民法109条(代理権授与の表示による表見代理等)

191114民法(債権法)改正

1 新旧対照表

旧<令和2年(2020年)3月31日まで>

(代理権授与の表示による表見代理)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

新<令和2年(2020年)4月1日から>

(代理権授与の表示による表見代理
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

2 改正のポイント

ポイント ①改正前民法109条・110条の重畳適用の判例(最判昭和45年7月28日)の明文化
②民法110条(権限外の行為の表見代理)は実質改正なし

3 解説

(1)改正前民法109条・110条の重畳適用の判例(最判昭和45年7月28日)の明文化

 改正前民法109 条と改正前民法110 条との重畳適用が判例(最判昭和45・7・28 民集24-7-1203)上認められていたところ,改正後民法は109 条と110 条との重畳適用を明文化(109Ⅱ)した。なお,民法109 条1項ただし書の悪意または過失については,民法109 条2項の「前項の規定によりその責任を負うべき場合」という要件の中で問題となるが,この悪意または過失の有無の判断と,「正当な理由」の有無の判断とは,実質的にはほぼ重なると考えられている。

(2)改正後民法109 条2項に関する指摘

 改正後民法109 条2項については,同項の要件を充足するような場合には,そもそも,問題の代理行為についての代理権授与表示を認定できる場合が多いのではないかという指摘は存在する。

(3)民法110条(権限外の行為の表見代理)は実質改正なし

 民法110条(権限外の行為の表見代理)は実質的な改正はない。

民法110条

(権限外の行為の表見代理)
第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

経過措置

 施行日前に無権代理人が代理人として行為をした場合におけるその無権代理人の責任については,なお従前の例による(附則7Ⅱ)

関連判例

最判昭和45年7月28日

事件番号 昭和44(オ)174
事件名 所有権移転登記手続請求
裁判年月日 昭和45年7月28日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻
判例集等巻・号・頁 民集 第24巻7号1203頁


判示事項
 白紙委任状および売渡証書などが濫用された場合に民法一〇九条、一一〇条の適用があるとされた事例
裁判要旨
 甲が、その所有の不動産を乙に売り渡し、乙の代理人丙を介して白紙委任状、名宛人白地の売渡証書など登記関係書類を交付したところ、右不動産の所有権を取得した乙から、これを丁所有の不動産と交換することを委任されて右各書類の交付を受けた丙が、これを濫用し、甲の代理人名義で丁との間で交換契約を締結したときは、丁において丙に代理権があると信じたことに正当の理由があるかぎり、甲は、丁に対し民法一〇九条、一一〇条によつて右契約につき責に任ずべきである。
参照法条
 民法109条,民法110条

191114民法(債権法)改正