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民法95条(錯誤)★

民法95条(錯誤)★

1 新旧対照表

旧<平成32年(2020年)3月31日まで>

(錯誤)
第九十五条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

新<平成32年(2020年)4月1日から>

(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

2 改正のポイント

ポイント ①効果を「無効」から「取消し」に変更
②判例上認められていた表示の錯誤と動機の錯誤の要件を明文化
③第三者保護要件(善意無過失)の明文化

3 解説

(1-A)要件事実【要件事実(表示の錯誤)】

①ⓐ意思表示に対応する意思を欠く錯誤(表示の錯誤)
②意思表示
③①と②との因果関係(←「に基づく」)
④錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること

(1-B)要件事実【要件事実(動機の錯誤)】

①ⓑ表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤)
②意思表示
③①と②との因果関係(←「に基づく」)
④錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること
⑤法律行為の基礎とした事情が,法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと

(2)要件事実【要件事実(抗弁…表意者重過失)】

①表意者の重過失

(3-A)要件事実【要件事実(再抗弁…相手方の悪意or重過失)】

①表意者の錯誤につき相手方の悪意or 重過失

(3-B)要件事実【要件事実(再抗弁…共通錯誤)】

①相手方と表意者とが同一の錯誤に陥っていたこと(いわゆる共通錯誤)

(4)表示の錯誤と動機の錯誤の区別を明確化

 条文にはないものの,判例(最判昭和29・11・26 民集8-11-2087)は,表示錯誤と動機錯誤とを区別し,動機錯誤については,動機が表示されて法律行為の内容になったといえなければ無効が認められないとしてきた。これを受けて,改正法では,いわゆる動機錯誤が95 条の対象になり得ること(民法95Ⅰ②。もっとも,改正法の解説書や改正法対応の教科書類では「事実錯誤」と述べるものも多い。),表示錯誤の場合に比して要件が付加されることを明文化(民法95Ⅱ。もっとも,この要件の理解をめぐっては以下の対立がある。)。なお,改正法は特定物ドグマ(「特定物売買において,瑕疵ある特定物の給付も,瑕疵のない完全な履行である」という考え)を放棄したと考えられていることら,特定物の性質も,意思表示の解釈次第では「意思」に含まれ得る。

(5)主観的因果性と客観的重要性を表現した

 改正前民法95 条にいう「法律行為の要素に錯誤があった」といえるのは,その錯誤がなかったならば表意者は意思表示をしなかったであろうと考えられ(主観的因果性),かつ,通常人であってもその意思表示をしないであろうと認められる(客観的重要性)ものをいうとするのが判例であったところ,改正法では,「に基づく」および「錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること」という要件で主観的因果性と客観的重要性とを表現(部会資料83-2・1~2頁。主観的因果性はもっぱら「に基づく」要件の問題なのか,それに加えて「法律行為の目的(…)に照らして重要なものであること」要件の問題でもあるのかについては,解説を見ても一致していないようである。)。

(6)相手方悪意の場合に表意者の重過失があっても取消主張ができる

 相手方が表意者の錯誤につき悪意であった場合には,表意者に重過失があっても錯誤無効を認めるのが通説であったところ,相手方に,表意者の錯誤につき重過失があった場合をも含めて取消しを認める旨の規定を創設(民法95Ⅲ①)

(7)共通錯誤の場合に表意者の重過失があっても取消主張ができる

 共通錯誤の場合には,表意者に重過失があっても錯誤無効を認めるのが通説であったところ,この旨を明文化(民法95Ⅲ②)。もっとも,双方が表示について同一の錯誤に陥っているならば,内心の意味に従って表示を解釈するのが通説であるから,錯誤の問題にはならない。そのため,共通錯誤が問題になるのは,実際上,意思表示それ自体を構成しない性質や理由の錯誤の場合に限られるとされる(中間試案の補足説明24 頁)。

(8)「無効」から「取消し」に変更

 改正前民法上の効果は「無効」であるが,判例24・通説は,ここにいう無効は相対的無効であるとしてきた。そこで,効果を無効から取消しに変更。

(9)第三者保護要件(善意無過失)の明文化

 従来第三者保護について民法96 条3項類推適用が主張されていたところ,これを明文化(民法96 条3項の要件を善意無過失としたことに併せて,民法95 条4項の要件も善意無過失とした。)。

(10)95 条2項(動機の錯誤)の学説

 95 条2項は,いわば妥協の産物であると考えられる。なぜならば,判例・実務を条文化するという立場を認めたとしても,判例・実務の理解自体が,ⓐ単に動機を表示していれば足りるということではないものの,動機が表示されていれば相手方にも,当該動機が重要であることについての認識可能性があるから無効になるのだという理解に立ちつつ,それで足りるとする立場と,ⓑ認識可能性のみをもって相手方にリスク転嫁することは許されず,相手方が了解していることを要するとする立場とに分かれていた。そこで,「表示」という文言を取り込むことでⓐの理解の成立可能性を認めつつ,ⓑの立場からも,「法律行為の基礎とされていることが表示され」たうえで,契約が成立する(=意思表示が合致する)のであれば,それはそのような事情を相手方が了解した,その事情を前提に契約を締結した(その事情について合意がないならば,そもそも契約が成立しないはずである)ものと理解し得るという,このような規定ぶりに落ち着いた。もっとも,最判平成28・1・12 民集70-1-1 は,「動機は,たとえそれが表示されても,当事者の意思解釈上,それが法律行為の内容とされたものと認められない限り,表意者の意思表示に要素の錯誤はない」としており,ⓑの理解に親和的な表現ではある。

(11)不実表示については規定せず

 中間試案では,不実表示に関するルールを錯誤の規定に取り込む形で,「表意者の錯誤が,相手方が事実と異なることを表示したために生じたものであるとき」には,動機表示や「法律行為の内容」化を問うことなく錯誤取消しを認める可能性を認めていた。これは,表意者の錯誤が相手方が事実と異なる表示をしたことによって引き起こされたときにも誤認のリスクは相手方が負うべきである(中間試案の補足説明14 頁。不実表示の立法化をめぐる議論については,同19~23 頁参照。)という考え方によるものであったが,この考え方が常に正当化され得るとは言い難いという指摘や,このルールが機会主義的に利用されるリスクがあるという指摘がなされ,最終的に立法化は見送られた(例えば,不実表示が一般法化された場合,保険契約締結時の告知義務違反とは関連のない事項に関する告知に関し不実表示による取消しが問題となり得る。)。もっとも,民法95 条の要件を充足する限り,不実表示による錯誤の場合の取消しが認められることはもちろん認められる。また,不実表示という事実は,「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」に当たるかどうかの検討にあたって考慮され得る。

(12)表明保証条項については規定せず

 契約の中に表明保証条項(契約当事者の一方が,契約締結時点における一定の事項について事実を表明し保証する内容の条項)があるときに,問題の事項について真実と反する状態であった場合,錯誤取消しが認められ得るのか,表明保証条項が優先されて損害賠償しか認められないのかについては議論がある。これについては,異論もあるが,ある事項について表明保証条項が設けられている場合には,その事項に真実と反する状態が認められたとしても契約の効力それ自体には関係がないということであって,「法律行為の基礎とした事情」には当たらず,錯誤取消しは認められないと考えれば足りるとする指摘がある。

経過措置

 施行日前にされた意思表示については,なお従前の例による(附則6Ⅰ)。

(意思表示に関する経過措置)
第六条 施行日前にされた意思表示については、新法第九十三条、第九十五条、第九十六条第二項及び第三項並びに第九十八条の二の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 施行日前に通知が発せられた意思表示については、新法第九十七条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

関連判例

最判昭和29年11月26日

事件番号 昭和27(オ)938
事件名 売買代金返還請求
裁判年月日 昭和29年11月26日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集等巻・号・頁 民集 第8巻11号2087頁


判示事項
 動機の錯誤と民法第九五条
裁判要旨
 意思表示の動機に錯誤があつても、その動機が相手方に表示されなかつたときは、法律行為の要素に錯誤があつたものとはいえない。
参照法条
 民法95条

最判平成28年1月12日

事件番号 平成25(受)1195
事件名 貸金返還請求事件
裁判年月日 平成28年1月12日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 その他


判示事項 
裁判要旨
 信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合において,信用保証協会の保証契約の意思表示に要素の錯誤がないとされた事例
参照法条 

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