民法112条(代理権消滅後の表見代理等)

191114民法(債権法)改正

1 新旧対照表

旧<令和2年(2020年)3月31日まで>

(代理権消滅後の表見代理)
第百十二条 代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。

新<令和2年(2020年)4月1日から>

(代理権消滅後の表見代理等)
第百十二条 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての
責任を負う。

2 改正のポイント

ポイント ①代理権消滅後の表見代理の規定の明確化
②善意の対象の明確化
③法定代理権の消滅の場合には不適用
④改正前民法112条・110条の重畳適用の判例(大判昭和19年12月22日)の明文化

3 解説

(1)代理権消滅後の表見代理の規定の明確化

 改正前民法では,見出しは「代理権消滅後の表見代理」となっているものの,条文が,109 条や110 条と異なり,代理権の消滅の対抗という規定ぶりになっていた。そこで,改正後民法では,109 条・110 条と同様に本人は「その行為についての責任を負う」と定めることで,表見代理に関する規定であることを明確化した。

(2)善意の対象の明確化

 改正前民法下では,善意の対象が,①「かつて存在した代理権が存在したことおよびその代理権が消滅したこと」なのか,②「代理行為時における代理権の不存在」で足りるのかについて議論があった。そこで,改正後民法では,善意の対象を明確化した(「代理権の消滅の事実」=かつて代理権が存在したこと+その代理権が代理行為前に消滅したこと)。

(3)法定代理権の消滅の場合には不適用

 改正前民法下では,法定代理権の消滅の場合に適用され得るかについても議論があった。改正法では,「他人に代理権を与えた者は」という規定になっているため,文言上は法定代理の場合の適用が排除されている。

(4)改正前民法112条・110条の重畳適用の判例(大判昭和19年12月22日)の明文化

 改正前民法112 条と110 条との重畳適用が判例(大連判昭和19・12・22 民集23-626)上認められていたところ,改正後民法では112 条と110 条との重畳適用を明文化(民法112Ⅱ)した。なお,改正後民法112 条1項ただし書の過失については,「前項の規定によりその責任を負うべき場合」という要件の中で問題となる。もっとも,この過失の有無の判断と,「正当な理由」の有無の判断とは,実質的にはほぼ重なると考えられている。

経過措置

なし

関連判例

大判昭和19年12月22日

191114民法(債権法)改正