民法117条(無権代理人の責任)
1 新旧対照表
旧<令和2年(2020年)3月31日まで>
(無権代理人の責任)
第百十七条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。
新<令和2年(2020年)4月1日から>
(無権代理人の責任)
第百十七条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
2 改正のポイント
②民法117条2項2号ただし書きで,判例(最判昭和62年7月7日)の補足
3 解説
(1)無権代理の証明責任の明文化
改正後民法117条1項(他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。)は,①自己の代理権を証明したとき、又は②本人の追認を得たとき,という2つの要件の主張立証責任だ代理人側にあることを明示した。
(2)民法117条2項2号ただし書きで,判例(最判昭和62年7月7日)の補足
判例(最判昭和62・7・7民集41-5-1133)は,「117 条による無権代理人の責任は,無権代理人が相手方に対し代理権がある旨を表示し又は自己を代理人であると信じさせるような行為をした事実を責任の根拠として,相手方の保護と取引の安全並びに代理制度の信用保持のために,法律が特別に認めた無過失責任であるところ」,相手方に過失がある場合に無権代理人を免責するのは,「無権代理人に無過失責任という重い責任を負わせたところから,相手方において代理権のないことを知つていたとき若しくはこれを知らなかつたことにつき過失があるときは,同条の保護に値しない」からであるとしていた。しかし,無権代理人が自己の代理権不存在について悪意なのであれば,無過失の無権代理人の責任が問題となっているのではないのであって,無権代理人を免責する必要はない。そこで,相手方に代理権不存在につき過失があった場合であっても,無権代理人が自己の代理権不存在につき悪意の場合には責任の成立を認めることとした。
経過措置
施行日前に無権代理人が代理人として行為をした場合におけるその無権代理人の責任については,なお従前の例による(附則7Ⅱ)
関連判例
最判昭和62年7月7日
事件番号 昭和60(オ)289
事件名 保証債務履行
裁判年月日 昭和62年7月7日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻
判例集等巻・号・頁 民集 第41巻5号1133頁
判示事項
一 民法一一七条二項にいう「過失」と重大な過失
二 無権代理人が民法一一七条一項所定の責任を免れる事由として表見代理の成立を主張することの許否
裁判要旨
一 民法一一七条二項にいう「過失」は、重大な過失に限定されるものではない。
二 無権代理人は、民法一一七条一項所定の責任を免れる事由として、表見代理の成立を主張することはできない。
参照法条
民法109条,民法110条,民法113条,民法117条1項,民法117条2項