民法107条(代理権の濫用)
1 新旧対照表
旧<令和2年(2020年)3月31日まで
規定なし
新<令和2年(2020年)4月1日から>
(代理権の濫用)
第百七条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
2 改正のポイント
②上記①の結果,無権代理の各規定が適用されうることになった
3 解説
(1)代理権の濫用を無権代理と規定
改正前民法上,代理権の濫用の明文規定はないものの,判例(最判昭和42・4・20 民集21-3-697)では民法93 条ただし書きを類推適用し,相手方が悪意または有過失の場合には無効としてきた。もっとも,学説上は無権代理説(相手方は民法110 条によって保護され得る。)・信義則説(相手方が 悪意または重過失の場合にのみ無効)も有力であった。そこで改正後民法は,代理権の濫用を有権代理として捉えつつ,相手方が代理人の目的について悪意または過失があった場合に無権代理とみなすという構成を採用した(なお,中間試案では本人による効果不帰属の意思表示によって無権代理とみなされる,またその意思表示は相手方が悪意または重過失の場合にのみ認められるという構成を取っていたが,変更された。)。
(2)無権代理の各規定が適用されうる
無権代理とみなされる結果,追認/追認拒絶(民法113・民法116),催告(民法114),相手方の取消権(民法115),無権代理人の責任(民法117)に関する規定が,それぞれの要件を充たす限りで適用され得る。もっとも,代理人の目的 について悪意または過失がある場合であるから,表見代理(民法110 条)の規定が適用されることは考えられ にくい。
(3)第三者への対抗可能性に関する規定の立法化は見送られた
中間試案においては,第三者が悪意または重過失の場合にのみ,本人による効果不帰属の意思表示を第三者に対抗することができる旨の規定が置かれていたが,最終的に第三者への対抗可能性に関する規定の立法化は見送られた。そのため,第三者の保護にあたっては,民法192 条の適用や民法94 条2項類推適用等を検討することになる。
(即時取得)
第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
虚偽表示)
第九十四条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
経過措置
施行日前に無権代理人が代理人として行為をした場合におけるその無権代理人の責任については,なお従前の例による(附則7Ⅱ)
関連判例
最判昭和42年4月20日
事件番号 昭和39(オ)1025 事件名 売掛代金請求 裁判年月日 昭和42年4月20日 法廷名 最高裁判所第一小法廷 裁判種別 判決 結果 棄却 判例集等巻・号・頁 民集 第21巻3号697頁
判示事項
代理人の権限濫用の行為と民法第九三条
裁判要旨
代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知りまたは知りうべきであつた場合にかぎり、民法第九三条但書の規定を類推適用して、本人はその行為についての責に任じないと解するのが相当である。
参照法条
民法93条,民法99条