,居住建物の自由に使用してもよいのでしょうか?例えば,配偶者の友人に賃貸をして,収益を上げる事はできるでしょうか?
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配偶者居住権は,無償で居住建物の使用及び収益をすることができる権利となりますが,使用貸借権の借主と同様に,配偶者は,居住建物所有者の承諾を得なければ,“第三者”に居住建物を使用又は収益させることはできないこととしています(民法1032条3項) 。
収益とは
- 【使用及び収益】居住建物の収益とは,具体的にはどういうことでしょうか?例えば,二階建て居住建物の一階部分で駄菓子屋を営んでいるのですが,配偶者居住権を設定すれば,配偶者は,その駄菓子屋を継続させることはできるのでしょうか?
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居住建物の収益とは。居住建物を賃貸して利益を上げることなどを言います。利益を得るための活動を行う場所として居住建物を使用すること(居住建物の一部で小売店や飲食店を営業すること)は,基本的には収益に当たらないと解されます(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]15頁)。
配偶者居住権が及ぶ範囲
- 【使用及び収益】区分所有建物でないアパートの一室が被相続人と配偶者の居住のために使用され,他の部屋は被相続人が第三者に賃貸をしていた場合には,配偶者居住権が及ぶ範囲は,アパートの一室なのでしょうか?
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区分所有建物でないアパートの一室が被相続人と配偶者の居住のために使用され ,他の部屋は被相続人が第三者に賃貸をしていたというケースの場合,配偶者居住権はアパート全体について成立します。これは,①建物の一部について登記をすることを認めることが技術的に困難であること,また,②建物の一部について配偶者居住権が成立することを認めると,配偶者は居住建物全体についての配偶者居住権を取得することよりも低い評価額で配偶者居住権を取得することができることになり,配偶者居住権を執行妨害目的等で利用されるおそれがあること等を考慮したものです。
配偶者は賃料を受領できるか
- 【使用及び収益】区分所有建物でないアパートの一室が被相続人と配偶者の居住のために使用され,他の部屋は被相続人が第三者に賃貸をしていた場合に,その第三者から受領していた賃料は,配偶者居住権を取得した配偶者が取得することになりますか?
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第三者から収受している賃料については,当該賃貸借契約にかかわる賃貸人の地位を承継する者が取得することとなり,通常は居住建物所有者が取得することになるものと考えられます。なぜならば,①賃借人たる第三者は既に被相続人から引き渡しを受けていることから配偶者は当該第三者に対しては配偶者居住権を対抗することができないことになる(借地借家法31条)ことと,②配偶者居住権の成立と,すでに成立している賃貸借契約上の地位の承継は,別の問題であることからです。
借地借家法31条
(建物賃貸借の対抗力)
第三十一条 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
居住建物の固定資産税の納税義務者①
- 居住建物の固定資産税は,建物所有者が支払うのでしょうか?それとも,配偶者居住権を取得した配偶者が,居住建物の固定資産税を支払うのでしょうか?
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配偶者は居住建物通常の必要費を負担します(民法1034条1項)。通常の必要費とは,使用貸借に関する民法595条1項に規定する通常の必要費と同一と考えられています。したがって,通常の必要費には居住建物保存に必要な通常の修繕費用の他,居住建物やその敷地の固定資産税等が含まれるものと考えられます(最二小判昭和36年1月27日集民48号179頁)
民法595条
(借用物の費用の負担)
第五百九十五条 借主は、借用物の通常の必要費を負担する。
2 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。
居住建物の固定資産税の納税義務者②
- 居住建物の固定資産税を建物所有者が支払ってしまった場合,配偶者居住権を取得した配偶者に請求をすることができるのでしょうか?
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固定資産税納税義務者は,固定資産の所有者とされているため,配偶者居住権が設定されている場合でも,管轄の税務署等に届出をしない限り,建物所有者が納税義務者になります。もっとも,配偶者は居住建物通常の必要費を負担します(民法1034条1項)ので,居住建物の所有者は固定資産税を納付した場合には配偶者に対して求償することができることになります。
配偶者居住権の設定の登記義務
- 配偶者居住権の設定の登記は,配偶者と建物所有者との共同で行うとのことですが,建物所有者は,配偶者居住権の設定登記をしなければならないでしょうか?
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居住建物の所有者は,配偶者居住権を取得した配偶者に対し,配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います(民法1031条)。したがって,建物所有者は,配偶者居住権の設定登記をしなければなりません。
民法1031条
(配偶者居住権の登記等)
第千三十一条 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。
2 第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。
7.配偶者居住権と第三者の法律関係
配偶者居住権の第三者対抗要件(登記)
- 配偶者居住権を第三者に主張するには,どのようにすればよいでしょうか?
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配偶者居住権を第三者に対抗(主張)をするには,配偶者居住権の登記をしなければなりません。
配偶者居住権と建物の引渡しの関係
- 建物賃借権の場合には,賃借権の登記がなくても,建物の引渡しがあったときは,その後その建物について第三者に対抗(主張)することができはずですが,配偶者居住権では引渡しは第三者に対抗するための要件ではないのですか?
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配偶者居住権では,建物の賃借権と異なり,居住建物引き渡しを対抗要件とすることとはしていません(借地借家法31条参照)。なぜならば,配偶者居住権は相続開始時に配偶者が居住建物に居住していたことがその成立要件とされているため,居住建物の引き渡しを対抗要件とすると,建物の外見上は何の変化もないことになり,公示手段として極めて不十分なものになるものと考えられるからです。また,配偶者居住権は無償で居住建物を使用することができる権利であるから,配偶者が対抗要件を取得した後に居住建物所有権を譲り受けた者や居住建物を差し押さえをした債権者等の第三者は,賃借権の場合とは異なり存続期間中は建物使用の対価すら取得することができないこととなるため第三者に権利の内容を適切に公示すべき必要性が高いからです。
借地借家法31条
(建物賃貸借の対抗力)
第三十一条 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
配偶者居住権に引渡し猶予は適用されるか否か
- 配偶者居住権が設定されるより前の順位で抵当権設定登記があり,当該建物につき,当該抵当権に基づいて競売されたとき,配偶者居住権を取得した配偶者は,建物の競売における買受人の買受けの時から6か月間は,建物の引渡しを猶予されるのでしょうか?
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配偶者居住権については,民法395条1項の抵当建物使用者の引渡しの猶予の適用はありません。なぜならば,配偶者居住権は無償で居住することができる権利であるからです。したがって,配偶者居住権が抵当権に対抗することができない場合に,居住建物が抵当権に基づいて競売されたときは,競落人は配偶者に対して直ちに居住用建物明け渡しを請求することができることになります。
民法395条
(抵当建物使用者の引渡しの猶予)
第三百九十五条 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
2 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。
8.配偶者居住権の財産評価
配偶者居住権の財産評価をするときとは
- 配偶者居住権の財産評価をする必要がある場合とは,どのような場合でしょうか?
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まず,被相続人の死亡時に,被相続人に関する相続税の計算のときに必要になります。また,配偶者が遺産分割において配偶者居住権を取得する場合には,他の遺産を取得する場合と同様を自らの具体的相続分においてこれを取得することになりますが,その遺産分割をする際に,配偶者居住権の財産評価を行う必要があります。さらに,配偶者が遺贈や死因贈与によって,配偶者居住権を取得した場合,他に遺産分割の対象となる財産があれば,特別受益(民法903条)との関係で配偶者の具体的相続分に影響を与える場合がありますが,他に遺産分割の対象となる財産がない場合にも遺留分侵害額を算定する際には,配偶者居住権の財産評価を行う必要があります。
配偶者居住権の財産評価の計算方法の種類
- 配偶者居住権の財産評価の計算方法には,どのようなものがありますか?
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配偶者居住権の財産評価の計算方法には,大きく分けて3つの方法があります。①公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会の計算方法,②平成31年度税制改正大綱の計算方法,③法制審議会民法(相続関係)部会第19回会議における計算方法,となります。
公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会の計算方法
- 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会の計算方法とは,どのような計算方法なのでしょうか?
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公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会は,配偶者居住権の評価方法の一つのあり方として,「配偶者居住権の価額は,居住建物の賃料相当額から配偶者が負担する通常の必要費を控除した価額に,存続期間に対応する年金原価率を乗じた額である」とする考え方を示しています。
平成31年度税制改正大綱の計算方法
- 平成31年度税制改正大綱の計算方法とは,どのような計算方法なのでしょうか?
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平成31年度税制改正大綱の計算方法は下記のとおりです。
平成31年度税制改正大綱
民法(相続関係)の改正に伴い、次の措置を講ずる。
① 相続税における配偶者居住権等の評価額を次のとおりとする。
イ 配偶者居住権
建物の時価-建物の時価×(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
ロ 配偶者居住権が設定された建物(以下「居住建物」という。)の所有権 建物の時価-配偶者居住権の価額
ハ 配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利
土地等の時価-土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
ニ 居住建物の敷地の所有権等
土地等の時価-敷地の利用に関する権利の価額
(注1)上記の「建物の時価」及び「土地等の時価」は、それぞれ配偶者居住権が設定されていない場合の建物の時価又は土地等の時価とする。
(注2)上記の「残存耐用年数」とは、居住建物の所得税法に基づいて定められている耐用年数(住宅用)に1.5を乗じて計算した年数から居住建物の築後経過年数を控除した年数をいう。
(注3)上記の「存続年数」とは、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める年数をいう。
(イ)配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身の間である場合 配偶者の平均余命年数
(ロ)(イ)以外の場合 遺産分割協議等により定められた配偶者居住権の存続期間の年数(配偶者の平均余命年数を上限とする。)
(注4)残存耐用年数又は残存耐用年数から存続年数を控除した年数が零以下となる場合には、上記イの「(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数」は、零とする。
法制審議会民法(相続関係)部会第19回会議における計算方法
- 法制審議会民法(相続関係)部会第19回会議における計算方法とは,どのような計算方法なのでしょうか?
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法制審議会民法(相続関係)部会第19回会議における計算方法とは,「居住建物及びその敷地の価値から配偶者居住権の負担付の各所有権の額を控除した額を配偶者居住権の価額とする方法」となります。
9.配偶者居住権の消滅
配偶者居住権の消滅事由
- 配偶者居住権はどのような場合に,消滅するのでしょうか?
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配偶者居住権の消滅原因としては,①居住建物所有者による消滅請求(民法1032条4項),②存続期間の満了(民法1036条において準用する民法597条1項),③配偶者の死亡(民法1036条において準用する民法597条3項),④居住建物の全部滅失等(民法1036条において準用する民法616条の2)などがあります。
民法1032条
(配偶者による使用及び収益)
第千三十二条 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
2 配偶者居住権は、譲渡することができない。
3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
4 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。
民法1036条
(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)
第千三十六条 第五百九十七条第一項及び第三項、第六百条、第六百十三条並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する
民法597条
(期間満了等による使用貸借の終了)
第五百九十七条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
3 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。
民法616条の2
(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)
第六百十六条の二 賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。
配偶者居住権の消滅請求
- 配偶者居住権を得た配偶者が,勝手に,居住建物を増築したのですが,その場合には,居住建物の所有者は,当該配偶者に対し配偶者居住権の消滅請求をすることができるでしょうか?
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配偶者が,民法1032条1項または民法1032条2項の規定に違反した場合,つまり,用法遵守義務や善管注意義務に違反した場合や居住建物の所有者の承諾を得ずに第三者に使用収益をさせ又は増改築をした場合には,居住建物所有者は,配偶者に対して相当の期間を定めて是正の催告を行い,この期間内に是正をされない時は配偶者に対する意思表示によって,配偶者居住権を消滅させることができます。したがって,配偶者居住権を得た配偶者が,勝手に,居住建物を増築した場合,居住建物の所有者は,当該配偶者に対し配偶者居住権の消滅請求をすることができます。
配偶者居住権の消滅請求のための是正の催告
- 配偶者に対する配偶者居住権の消滅請求の場合には,常に,“是正の催告”は必要なのでしょうか?
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配偶者に対する配偶者居住権の消滅請求の場合には,常に,“是正の催告”は必要となります(民法1032条4項)。なぜならば,①配偶者は,自らの具体的相続分において,配偶者居住権を取得しており,その意味では,権利取得の対価を負担していることや,②配偶者居住権は審判での設定も認められているなど,必ずしも当事者間の信頼関係に基づくものとは言えないためです(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]23頁)。なお,配偶者短期居住権の消滅請求(民法1038条3項)の場合は,是正の催告は必要的なものではありません。
民法1038条
配偶者居住権の消滅請求と配偶者居住権の譲渡
- 配偶者居住権を得た配偶者が,勝手に,配偶者居住権を譲渡したのですが,その場合には,居住建物の所有者は,当該配偶者に対し配偶者居住権の消滅請求をすることができるでしょうか?
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配偶者居住権の譲渡禁止を定める民法1032条2項に違反しただけでは,建物所有者は配偶者居住権の消滅請求をすることができませんが,実際に,第三者が使用収益をした場合には,配偶者居住権の消滅請求をすることができます(民法1032条)。なぜならば,配偶者居住権の譲渡禁止に違反しただけでは,第三者に使用収益をさせていない段階では,居住建物所有者に実害は生じていないものとも考えられ,配偶者居住権の消滅請求を認めるまでの必要性に乏しいと考えられるからです。なお,これは賃貸借の場合(民法612条参照)と同様です。
民法612条
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
保存行為による配偶者居住権の消滅請求
- 居住用建物が共有である場合には,各共有者はそれぞれ単独で配偶者居住権の消滅請求をすることができるでしょうか?
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居住用建物が共有である場合には,各共有者はそれぞれ単独で配偶者居住権の消滅請求をすることができるものと考えられています。配偶者居住権は,配偶者の居住の権利を保護するために特に認められた法定の権利であり,配偶者の義務違反によって居住建物価値が毀損することを防ぐために配偶者居住権の消滅請求をすることは保存行為(民法252条ただし書)にあたると考えられるからです(堂薗=神吉[2019年]概説改正相続法[初版]23頁)。
民法252条
(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
配偶者居住権の消滅の効果
- 配偶者居住権が消滅した場合には,どのような効果がありますか?仮に,居住建物の持分を配偶者が取得している場合にでも,配偶者居住権が消滅したことをもってして,居住建物の返還義務を負いますか?
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配偶者居住権が消滅した場合には,配偶者は,居住建物の返還義務を負います(民法1035条1項本文)。もっとも,配偶者が居住建物の共有持分を有する場合には,配偶者は共有持分につき建物を占有することができることから,配偶者居住権が消滅したことを理由とする返還義務は負わないことになっています(民法1035条ただし書き)
民法1035条
(居住建物の返還等)
第千三十五条 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。
2 第五百九十九条第一項及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。
配偶者居住権の消滅と原状回復①
- 配偶者居住権が消滅した後の原状回復はどのようにすればよいでしょうか?例えば,相続開始後に居住建物にエアコンを新たに設置した場合には,そのエアコンを持っていってよいのでしょうか?
-
配偶者が,相続開始後に居住建物に付属させたものがある場合には,配偶者は,これを収去する権利を有し,義務を負います(民法1035条2項において準用する民法599条1項及び2項)。したがって,当該エアコンに関しては,配偶者は持っていってよいと考えられます。
配偶者居住権の消滅と原状回復②
- 配偶者居住権が消滅した後の,原状回復はどのようにすればよいでしょうか?例えば,相続開始後に,飼い始めた犬が居住建物の柱を噛んで損傷した場合には,当該柱のキズは直さないといけないでしょうか?
-
居住建物について相続開始後に生じた損傷がある場合には,配偶者は,通常の使用によって生じた居住建物損傷及び居住建物の経年劣化を除き原状回復義務を負います(民法1035条2項において準用する621条)。したがって,配偶者は,当該柱については原状回復義務があるため柱のキズを直すべきです。
民法599条
(借主による収去等)
第五百九十九条 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
3 借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
●対応地域とアクセス
(1)対応地域
当事務所は「全国対応」しております。また,原則として,主に下記の地域の方に関しましては,本人確認及び意思確認のために,面談を実施しております。(現在は,新型コロナウイルスの影響によりオンラインでの面談や郵送での本人確認についても対応しております。)
●名古屋市内全域
(東区・千種区・名東区・守山区・緑区・昭和区・瑞穂区・天白区・北区・中村区・中区・西区・中川区・熱田区・南区・港区[相生山・赤池・新瑞橋・荒畑・池下・一社・今池・いりなか・岩塚・植田・大須観音・大曽根・覚王山・金山・上社・黒川・上飯田・上小田井・神沢・上前津・亀島・川名・車道・国際センター・御器所・栄・桜本町・桜山・塩釜口・志賀本通・市役所・自由ヶ丘・浄心・新栄町・神宮西・砂田橋・庄内緑地公園・庄内通・浅間町・総合リハビリセンター・高岳・高畑・千種・茶屋ヶ坂・築地口・鶴里・鶴舞・伝馬町・東海通・徳重・中村区役所・中村公園・中村日赤・名古屋・名古屋港・名古屋大学・ナゴヤドーム前矢田・鳴子北・西高蔵・野並・八田・原・東別院・東山公園・久屋大・日比野・平針・吹上・伏見・藤が丘・平安通・星ヶ丘・堀田・本郷・本陣・丸の内・瑞穂運動場西・瑞穂運動場東・瑞穂区役所・港区役所・妙音通・名城公園・本山・八事・八事日赤・矢場町・六番町])
●愛知県全域
(春日井市・あま市・日進市・長久手市・みよし市・北名古屋市・清須市・小牧市・瀬戸市・尾張旭市・津島市・愛西市・弥富市・東郷・大治・蟹江・豊山・春日・大口・扶桑・阿久比・一宮市・稲沢市・江南市・岩倉市・犬山市・豊明市・半田市・常滑市・知多市・内海・東浦・武豊・大府市・東海市・知多市・岡崎市・刈谷市・知立市・碧南市・安城市・高浜市・豊田市・西尾市・豊橋市・豊川市・蒲郡市・幸田・新城市・鳳来[名古屋・金山・鶴舞・千種・大曽根・新守山・勝川・春日井・神領・高蔵寺・定光寺・古虎渓・中村区役所・名古屋・国際センター・丸の内・久屋大通・高岳・車道・今池・吹上・御器所・桜山・瑞穂区役所・瑞穂運動場西・新瑞橋・桜本町・鶴里・野並・鳴子北・相生山・神沢・徳重]
●岐阜県全域
(岐阜市・羽島市・各務原市・山県市・瑞穂市・本巣・羽島市・大垣市・海津市・養老郡・不破郡・安八郡・揖斐郡・関市・美濃市・美濃加茂市・可児市・加茂郡・可児郡・多治見市・中津川市・瑞浪市・恵那市・土岐市[多治見・土岐・瑞浪・釜戸・武並・恵那・美乃坂本・中津川]
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岐阜地方法務局 高山支局
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