民法93条(心裡留保)

191114民法(債権法)改正

1 新旧対照表

旧<令和2年(2020年)3月31日まで>

(心裡り留保)
第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

新<令和2年(2020年)4月1日から>

(心裡り留保)
第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

2 改正のポイント

ポイント ①判例(最判昭和44年11月14日)で認められていた第三者保護規定を明文化した。

3 解説

(1)93条ただし書き(真意ではないこと)

  現行法93 条ただし書の文言は,悪意・過失の対象を「真意」としているが,真意それ自体を知らなかった/知らなかったことに過失がなかったとしても,真意ではないことを知っていた/知らなかったことに過失があったならば,相手方の表示に対する信頼は保護に値しないといえるため,従来から,悪意・過失の対象は「真意ではないこと」だと解釈されてきた。そこで,ただし書の文言を修正した(真意を知り→真意ではないことを知り)。

(2)判例(最判昭和44年11月14日)の明文化(第三者保護規定)

 心裡留保による意思表示が無効となる場合における第三者保護については,判例(最判昭和44・11・14 民集23-11-2023)上,民法94 条2項類推適用が認められていたことを踏まえ,善意の第三者保護規定を新設した。

(3)非真意表示と狭義の心裡留保を区別して規定せず

 相手方が表意者の真意に気付いてくれることを期待している場合(非真意表示)と,表意者が相手方を誤信させる意図を持って自己の真意を秘匿する場合(狭義の心裡留保)との区別を設けるべきだとの議論がなされた。具体的には,前者の場合には相手方が善意無過失の場合のみ有効とし,後者の場合には相手方が善意の場合にのみ有効とするという提案がされたが,区別が難しい場合もあること等を理由に採用されなかった(中間試案の補足説明12~13 頁)。

経過措置

 施行日前にされた意思表示については,なお従前の例による(附則6Ⅰ)。

(意思表示に関する経過措置)
第六条 施行日前にされた意思表示については、新法第九十三条、第九十五条、第九十六条第二項及び第三項並びに第九十八条の二の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 施行日前に通知が発せられた意思表示については、新法第九十七条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

関連判例

最判昭和44年11月14日

事件番号 昭和42(オ)694
事件名 約束手形金請求
裁判年月日 昭和44年11月14日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻
判例集等巻・号・頁 民集 第23巻11号2023頁


判示事項
代理人が権限を濫用して約束手形の振出人のためにした手形上の保証と手形受取人に対する国税滞納処分として手形を差し押えた国に対する保証人の責任
裁判要旨
代理人が、自己の利益をはかるため、代理権限を濫用して、約束手形の振出人のために、本人名義で手形上の保証をした場合において、代理人から手形の交付を受けた手形受取人が権限濫用の事実を知りうべきであったときは、受取人に対する国税滞納処分として右手形を差し押えて占有するに至つた国において、差押当時受取人の知情の点につき善意であつたことを主張立証しないかぎり、本人である保証人は、国に対し、手形上の保証による責任を負わない。
参照法条
民法93条但書,民法94条2項,手形法77条3項,手形法32条

191114民法(債権法)改正