【目次】相続登記の必要書類一覧表
第1 相続登記の必要書類一覧表
相続登記の必要書類一覧表 |
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◎原則必要書類 |
(01)相続関係に関する書類 □被相続人の出生から死亡までの戸籍 ★戸籍…戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍 □被相続人の本籍地記載ありの住民票の除票 (又は□被相続人の戸籍の附票) ★登記簿上の住所と一致させるため ★被相続人の除票が取得できない場合 ★令和4年1月11日から戸籍の附票取得時に「筆頭者」「本籍地」記載ありにする □法定相続人全員の現在戸籍謄本 □法定相続人の本籍地記載ありの住民票の写し (又は□法定相続人の戸籍の附票) ★令和4年1月11日から戸籍の附票取得時に「筆頭者」「本籍地」記載ありにする (02)不動産に関する書類 □登記簿謄本(登記記録) □固定資産税課税明細書 (又は□固定資産評価証明書・評価通知書) (03)登記を放置していたときの書類 ★登記…相続登記・住所変更登記など □登記済証(登記済権利証) □不在籍・不在住証明書 □上申書(相続人全員) |
遺産分割協議 |
(01)遺産分割協議による場合 □上記原則必要書類 □遺産分割協議書(相続人全員) □相続人全員の印鑑証明書 (02)上記かつ未成年者がいる場合 □上記原則必要書類 □遺産分割協議書(相続人全員) □未成年者を除く相続人全員の印鑑証明書 □特別代理人選任審判書 □特別代理人の印鑑証明書 |
遺言による「相続」 |
(00)遺言関係に関する書類 □被相続人の死亡記載のある戸籍 ★戸籍…戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍 □被相続人の本籍地記載ありの住民票の除票 (又は□被相続人の戸籍の附票) ★登記簿上の住所と一致させるため ★被相続人の除票が取得できない場合 □相続人の現在戸籍謄本 □相続人の本籍地記載ありの住民票の写し (又は□相続人の戸籍の附票) □上記原則必要書類の(02・03) (01)自筆証書遺言による場合 □検認済自筆証書遺言 □上記遺言関係に関する書類 (02)公正証書遺言による場合 □公正証書遺言(正本・謄本) □上記遺言関係に関する書類 (03)遺言執行者が選任されている場合 □遺言執行者の選任審判書 ★遺言者の死亡を証する書面(戸籍謄本など)は添付不要 ★遺言書は遺言執行者の選任審判書だけでは、遺言の内容が不明な場合のみ添付必要 □被相続人の本籍地記載ありの住民票の除票 (又は□被相続人の戸籍の附票) ★登記簿上の住所と一致させるため ★被相続人の除票が取得できない場合 □相続人の現在戸籍謄本 □相続人の本籍地記載ありの住民票の写し (又は□相続人の戸籍の附票) |
遺言による「遺贈」 |
<01>相続人に対する遺贈の場合 □被相続人の死亡記載のある戸籍 □被相続人と相続人の繋がりを証する戸籍 ★戸籍…戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍 □被相続人の本籍地記載ありの住民票の除票 (又は□被相続人の戸籍の附票) ★登記簿上の住所と一致させるため ★被相続人の除票が取得できない場合 □相続人(受遺者)の現在戸籍謄本 □相続人(受遺者)の本籍地記載ありの住民票の写し (又は□相続人(受遺者)の戸籍の附票) □上記原則必要書類の(02・03) <02>相続人以外に「遺贈」する場合 (01)遺言執行者が選任されている場合 □遺言執行者の選任審判書 ★遺言者の死亡を証する書面(戸籍謄本など)は添付不要 ★遺言書は遺言執行者の選任審判書だけでは、遺言の内容が不明な場合のみ添付必要 □被相続人の本籍地記載ありの住民票の除票 (又は□被相続人の戸籍の附票) ★登記簿上の住所と一致させるため ★被相続人の除票が取得できない場合 □登記済証(登記済権利証) □遺言執行者の印鑑証明書(発行後3か月以内) □受遺者の住民票の写し (又は□受遺者の戸籍の附票) □上記原則必要書類の(02・03) (02)遺言執行者が選任されていない場合 □被相続人の出生から死亡までの戸籍 ★戸籍…戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍 □被相続人の本籍地記載ありの住民票の除票 (又は□被相続人の戸籍の附票) ★登記簿上の住所と一致させるため ★被相続人の除票が取得できない場合 □法定相続人全員の現在戸籍謄本 □登記済証(登記済権利証) □相続人全員の印鑑証明書 □受遺者の住民票の写し (又は□受遺者の戸籍の附票) □上記原則必要書類の(02・03) |
相続放棄 |
(01)相続放棄をした相続人がいる場合 ◎原則必要書類(01)が下記のとおりになる □相続放棄申述受理証明書 (又は□相続放棄申述受理通知書) (又は□相続放棄等の申述有無についての照会に対する家庭裁判所からの回答書」) □被相続人の出生から死亡までの戸籍 ★戸籍…戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍 □被相続人の本籍地記載ありの住民票の除票 (又は□被相続人の戸籍の附票) ★登記簿上の住所と一致させるため ★被相続人の除票が取得できない場合 □法定相続人全員の現在戸籍謄本 □法定相続人の本籍地記載ありの住民票の写し(ただし、相続放棄をした相続人を除く) (又は□法定相続人の戸籍の附票(ただし、相続放棄をした相続人を除く)) |
特別受益 |
(01)特別受益者がいる場合 □特別受益証明書 □特別受益者の印鑑証明書 □その他の書類は上記の例による |
寄与分 |
(01)寄与分がある場合 □寄与分協議書 □相続人全員の印鑑証明書 □その他の書類は上記の例による |
相続分の譲渡 |
(01)相続分の譲渡がある場合 □相続分譲渡証明書 □譲渡者の印鑑証明書 □譲受人の住民票の写し (又は□譲受人の戸籍の附票) □その他の書類は上記の例による |
遺産分割調停・審判 |
(01)遺産分割調停・審判をした場合 □家事審判書または調停調書の謄本 ★被相続人の死亡を証する書面(戸籍謄本など)は原則添付不要 ★相続人であることを証する書面(戸籍謄本など)は原則添付不要 ★登記義務者となるべきが者がいても義務者の印鑑証明書が不要 □その他の書類は上記の例による |
相続欠格(◇判決書等による場合) |
(01)相続欠格者がいる場合 □相続欠格証明書 □相続欠格者の印鑑証明書 (◇刑事裁判事件の判決書の謄本) |
相続人の廃除 |
(01)相続人の廃除がされている場合 □廃除が記載されている戸籍 |
遺留分減殺(◇判決による場合) |
(01)遺留分減殺請求がされている場合 □遺留分減殺請求行使証明書 □相手方の登記識別情報(又は登記済証) □相手方の印鑑証明書 (◇□判決書正本+確定証明書) ★令和元年(2019年)7月1日以降について開始した相続については、遺留分減殺請求は認められず、金銭請求である遺留分侵害額請求のみしか認められません。 ★令和元年(2019年)6月30日以前について開始した相続については、施行日以降に請求する場合でも、従前の規定が適用されます。したがって、令和元年(2019年)6月30日以前に開始した相続については、従前どおり遺留分減殺を原因とする所有権移転登記申請することは認められています |
第2 相続登記の必要書類をわかりやすく説明
1.法定相続による場合
(1)登記原因証明情報(平成17年2月25日民二第457号)
法定相続による場合には、登記原因証明情報として、被相続人の死亡から出生に遡るまでの戸籍(除籍)謄本(全部事項証明書)及び相続人全員の戸籍抄本(一部事項証明書)を添付し、被相続人と相続人とのつながりを証明しなければなりません。これらの書面は、相続関係説明図を添付して、原本還付を受けることができます(平成17年2月25日民二第457号、相続関係説明図に各相続人の持分を記載することにつき「登記研究」テイハン468号95頁)。
また、戸籍上の被相続人と登記名義人との同一性を証するため、さらに本籍地と登記記録上の住所との関連を証する住民票(除票)の写しまたは戸籍の附票等(住基法12,20)を添付するのが通例となっています。なお、相続人の範囲または相続分に修正があった場合には、必要に応じ当該事実を証する情報を提供することになります。
(2)住民票の写し
相続人の住所を証する情報として、住民票の写し等を添付しなければなりません。オンライン申請をすることができる旨の法務大臣の指定 を受けた登記所においては、住民票コードを申請情報の内容とした場合には、住所証明書(住民票の写し等)の添付を省略することができます。
(3)代理権限証書
委任による代理人によって登記を申請するときは、代理権限を証する情報として、委任状を添付しなければなりません。法定代理人による場合には、親権者については戸籍謄本が、家庭裁判所の選任に係る代理人についてはその選任審判書謄本(即時抗告ができるものにあっては、確定証明書を含む)または登記事項証明書が、代理権限を証する情報となる。なお、官公署作成のものは、作成後3か月以内のものでなければなりません。
2.遺産分割協議による場合
(1)登記原因証明情報(昭和30年4月23日民甲第742号民事局通達)
原則
「登記原因証明情報」として、(1)被相続人の死亡から出生に遡るまでの戸籍(除籍)謄本(全部事項証明書)及び相続人全員の戸籍抄本(一部事項証明書)を添付し、被相続人と相続人とのつながりを証明しなければなりません。また、(2)遺産分割協議書を添付します。遺産分割協議書を登記の申請に用いるときは、当該書面に押された印鑑についての(市区町村長作成の)証明書を添付する(昭和30年4月23日民甲第742号民事局通達)。ただし、印鑑証明書を提出しない者に対する証書真否確認の勝訴判決をもって代えることもできます(昭和55年11月20日民三第6726号)。
遺産共有状態が登記された後に遺産分割協議が成立したときは、理論上は、共同申請であるため、登記義務者が管轄法務局に対し遺産分割協議が成立したことを報告する形式の証明書であっても足りるはずですが、実務上は、遺産分割協議書を作成し、提出します。
なお、登記原因証明情報として、「法定相続人全員の住民票」が必要か否かは、法務局によって取扱いが異なるところでしょうが、現時点では、「法定相続人全員の住民票」は不要である、とする法務局が多数だと思われます。もっとも、「法定相続人全員の住民票」を取得しておくことで、より真正が担保されるので、「法定相続人全員の住民票」は取得しておいた方がよいと考えられます。
例外:所有権更正【令和5年3月28日民二538】
令和5年4月1日より、法定相続分での相続登記がされている場合において、「年月日【遺産分割の協議若しくは調停の成立した年月日又はその審判の確定した年月日】遺産分割」を原因とする登記をするときは、所有権の更正の登記によることができることとなり、また、登記権利者が単独で申請することができることになった(令和5年3月28日法務省民二第538号)。
この場合、登記原因証明情報は、「遺産分割協議書(当該遺産分割協議書に押印した申請人以外の相続人の印鑑に関する証明書を含む。)」、「遺産分割の審判書の謄本(確定証明書付き)」、「遺産分割の調停調書の謄本」となる。
(2)住民票の写し
相続人の住所を証する情報として、住民票の写し等を添付しなければなりません。オンライン申請をすることができる旨の法務大臣の指定 を受けた登記所においては、住民票コードを申請情報の内容とした場合には、住所証明書(住民票の写し等)の添付を省略することができます。
(3)代理権限証書
委任による代理人によって登記を申請するときは、代理権限を証する情報として、委任状を添付しなければなりません。法定代理人による場合には、親権者については戸籍謄本が、家庭裁判所の選任に係る代理人についてはその選任審判書謄本(即時抗告ができるものにあっては、確定証明書を含む)または登記事項証明書が、代理権限を証する情報となる。なお、官公署作成のものは、作成後3か月以内のものでなければなりません。
3.遺言(遺贈)による場合
(1)登記原因証明情報
原則
「登記原因証明情報」として、①遺言書及び②遺贈者・受遺者の戸籍謄本等を添付します。
なお、遺贈者・受遺者の戸籍謄本等については、被相続人と受遺者とのつながりを証明すべきか否かによってことなります。
具体的には、遺言によって、「相続」を原因とする登記を行う場合には、被相続人の死亡を証する戸籍及び受遺者の戸籍を添付し、被相続人と受遺者とのつながりを証明しなければなりません。一方で、遺言によって、「遺贈」を原因とする登記を行う場合には、被相続人と受遺者とのつながりを証明する必要はないため、被相続人の死亡を証する戸籍のみで足ります。
例外:相続人に対する遺贈
令和5年4月1日より、「遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)」による所有権の移転の登記は、不登法第60条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができることとされました(改正不登法第63条第3項)。そして、この場合、①遺言書、②相続人の死亡を証する戸籍及び受遺者の戸籍(被相続人と受遺者とのつながりを証明が必要)を添付します。
(2)登記済証または登記識別情報通知
遺贈による移転登記においては、遺言者が登記名義を取得した際に通知された登記識別情報(又は登記済証)を提供する(不登法22本文)。
(3)印鑑証明書
書面申請による場合には、登記義務者となる所有権の登記名義人が申請書または委任状に押印した印鑑について、市区町村長または登記官の作成した印鑑証明書(作成後3か月以内のもの)を提供しなければなりません。
遺贈による移転登記では遺言者はすでに死亡しているため、遺言執行者がいる場合には遺言執行者の、いない場合には相続人全員の印鑑証明書を添付することになります。
(4)住民票の写し
受遺者の住所を証する情報として、住民票の写し等を添付します。住民票コードを申請情報の内容とした場合には、添付は不要となります。
(5)代理権限証書
委任による代理人によって登記を申請するときは、代理権限を証する情報として、委任状を添付しなければなりません。
また、遺言執行者がいる場合には、その者の代理権限を証明する必要もあります。具体的には、①遺言により遺言執行者が指定されている場合には遺言書及び遺言者の死亡を証する戸籍謄本等が、②遺言に基づき第三者が遺言執行者を指定した場合には遺言書及び戸籍謄本等に加えて第三者の指定書が、③家庭裁判所により遺言執行者が選任された場合は遺言書及び選任審判書が(昭和44年10月16日民甲第2204号)、これに該当する。遺言執行者がいない場合には相続人全員が申請人となるため、相続人による登記に準じ、遺言者と相続人との関係を証する情報を提供しなければならない。
4.その他の場合による必要書類
(1)相続放棄
相続放棄を証する書面
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相続登記の際には、相続放棄をした相続人が相続放棄をしたことがわかる書面が必要だと思いますが、当該相続放棄を証する書面とは、具体的にどのような書面でしょうか?
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「相続放棄申述受理証明書」、「相続放棄申述受理通知書」又は「相続放棄等の申述有無についての照会に対する家庭裁判所からの回答書」が必要となります。相続放棄の詳細につきましては、【「相続放棄」の窓口】をご覧ください。
相続登記の際に相続放棄をした人の戸籍謄本は必要か
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「相続放棄申述受理証明書」、「相続放棄申述受理通知書」又は「相続放棄等の申述有無についての照会に対する家庭裁判所からの回答書」があれば、相続登記の際には、相続放棄をした人の戸籍謄本が不要になると思えるのですが、相続放棄をした相続人の戸籍謄本は必要ですか?
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相続登記の際には、「相続放棄申述受理証明書」、「相続放棄申述受理通知書」又は「相続放棄等の申述有無についての照会に対する家庭裁判所からの回答書」に加えて、相続放棄をした人の戸籍謄本(又は法定相続情報一覧図)が必要です。
相続放棄合意書など【昭和28年4月25日民甲第697号】
(2)特別受益
1.特別受益証明書【昭和28年8月1日民甲第1348号】
ある相続人が特別受益者に当たるとして、法定相続分と異なる割合の相続分による相続登記の申請をするときは、登記原因証明情報の一部として、特別受益者の「自己に相続分がないこと」(=特別受益証明書)を証する書面を添付する(不登法61、不登令7①五ロ、同別表二十二、昭和28年8月1日民甲第1348号回答)。
2.印鑑証明書【登記研究506号149頁】
特別受益証明書(相続分皆無証明書)を登記の申請に用いるときは、当該書面に押された印鑑についての(市区町村長作成の)証明書を添付する(『登記研究」テイハン506号149頁)。
3.特別受益証明書の作成能力者
(1)市区町村に印鑑登録のある未成年者(本件回答の事例では満17歳)が作成した特別受益証明書に当該印鑑の証明書を添付して登記の申請がされたときは、当該申請は受理される。昭和40年9月21日民甲第2821号回答)。
(2)児童福祉施設の長は、当該施設に入所中の児童である未成年者のために、相続分がないことの証明書を作成することができる(昭和42年12月27日民甲第3715号回答)。
(3)精神障がい者の保護者(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律20)は、その精神障がい者のために特別受益証明書を作成することができない(「登記研究」テイハン552号137頁。もっとも、精神障がい者の親権を行う保護者が親権者の立場で作成することは可能である)。
(4)不在者財産管理人(民25)は、その不在者のために特別受益の証明をすることができず(「登記研究」(前掲)446号121頁)、不在者財産管理人作成の特別受益証明書を添付して相続登記の申請をすることはできない(「登記研究」(前掲)450号126頁)。
(5)親権者がその親権に服する特別受益者である未成年の子と共同相続をする場合(被相続人の配偶者及び子が相続人となる場合等)において、親権者がその子とともに(または、その法定代理人として)特別受益の存在を証明することは、利益相反取引(民826)に当たらない。したがって、子のために特別代理人を選任する必要はなく(昭和23年12月18日民甲第95号回答)、証明書には、親権者の押印があれば足りる。
(3)寄与分
寄与分協議書は、遺産分割協議に参加すべき者全員で作成しなければなりません。遺産分割協議書に代えて、寄与分協議書を登記の申請に用いるときは、書面に押された印鑑についての(市区町村長作成の)証明書を添付する(昭和55年12月20日民三第7145号)。
(4)相続分の譲渡
相続分の譲渡人(登記義務者)は、本書面に押した印鑑について市区町村長の証明書を添付しなければならないが(相続分の譲受人の印鑑証明書は不要である。昭和59年10月15日民三第5195号回答)、有効期限に関する規定は適用されません(「登記研究」テイハン523号139頁)。なお、相続分の譲渡人が本書面を作成する前に死亡したときは、その相続人全員において同趣旨の書面を作成し、各自の印鑑証明書を添付したものが代替となります(「登記研究」(前掲)544号105頁)。
相続分の譲渡は、単独行為ではない
登記実務上、譲渡人単独名義の相続分譲渡証書でも申請が受理されていますが、本来は、相続分譲渡は消極財産の移転(債務引受)を含むため実体法的には譲渡両当事者の契約の形式でしなけれなりません。遺産分割協議調停・審判では、単独名義の相続分譲渡証明書で、譲受人の意思確認ができない場合、譲渡の事実が認められないことがあります。
(5)相続分の放棄
令和4年1月時点では、「相続分の放棄」については、登記実務上は「相続分の放棄」を登記原因とした登記申請は認められず、「相続分の放棄証明書」を作成しても登記できません。相続分の放棄は、家庭裁判所では認められているが、民法上の根拠がないからだと考えられます。
(6)調停・遺産分割審判
家事審判書または調停調書の謄本を添付しなければならない。なお、被相続人と相続人とのつながりを証明する戸籍謄本等を添付する必要はない。
(7)相続欠格
相続欠格証明書が必要になります。相続欠格者が自ら作成した証明書であって、その者が市区町村に登録した印鑑を押し、当該印鑑の証明書を添付したもの、または判決書の勝本及び当該判決が確定したことを証する書面を添付する(昭和33年1月10日民甲第4号民事局長心得通達)。刑事裁判事件の判決書の内容の要旨及び判決が確定した旨を検察庁の事務官が証明した書面でも差し支えありません(「登記研究」テイハン634号149頁。なお、関係人は、検察庁においても、刑事裁判事件の判決書の謄本または抄本の交付を受けることができます。記録事務規程(法務省訓令)30参照)。
(8)廃除
相続人廃除を証明する書面が必要となります。もっとも、廃除は戸籍に記載されますので、被相続人の死亡から出生に遡るまでの戸籍(除籍)謄本(全部事項証明書)及び相続人全員の戸籍抄本(一部事項証明書)により証明できます。
(9)遺留分減殺
登記原因証明情報としての遺留分減殺請求権の行使があったことを証する書面及び被相続人と遺留分権利者との関係を証する戸籍謄本等(不登法61、昭和30年5月23日民甲第973号)、相手方が登記名義を取得した際の登記識別情報、相手方の市区町村長作成による印鑑証明書、被相続人の住所を証する情報としての住民票の写し等が添付情報となる。
判決による単独申請の場合には、確定証明書付の判決正本を登記原因証明情報とし、登記義務者の登記識別情報及び印鑑証明書は不要となる。なお、登記の申請を委任による代理人により行う場合には、申請当事者からの委任状を添付する。
【遺留分減殺についての注意点】
★令和元年(2019年)7月1日以降について開始した相続については、遺留分減殺請求は認められず、金銭請求である遺留分侵害額請求のみしか認められません。
★令和元年(2019年)6月30日以前について開始した相続については、施行日以降に請求する場合でも、従前の規定が適用されます。したがって、令和元年(2019年)6月30日以前に開始した相続については、従前どおり遺留分減殺を原因とする所有権移転登記申請することは認められています。
(10)外国の戸籍謄本等の場合の原本還付【登記研究778号147頁】
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相続登記の際の登記原因証明情報に外国の戸籍謄本等がある場合には、当該外国の戸籍謄本等の写しは必要ですか?
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外国人から相続による権利の移転の登記が申請された場合において、登記原因証明情報として相続関係説明図が添付されていても、外国の官憲が作成し、又は外国で発行された戸籍謄本等の書面の写しが添付されていなければ、これをもって原本を還付することはできない(登記研究778号147頁)と考えられています。
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続きを読む被相続人の同一性を証する書面(平成29年3月23日付法務省民二第175号)
目次【平成29年3月23日付法務省民二第175号】
1.原則《被相続人の同一性を証する書面》
(1)住民票の除票の写し
(2)戸籍の附票の写し
(3)所有権に関する被相続人名義の登記済証
2.例外《被相続人の同一性を証する書面》
(1)不在籍証明・不在住証明
(2)被相続人の同一性に関する上申書
(3)納税証明書
3.余談《被相続人の同一性を証する書面》
(1)相続登記の前提登記としての名変【昭和43年5月7日民甲第1260号】
(2)遺贈の登記の前提登記としての名変