民法97条(意思表示の効力発生時期等),98条の2(意思表示の受領能力)

1 新旧対照表

旧<令和2年(2020年)3月31日まで>

(隔地者に対する意思表示)
第九十七条 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

(意思表示の受領能力)
第九十八条の二 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、その法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでない。

新<令和2年(2020年)4月1日から>

(意思表示の効力発生時期等)
第九十七条 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
2 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

(意思表示の受領能力)
第九十八条の二 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
一 相手方の法定代理人
二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方

2 改正のポイント

ポイント ①97条1項の改正は,隔地者に対する意思表示以外の場面にも拡大するものである。
②97条2項の改正は,判例(最判平成10年6月11日)を踏襲し,相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは,通常到達すべきであった時に到達したものとみなすと規定したものである。
③97条3項の改正は,発信後に表意者が「意思能力を喪失」した場合を追加したものである。
④98条の2の改正は,法定代理人に加え,「意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方」も意思表示の受領能力があると規定したものである。

3 解説

(1)97条1項(隔地者以外にも適用)

 従前の民法は,隔地者に対する意思表示と対話者に対する意思表示とを分けたうえで,前者についてのみ規定を置いていたが,この区別を廃止した。

(2)97条1項(到達主義は維持)

 到達主義の原則は維持している。

(3)契約の承諾の通知(発信主義)の廃止

 契約の承諾の通知についての例外(従前の民法526Ⅰの発信主義)は廃止している。契約の成立について発信主義を採った趣旨は,早期に契約を成立させることで取引の迅速を図ることにあった。しかし,今日の発達した通信手段の下で発信から到達までの時間は短縮されており,この趣旨を実現するために例外を設けてまで発信主義を採る必要はないからである。ただし,契約の申込みの場合,申込者が,上記事実が発生したとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき,または相手方が承諾の通知を発するまでに上記事実が生じたことを知ったときには,97 条3項は適用されない(民法526条)。

(4)「到達」の意義について規定せず

 「到達」の意義については,「意思表示が相手方の勢力範囲に入り,その了知可能な状態に置かれたこと」とする判例(最判昭和36・4・20 民集15-4-774)があった。これを踏まえて,中間試案では,「到達とは,相手方が意思表示を了知したことのほか,次に掲げることをいうものとする。ア 相手方又は相手方のために意思表示を受ける権限を有する者(以下この項目において「相手方等」という。)の住所,常居所,営業所,事務所又は相手方等が意思表示の通知を受けるべき場所として指定した場所において,意思表示を記載した書面が配達されたこと。イ その他,相手方等が意思表示を了知することができる状態に置かれたこと。」旨の規定を置く提案をしていたが,最終的には,電子的手段も念頭に置いた定義を置くことは難しいとの判断から立法化を見送りになった(部会資料66A・7~8頁)。ちなみに,中間試案段階においては,「例えば,電子メールによる意思表示において,相手方が指定したメールアドレスにメールが着信すれば一般的には「了知することができる」と言えるが,その指定から相当の時間が経過しており,かつ,そのメールアドレスを用いた通信が長期間にわたて行われていなかったという場合において,相手方が既にそのメールアドレスを使用していない場合には,「了知することができる」には該当しないと考えられる」との見解が示されていた(中間試案の補足説明32 頁)。

(5)97条2項(判例の条文化)

 受領者が正当な理由なく通知の到達を妨げた場合について,判例(最判平成10・6・11 民集52-4-1034)を踏まえ,その通知は,通常到達すべきであった時に到達したものとみなす旨の規定を創設した。

(6)97条3項(意思無能力も規定)

 発信後に死亡・行為能力を喪失した(制限された)場合の意思表示の有効性に加え,発信後に意思無能力になった場合の意思表示の有効性についても規定された。

(7)98条の2(意思表示の受領能力者の追加)

 意思表示の受領能力について,相手方の法定代理人が意思表示を知った場合のみならず,相手方が意思能力を回復し,または行為能力者になり,意思表示を知った場合にも意思表示をもって対抗できる旨規定を定めた。

経過措置

(1)意思表示

 施行日前にされた意思表示については,なお従前の例による(附則6Ⅰ)。

(2)通知が発せられた意思表示

 施行日前に通知が発せられた意思表示については,なお従前の例による(附則6Ⅱ)。

(意思表示に関する経過措置)
第六条 施行日前にされた意思表示については、新法第九十三条、第九十五条、第九十六条第二項及び第三項並びに第九十八条の二の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 施行日前に通知が発せられた意思表示については、新法第九十七条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

関連判例

最判平成10年6月11日

事件番号 平成9(オ)685
事件名 遺留分減殺、土地建物所有権確認
裁判年月日 平成10年6月11日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻
判例集等巻・号・頁 民集 第52巻4号1034頁


判示事項
一 遺産分割協議の申入れに遺留分減殺の意思表示が含まれていると解すべき場合
二 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合に意思表示の到達が認められた事例
裁判要旨
一 被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合において、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解すべきである。
二 遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合において、受取人が、不在配達通知書の記載その他の事情から、その内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができ、また、受取人に受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく右内容証明郵便を受領することができたなど判示の事情の下においては、右遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、受取人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で受取人に到達したものと認められる。
参照法条
民法97条,民法907条,民法1031条