民法90条(公序良俗)

191114民法(債権法)改正

1 新旧対照表

旧<令和2年(2020年)3月31日まで>

(公序良俗)第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

民法(施行日:令和元年七月一日)

新<令和2年(2020年)4月1日から>

(公序良俗)第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法(施行日:令和四年四月一日)

2 改正のポイント

ポイント ①表現の見直し→ 「事項を目的とする」を削除

3 解説

(1)「目的とする」の削除

「目的とする(=内容とする)」を削除することによって,「法律行為の内容だけではなく,法律行為が行われる過程その他の事情も広く考慮する」ことを明確化(筒井=村松[2018年]一問一答民法(債権関係)改正15頁)。

(2)暴利行為について規定せず

 判例(大判昭和9・5・1民集13-875)は,「他人の窮迫,軽率又は無経験を利用し,著しく過当な利益を獲得することを目的とする法律行為」は公序良俗に反して無効である旨判示している。また,近時の裁判例には,不当に一方の当事者に不利益を与える場合には暴利行為として効力を否定すべきであるとするものもある。もっとも,このような判例の展開は,90 条の文言からは読み取れないと指摘されていた。そこで,中間試案においては,「相手方の困窮,経験の不足,知識の不足その他の相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを利用して,著しく過大な利益を得,又は相手方に著しく過大な不利益を与える法律行為は,無効とする」旨の規定を置くことが提案された。しかし,主として経済界からの,濫用のおそれを警戒して規定を置くこと自体への反対がある一方で,この定義は狭すぎるとする指摘もなされていた(中間試案の補足説明3~6頁)。その後も,両者の間でコンセンサスが得られず,結局,暴利行為について特別の規定を置くことは断念され,90 条を根拠規定とした判例法理の展開に委ねられることになった(部会資料82-2・1頁)。なお,消費者契約法の改正によって,暴利行為該当性を問題とされてきたものの中には,消費者契約法により取消しが認められ得るものも想定される。

経過措置

 施行日前にされた法律行為については,なお従前の例による(附則5)。

(公序良俗に関する経過措置)
第五条 施行日前にされた法律行為については、新法第九十条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

関連判例

最判昭和61年9月4日

事件番号 昭和60(オ)1563
事件名 貸金
裁判年月日 昭和61年9月4日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
判例集等巻・号・頁 集民 第148号417頁


判示事項
一 賭博の用に供されることを知つてする金銭の消費貸借契約と公序良俗違反
二 相殺の抗弁を容れて原告の請求を棄却した第一審判決に対し原告のみが控訴した場合と不利益変更禁止の原則
裁判要旨
一 賭博の用に供されることを知つてする金銭の消費貸借契約は、公序良俗に違反し無効である。
二 原告の訴求債権の存在を認めながら被告の相殺の抗弁を容れ原告の請求を棄却した第一審判決に対し、原告のみが控訴し被告が控訴も附帯控訴もしなかつた場合において、控訴審が、被告の相殺の抗弁について判断するまでもなく、訴求債権の不存在を理由に原告の請求を棄却すべきときは、不利益変更禁止の原則に従い、第一審判決を維持して、原告の控訴を棄却するにとどめなければならない。
参照法条
民法90条,民訴法199条2項,民訴法384条,民訴法385条,民訴法386条


         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の本件控訴を棄却する。
     被上告人の原審における請求の拡張部分を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は、被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人祝部啓一の上告理由二について
貸与される金銭が賭博の用に供されるものであることを知つてする金銭消費貸借契約は公序良俗に違反し無効であると解するのが相当であるところ(最高裁昭和四六年(オ)第一一七七号同四七年四月二五日第三小法廷判決・裁判集民事一〇五号八五五頁)、原審の適法に確定した事実によれば、被上告人は、上告人Aに対し本件金銭が賭場開張の資金に供されるものであることを知りながら、本件金銭を貸与したというのであるから、本件金銭消費貸借契約は公序良俗に違反し無効であるというべきである。したがつて、本件金銭消費貸借契約は無効とはいえないとした原審の判断には、民法九〇条の解釈適用を誤つた違法があり、この違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、これと同旨に帰着する論旨は理由があり、原判決は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。そして、原審の確定した事実及び右の説示によれば、被上告人の請求は、上告人らの主張する相殺の抗弁について判断するまでもなく、原審における請求の拡張部分を含めて、その全部につき理由がなく、棄却すべきことが明らかである。
 ところで、本件訴訟の経緯についてみるに、記録によれば、(一) 第一審は、被上告人の本件貸金請求につき本件金銭消費貸借契約は公序良俗に違反しないなどとして貸金債権が有効に成立したことを認めたものの、右貸金債権は、上告人らの主張する反対債権である売買代金返還請求債権と対当額で相殺されたことによりその全額につき消滅したとして、被上告人の本件貸金請求を棄却する旨の判決をした、(二) 第一審判決に対しては、被上告人のみが控訴し、上告人らは控訴も附帯控訴もしなかつた、(三) 原審は、被上告人の貸金債権については、第一審判決と同じく公序良俗違反などの抗弁を排斥してその有効な成立を認めたうえ、上告人らの主張する相殺の抗弁については、反対債権は認められないとしてこれを排斥し、被上告人の本件貸金請求(原審における請求の拡張部分を含む。)を認容する判決をした、(四) 上告人らは、原判決の全部につき上告の申立をした、というものであるところ、本件のように、訴求債権が有効に成立したことを認めながら、被告の主張する相殺の抗弁を採用して原告の請求を棄却した第一審判決に対し、原告のみが控訴し被告が控訴も附帯控訴もしなかつた場合において、控訴審が訴求債権の有効な成立を否定したときに、第一審判決を取り消して改めて請求棄却の判決をすることは、民訴法一九九条二項に徴すると、控訴した原告に不利益であることが明らかであるから、不利益変更禁止の原則に違反して許されないものというべきであり、控訴審としては被告の主張した相殺の抗弁を採用した第一審判決を維持し、原告の控訴を棄却するにとどめなければならないものと解するのが相当である。そうすると、本件では、第一審判決を右の趣旨において維持することとし、被上告人の本件控訴を棄却し、また被上告人の原審における請求の拡張部分を棄却すべきことになる。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官 全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    高   島   益   郎
            裁判官    大   内   恒   夫

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